テラーノベル
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謙杜:「丈くん、今日もありがとうなー!」
駿佑:「やっぱ丈くんの味噌汁って、なんかホッとするよなぁ」
いつもの朝。
シェアハウスのダイニングでは、みんなの元気な声が響いていた。
洗濯、朝食、掃除。
それを誰よりも早くこなしているのが、藤原丈一郎だった。
丈一郎:「まぁなぁ〜。家庭科で満点取った男やし?」
冗談交じりに笑いながらも、内心はこう思っていた。
丈一郎:(今日もみんなが元気で、よかった)
みんなの居場所を、守ること。
それが、丈一郎の“無意識の役目”になっていた。
――でも、その“役目”が、知らず知らず自分を縛っていく。
放課後。
丈一郎は学校の図書室で、進路資料をひとり読み漁っていた。
「福祉の専門学校」「介護福祉士」……
どのパンフレットも、丁寧にチェックマークがついている。
丈一郎:(みんなが助かるなら、俺がやらなあかん。俺が笑って支える役で、おらなあかん)
でも、ページをめくる手がふと止まる。
丈一郎:(……ほんまに、それだけでええんかな)
帰宅後、真理亜とキッチンで二人きりになったとき。
真理亜:「丈一郎くんって、ほんまにえらいよね。ずっと、誰かのために動いてる」
丈一郎:「いやいや、そんなことないって〜」
と笑って返したものの、心の奥はチクリと痛んだ。
丈一郎:(“えらい”って、褒め言葉なんかな。“我慢してる”って、誰か気づいてくれてるんかな)
夜。
丈一郎は、自分の部屋で静かにノートを開いた。
そこには、こんな言葉が並んでいた。
・誰かのために生きるのって、立派やと思う。
・でも、俺はいつから“自分の本音”を閉じ込めるようになったんやろ。
・泣いたら、迷惑って思われる気がして怖い。
すると、廊下から声が聞こえてきた。
謙杜:「丈くん〜! みっちーがコントやろうって言ってる!なんかネタない!?」
丈一郎:「……今いくわ〜」
ノートを閉じ、いつもの笑顔をつくる。
丈一郎:(“笑わせる自分”でおらな。俺がそうせな、この家、バラバラになってまう気がするから)
でもその夜。
布団の中で、小さく呟いてしまった。
丈一郎:「……疲れたな、ちょっとだけ」
“誰かのための優しさ”が、
少しずつ自分の心をすり減らしていることに――丈一郎はまだ、気づいていなかった。
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