「いやぁ……面目ありません。こんな姿で、失礼します、聖女様。助けていただいて、本当にありがとうございます」
失った血も再生したから、そろそろ巡った頃合いだろう。かすれ声から、おそらくは普段の低いしゃがれた声になっている。
「あっしは、技術者をやっとります。レモンドと申します。と言っても、元日本人ですが。名前は、ここに来た記念に変えました」
そういえば、支配人のウレインも転生者で、もしかしたら元日本人だろうか。
二人とも、日本人とはかけ離れた姿だから、言われなければ分からない。
レモンドは、がっしりとした工夫のような体つきで、背も高い。
白髪交じりの短い金髪で、青い目をしているのだから。
「なぁに、新しい輸送システムの実験で……」
……輸送で腕が吹き飛ぶとは?
「聖女様……このレモンドという男、空間転移が実現すれば、輸送業界が激変するなどと言って、やめろと言ってもきかないのでございます」
「――転移?」
「はい! もう一息なんですよ! でも、お陰でこの有様ですがねぇ……」
本来の転移なら、体が千切れるようなことにはならない。
先に座標を結ぶから、向こうに何もないかを確認も出来るのが転移だし。
「それ、根本的に理論が間違ってます。人の手を離れた力は、使ってはいけません」
かなりの魔力も使う。
転生者といえど、その魔力は魔族に比べてかなり少ないし、緻密なコントロールも出来ないから、きっと永遠に使えるようにはならない。
勇者や黒い人でさえ、見た限り、おおざっぱな魔法しか使えないようだったし。
火柱とか、何かを飛ばすとか、力を解放するだけのコントロールで精一杯だった。
「そ、そりゃあ一体……ってことは、聖女様は詳しくご存知なんで?」
――あぁ。やぶ蛇だった。
「えぇっと……。魔力不足に、コントロール不足です。費用対効果は大赤字では済みませんよ。一回使うごとに会社を潰す気ですか?」
――適当に言ったけど、魔力も電力も、たくさん使うとお金が掛かるわよね?
「そ、そんなに魔力が必要なんですかぃ?」
「ちなみに、あのエレベーターを浮かせる魔力はおいくらですか?」
私はレモンドに小さく頷いて、そしてウレインに聞いた。
「あれはたしかに、魔力で全て賄うと大赤字です。ですが、システムは単純ですので、魔法回路を組み込んで、エネルギーは電力で賄っておりますから……エネルギーコストだけで言えば、ほとんどタダみたいなものですね」
うん。だんだん分からなくなってきちゃった。
「電気は……タダなんですか?」
原子力発電所とか、作っちゃったのかな。
それでもタダとはいかないはず。
「ええ。魔工科学は、魔力の存在のお陰でかなり進んでおりまして。核融合炉の成功に加え、小型化までこぎつけましたから。この王都……商業区の地下に、核融合路を備えております。地球では夢の技術でございましたが」
私の時代でも、まだ成功していませんでしたよそれ……。
たしか、ものすごくクリーンに、そして物凄く電気を生み出せると言っていたような。
――頭が痛くなってきた。
「それでも、大量の魔力を集める技術は失われてましてなぁ。そのせいで、魔法そのものの理解なんかが追い付いておらんのです」
「レモンドさん。それがなぜ失われたのか、歴史をご存知ですか?」
もしかしたら、魔族に伝わっている歴史は、人の世界では全く別のものだったり、もしくは伝わっていないかもしれない。
魔力を暴走させて国ごと滅んだ上に、広大な土地も死なせてしまったことを。
「そ、そりゃあもちろん。科学と歴史は、切っても切れませんで。歴史学専門の者もおりますけぇ、随分と教わったもんです」
それなら、照らし合わせてみたい。
けど……。
「あの……話の途中なんですけど。おなかが減ってきちゃったから、その後でもいいですか?」
頭もパンクしそうだし、ちょっともう限界。
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