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満腹になった麗はこの上なく幸福な気分で、腹ごなしに明彦とともに店の近くを散策していた。
お洒落な雑貨店やカフェが軒を連ね、外から見て歩くだけでも楽しくまたキョロキョロしてしまう。
「ん?」
明彦が眉を寄せてタピオカドリンクの店に注目している。
(もしかして、飲みたいんやろうか?)
流行りの甘いものが好きだとは、本人から麗は聞いたことがなかった。だが、隠したがる男の人は多い。
でも、さっきあんなに食べたばかりじゃないかと思ったが、明彦は胃も強いのだろうか。
「本場台湾のタピオカドリンクはお洒落やね」
麗はまずは軽いジョブを打った。
はしゃぎながら店から出てくる女の子達が手に持っているタピオカドリンクは、色が二層や三層に別れていてお洒落で目を引く。
「ああ、商品名が変わっているからつい見てしまったが、確かに綺麗だな。麗が飲むなら買うか?」
(なんや、いらんのか)
「ありがとう、でも、お腹いっぱいやからええわ」
明彦が財布を出そうとするので麗は慌てて手を横に振った。
「そうか」
「それにしても、確かに変わった名前やね。私でもなんとなく意味わかるわ。人魚的眼涙、幼児記憶、台日友好ってのもあるね。あれはなんやろ、不想ジョウハン……?」
店の前に貼られたポスターには色とりどりのタピオカが載っていて横に書かれた商品名を麗は読み上げた。
「意味は、働きたくない、だ」
働きたくないのか。確かに、皆、本来なら働きたくないのかもしれない。
お店の人に何かあったのだろうか。今幸せだとといいが。
「明彦さん、中国語もできるなんて流石やね」
「できるってほどじゃない。仕事で中国人と会うこともあるから、本を何冊か読んで軽く勉強しただけだ。精々日常会話がやっとだな」
本で軽く勉強して日常会話ができるなんて、やっぱり頭の出来が違う。
麗は中学高校短大で英語の授業を受けた覚えはあるが、先生の顔すら思い出せないし、そもそも母国語も怪しい。
「それより、気になる店はないか?」
欲しいものがあれば買ってやると言外に伝えられるが、雑貨店に並ぶ小物は可愛いものばかりで、居候の立場で、あのお洒落な明彦の家に可愛いものを置くのは気が引ける。
(あ、でも、壁に掛けてあったパンダのカレンダーは可愛かったな)
誰かにもらったのだろう。寝転がったパンダが笹を食べていた大きな写真付きのカレンダー。
インテリアに全く合っていなかった。
「うーん」
麗はあたりを見渡すと、ふと、変わった店が目に入る。
美容院のようなお洒落な空間だが、シャンプー台がなく、低めの一人がけのソファが並び、制服なのだろうお揃いのポロシャツを着た店員が和気藹々とおしゃべりをしている。
「足つぼをやりたいのか?」
明彦に聞かれ、マッサージ店だったのねと納得する。
お洒落な外観と明るい内装から、明彦に言われるまで気づかなかった。
「ううん、何のお店やろうかって見ただけ」
「そう言って、本当は足つぼが怖いんだろ?」
ニヤリと、明彦が笑ってからかってくる。
「まさか! 私は昨日スパにも行かしてもらったし、何より若いねんから健康そのもの。心配なのは私より年上の明彦さんの方やわ」
「言ったな……?」