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「いた、いた、いたた、いたたたたたぁー!」
麗はまな板の上の鯉のように身もだえていた。
痛いのだ。痛気持ちいいではなく痛い。
「眼のツボ。PCヨクナイ」
仕事で使うから仕方がないではないかと麗は思ったが、痛い。兎に角痛い。
痛くないツボももあったので、眼を大事にしなければならないという体とおじさんからのメッセージたけはダイレクトに伝わってきた。
なんとかひと息つき、一人一台ずつソファに備え付けられたテレビを見ると、日本の町ブラ番組が映っていて、おじさんが出演している中年俳優を指差し、そのあと自分を指差し、壁のサインを指差した。
そこにはその俳優のサインと、旅番組でこの店に訪れたのだろう、足つぼマッサージで痛がっている俳優と施術しているすごくいい笑顔のおじさんの写真が飾ってあった。
おお! と麗が感心するとおじさんは嬉しそうに笑い、横で明彦を担当しているもう一人のマッサージ師のおじさんがあきれ顔をしていた。
きっと日本人観光客相手にこのおじさんはいつも自慢しているのだろう。
それにしても、横にいる明彦はずっと静かだ。負けたようで癪で、麗はちらりと明彦を見た。
(あ、違う。やせ我慢しているだけだ)
先ほどまで、ソファに備え付けられたテレビで英語のニュース番組を見ていたはずの明彦は、ソファに体を預け、上を向いて眉間にシワを寄せ、目を閉じている。
よっぽど痛いツボに当たったのだろう、明彦が息をする間隔が段々短くなっていく。
ひっひっふー、ひっひっふー
(アキ兄ちゃんは一体、何を産むつもりなんやろうか?)
妻としてここは立ち会い出産を希望するのか聞くべきか、今はラマーズ呼吸法ではなく、ソフロロジー式に取って代わられていることを伝えるか悩んだが、必死に我慢しているところをツッコムのは可哀想に思えて、やめておく。
「ここは大事なところのツボ、我慢よくないね」
ボソリと、明彦を担当している物静かなおじさんが呟く。
「納得した」
それに対し、痛い箇所のツボの刺激から解放された明彦も心得たように頷く。
(大事なところ? 心臓かな? 頭かな?)
「明彦さん、日本に帰ったら病院で検診受けた方がええんちゃう?」
麗は心配になったが、明彦は首を振った。
「問題ない」
「ほんまに? 心配やわ」
「大して痛くなかったし、原因も対処法もわかっているから大丈夫だ」
絶対、痛かったくせに言い切る明彦に麗は頷いた。
「それならええんやけど……」