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ぼんやりと都心を眺める智明の横顔が、キャンドルの炎で変化している。時折見せる悲しげな瞳。
そして、愉快そうにくしゃくしゃになる表情。
彼の鷲鼻の、冷たい鼻先に触れたのはいつだろうかと、ひよりは記憶を辿りながら、酒に溺れるのも悪くないとグラスを口にした。
智明がやさしく言った。
「こんなに星明かりが綺麗なのってさ・・・」
「ん?」
「不謹慎かもしれないけれどさ…」
「なあに?」
「いや…やっぱやめた」
「なんでよ」
ひよりは、言葉の先を推理した。
それはきっと、
「都心の街明かりが消えているから」
と、言いたいのだろう。
人間がいなくなったお陰で、夜空が美しいのだ。
新型コロナウイルスによるパンデミックの時も、空は美しく見えていた。
もし、智明や共栄が突然いなくなってしまったなら…
そう考えただけで、ひよりは耐えられなかった。
グラスの中で、涼しげな音を奏でる氷。
月明かりはふんわりと、綿雲のように淡い。
ひよりは智明の手を握った。
そして、ジッと愛する男の顔を眺めたが、口元に付いたマヨネーズを見つけて吹き出した。
「ちょっと、大きなお子様じゃないんだから」
ひよりは、マヨネーズを拭ってペロリと自分の指先を舐めた。
智明は、恥ずかしそうに笑っている。
何気ない仕草が愛おしく、それでいて狂おしい。
風に吹かれるキャンドルの炎。
菜園のハーブの香りが立ちこめている。
ひよりさ、聞いてみたかった言葉を口にした。
「ねえ?」
「なに?」
「私をね、いつまでも守ってくれる?」
意地悪な質問だった。
智明はひよりの肩を抱き寄せ、髪をそっと撫でて言った。
「もちろん!腕っ節は敵わないけど、なんとかする!!」
ひよりは笑った。
こんな気持ちは初めてだった。
「そんな華奢な身体で守ってくれるの?」
「もちろん!」
と、力こぶしを見せつける智明の腕はひよりよりも貧弱で、それでもカッコつける姿は可愛らしい。
「智ちゃん、腕立て何回だっけ?」
「20回でアウト、ひよりは?」
「100はいけるよ!」
「さすがです!隊長殿!」
「もお!」
ひよりは、智明の脇を付いた。
智明は、ひよりの身体を強く抱きしめた。