――リンリンリン、と。鈴の音が鳴った。
「あ、フロントからねぇ」
リズは、出ないの? という顔でこちらを見ている。
完全にリラックス状態の、ソファにとろけて横になった姿で。
「ていうか、電話あるんだ……」
「王都では普通よぉ」
……そうだった。
こっちの方が文明進んでるんだった。
綺麗な音の鳴る方を見ると柱にモニターが付いていて、支配人の姿が映っている。
どこに触れればコールを取れるのか、初見でも分かるように表示されていた。
「はい――」
「おくつろぎの所、失礼いたします。支配人のウレインでございます」
そういえば、初めて名前を聞いた気がする。
「はい、何かありましたか?」
急患だろうか、それくらいしか呼ばれる理由がない。
「昨日の今日で申し訳ないのですが、急患を診ていただきたく、ご連絡致しました。聖女様のお力を、どうか……お貸しください」
様子が、昨日と違う。
モニターに映る表情は落ち着いているけど、それでも切迫した雰囲気が滲み出ている。
「すぐに向かいます。フロントに降りますね」
「お仕事ぉ? がんばってねぇ」
「もう。お気楽さんなんだから」
「だぁってぇ。ここ、最高なんだもぉん」
私も、慣れてしまったらああなってしまうのかと、少し気が引き締まった。
「……お姉様も普段はあんなですよ」
「えっ」
シェナはシレっとそう言った。
それが何か? という感じで。
そして、私の剣を両手に抱えている。
「こちら、お持ちしますね」
付いて来てくれるらしい。
「うん、ありがと」
――私の扱いに、磨きがかかってきてるわね。
**
「聖女様。早速で申し訳ありません。あちらの救護室にお願いします」
一階でエレベーターの扉が開くや否や、すでに支配人のウレインが待機していた。
「ど、どんな状況ですか?」
取り乱す姿を想像できないウレインの、この焦り方から事態はよろしくなさそうな気がした。
もしも治癒が間に合わなければ、普通に死んでしまう。
「左腕欠損。止血が上手く行かず、出血多量で一刻を争います」
走り出したいだろうに、私を気遣ってか、早足でとどめているウレイン。
「そ、それなら走って! 一秒も無駄に出来ないでしょ!」
「はい! ありがとうございます!」
そして駆けつけた救護室には、初老の男性が青い顔をしていて、横たえられていた。
タオルを二人掛かりで押さえつけているけど、血で真っ赤に染まっている。
「は、離れてください! 再生させます!」
――渾身の魔力を込めて、治癒魔法を施す。
まばゆい光が男性を包んで、その体に吸い込まれるようにして、数秒もしないうちに集束して消えた。
「お、おおおお……レモンド……おおお!」
失われた左腕は、きちんと再生されていたのでホッとした。
――生きてる。
もしも、間に合わなかったら……腕も傷も、再生されずに死んでいた。
「う……ウレイン……」
かすれ声で、男性は支配人の名を呼んだ。
「無茶をするなと、あれほど言っただろう」
支配人は、安堵と呆れとが混じった声で言った。
今は、男性以上に憔悴している。
「まったく、ほんとに。何をしたら腕が吹き飛ぶんですか」
私は聞きながら、必要以上に魔力を使ってしまったのか、シェナの肩を借りた。
何かで切断してしまったのなら、腕も持って来ただろう。
地球よりも少し進んだ世界なのだから、尚更だ。でも、それが無いのだから。