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「俺の事好きだったら、俺の今の恋愛邪魔するんだ。それさ、もし俺が春美さんと別れたとしても次の恋人からあいつは除外するじゃん。そんなことがわからないわけ」
「冷静さを欠くくらいあなたを好きなんでしょ。……ほら、あなたって人を狂わせるんじゃない? 」
茶化してフォローしたつもりが広睦くんは黙ってしまった。
「何で言い返さないんですか」
「何でって、うーん……私たちもうすぐ別れるの、とでも言えばよかった? 昔モテなかったのも、同年代に相手されてないのも事実よ」
「違うよ。普通若い男に言い寄られたら断らないってところ。断ったって言えばいいじゃん、でも俺がしつこくて折れたって……」
「随分前から聞いてたのね」
「春美さんが何て言うか聞きたかったんです。何も言わないんだね」
「でもまぁ、思い当たることもあったりで、でも思ったこと初対面の相手に伝えちゃうとことか、きっとそのうち若かったなって黒歴史になると思うよ」
広睦くんは納得するようなしないような表情で掴んでいた私の腕を離すと、手を繋ぎ直した。
「んだよ」
「だって、怒ったら思うつぼだよ。あの子は私たちを別れさせたいんだから。広睦くんとはいつか別れるにしても原因は彼女たちじゃない方がいい。でしょ」
「うん。……そうだね。せっかく楽しみにしてたデート、自分で台無しにしてる場合じゃなかったな。ごめんなさい」
「私も」
私は何も言えなかったけど、広睦くんが彼女たちに強く出てくれたことでいくらか救われた。でも、私が逆の立場なら口に出すかはともかく同じことは思ったかもしれない。年齢差って、やぱり特殊な関係に見えるんだろうな。
一緒にいて楽しいし嬉しいと思う。けど、こうしてふとした時に現実を思い知らされる。あの子の言ったことは間違っていない。
――街の雑踏を抜け、人気のないベンチに座る。
季節がまた進んだなあ。ベンチに影をつくる街路樹の緑が濃くなった気がする。
私より広睦くんが目に見えて落ち込んでしまったので私は気持ちを割り切ることにした。いつもは何も考えてない強気な無法者がしょげてるのは、可愛い。って言ったら怒るだろうな。
「広睦くん、年上が好きって公言してるんだ」
「やー、好みのタイプとか色々質問されて『年下と年上どっちが好き? 』つーから適当に言っただけで、どっちでも。相手による。幼稚なのは勘弁」
「ふーん」
私のふーんが気に入らなかったのかチッと舌打ちする。立ち上がると座ったままの私に顔を向けた。
「春美さんは、年上だから、じゃなくて俺の事を好きだって春美さんから言ってきたからこっちがその気になっただけで、年上だったからじゃないって。パッと見で年齢わかんなかっただけで」
「……う、ごめんって」
本当にどうしてこの子が都合よく同世代に見えたのかしら。
「春美さんも告ってくるにしちゃ早いだろ。そういや、なんで声かけようと思ったの。もう、見てるだけじゃ無理なくらい感情煮詰まった? 」
反撃する気満々で腕を組んでニヤニヤする姿に吹き出す。やっぱり、可愛いんだけど。広睦くんの望む答えはあげられないかもしれないけど正直に話ことにした。
「あの時さ、やっぱり恋愛ってタイミングだなってことが重なったの」
「タイミング。まあ、そうだな」
「先手必勝! じゃないけど。もう出遅れて後悔はしたくないなって」
ここから私はあの日の事を広睦くんに話した。
私が広睦くんに告白しようと決心したあの日の出来事。同僚の結婚式で再会した先輩、橘さんのこと。いつも仲良くしていた三宅くんの事。……それから高校時代ずーっと片思いしていた眞鍋くんが同窓会で実は向こうも私を好きだったって教えてくれたこと。
「でさ、そうだったんだってしんみりしたのは私だけでね、先輩はとっくに結婚しているし、同期も結婚が決まって。同級生は2児の父。私だけ過去を振り返ってあの時私が気持ちを伝えていれば……ってどうしようもないことで悩んだの。それが悔しくって。後悔は次に生かすべきだって思ったの。この年になるといいなって思える人すらなかなか出来なくて……それで……」
「なるほど。逃したくないもんな。俺みたいな……イケメン? 」
「ははは。そうだけど、そうだよ」
「はは、なんだそれ。まぁ、わからんでもないよ。その先輩、同期、同級生。近くに春美さんいたらそりゃあ恋心抱くよな」
「え、そうかなモテなかったよ私」
「違う、違う。モテてるのに気づかなかったタイプ。近くにいると……ほら、俺がいい例じゃん」
さらりと言われてカッと顔が熱くなる。そう、タイミングを逃したことに後悔して、みんな現実や未来を見てるのに私だけ今に何も無いから過去を見て落ち込むの、悔しかった。
そんな時、いつも電車で会う広睦くんがこうやって私が忘れた荷物をベンチで待っていてくれて……。
電車で会って声をかけようって決心した。
やっぱり、広睦くんはあの時の事、覚えてないんだよね。
「でも、何日も悩んで勇気かき集めて声かけたのに、結局は上手くいかない。結婚するのを目標とした時、この関係はうまくいくとは言えないでしょう。でも、遠回りなようで必要な成果指標だと思ってる」
「ふっ、まあね。俺しつこいから、黙らせるには納得させるしかないもんね。でも、結婚してもいいんだよ、俺は。これ、何回も言ってるけどね」
「うん。ありがとう」
私が笑うと、広睦くんはまたちぇっと言った。
「その、誰だっけ。先輩の橘さんはまだ同じ会社にいるんだろ、それすらやですよ俺は」
じとっとした目がいじらしい。
コメント
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ああ、今回のエピソードすごく良かったです。年齢差を指摘されて怒る広睦くんと、冷静でありつつも傷つく春美さんの対比が鮮やかで。特に「怒ったら思うつぼ」って割り切る強さ、大人だなあと沁みました。後半の、春美さんが過去の後悔から「タイミングを逃したくない」と告白に至った経緯、あれが全部繋がってじわじわ効いてくる構成が好きです。広睦くんの嫉妬混じりの「それすらやですよ」も可愛くて、ニヤけました。
143
瑠璃🍫✨💭ྀི
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