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心なしか周囲の温度が上がってきた気がした。火から距離を取ったものの、何処へ向かえばいいのかは分からない。外に出れば白騎士団と衛兵等が待ち構えている。だが遅かれ早かれ此処にいれば二人とも焼け死ぬだけだ。


自分の少し後方を走るリディアを見遣ると、先程の威勢はなくなり不安気に見えた。思わず手を強く握る。それに気づいたリディアと目が合うと彼女は笑った。


こんな状況で怖い筈だ。それなのに自分を安心させる為に無理をさせているのは明らかだ……。


(どうにかしなくては……もう絶対に死なせないっ)


「ディオン‼︎」


暫し神殿の中を走り続けて、気付けば随分と奥まで来ていた。その時正面から二人の男が走って来た。


「あ、いたいた! もう、探したんだよ? あれ、何で妹ちゃん」

「いや、その。色々あって」


ディオンは歯切れ悪く言うと、レフとルベルトは顔を見合わせ笑った。


「良かったな、念願の妹君に会えて。だが、取り敢えず今は行こう」


ルベルトに促され、再び走り出した。辿り着いた先は地下だった。真っ暗な中、ルベルトとレフが用意していたランプで周囲を照らす。

暗闇が怖いのかリディアはディオンにピッタリと引っ付いてきた為、身体ごと引き寄せた。


「実は此処に抜け穴があったんだ」


何だか良く分からない石像をルベルトとレフが二人がかりで押すと動いた。


「地下を抜けると地上に出る事が出来る。神殿から少し離れた場所に繋がっているんだ」


ルベルトは自分のランプをディオンに手渡す。


「そこに馬を繋いである。それで逃げろ」


その言葉にディオンは瞠目した。


「……お前達はどうするんだよ」

「残念でした。僕達は、此処までだよ。本当はディオンだけ逃すつもりだったんだけど、まさか妹ちゃんが一緒だなんてね。びっくりしちゃった。……ねぇ、妹ちゃん。ディオンはさ意地悪で性格捻くれてるし、傲慢で自分勝手だけど」

「……」


酷い言われ様で何時もなら文句の一つでも言ってやるがディオンは黙って聞いていた。


「ははっ、それは確かにそうだ!」


ルベルトも愉しげに笑い、賛同する。


「それでも、俺達にとっては団長に違いないんだ。君のお兄さんを信じて、俺達黒騎士団等はここまで付いて来た。何時も胡散臭い笑みで、何考えてるかも分からないし、実際信用も油断もならない」

「ははっ、ルベルト結局どっちなの?」


レフが笑う。


「あー、だから俺がいいたいのは……俺達の団長であり、俺達の友は、君を絶対に幸せにしてくれる。君を想う気持ちだけは、本物だ。それだけは俺が保証する。まあ後は信用ならないがな。ははっ。……だから何があろうと信じてやって欲しい。他の誰もが君達を認めなくても黒騎士団員一同、俺達だけは君達二人が幸せである事を願っている」

「ははっ、やっぱりルベルト、ディオンの事莫迦にしてるよね」

「なっ、どこがだよ!」

「してる、してる~」

「綺麗に締め括ったのに、水を差すな」


昔と変わらない二人に、ディオンは瞳を伏せた。どんなに傲慢で勝手な振る舞いをしても、こんな自分にしがみついて来てくれた友だ。無論団員らも同じだ。

の自分ならきっとこんな言葉を掛けられたとしても心動く事は無かった。友なんて名称をつける事も無かった。リディア以外は全てただの使い捨ての駒くらいの認識でしか無かった。


(仲間か、友か……悪くない)


「おい、いい加減に」


ディオンが呆れ顔で声を上げようとした時だった。


「ふふ」


リディアが笑った。驚いた三人は一斉にリディアを見遣る。


「ありがとう……ありがとうございます……ルベルト様、レフ様。兄の事をそんなふうに想って下さり、私達の事をそんなふうに言って下さり、本当に、ありがとうっ……」


笑みを浮かべたままリディアは、はらはらと涙を流すと言葉を詰まらせていた。その光景に三人は穏やかに笑みを浮かべる。だが……。


「死なないで下さい」


凛とした声が地下に響いた。そしてその言葉に瞠目した。


「お願いします。もう、誰かが死ぬのを見たくない」

「……約束は出来ないが、その、善処する」

「大丈夫、大丈夫だよ~。僕達黒騎士団は最強最悪だから、ちゃっちゃっと片付けちゃうからね!」

「最強はいいとして、最悪ってなんだよ。それよりレフ、そんな安請け合いを」

「妹ちゃん、約束」


レフが小指を差し出す。


「また会おうね。ディオン、次会った時は必ず僕が一本とるから、覚悟しておいてよ」







ディオンとリディアは真っ暗闇の中、頼りないランプの火だけを頼りに寄り添い歩いて行く。


「黒騎士団は、あぶれ者ばかりなんだ。白騎士団には入ることが出来ない者が流れてくる事も少なくない。他にも身の置き場がない者、家族から見放された者、色々だよ。……まあ俺もその一人さ」

「……ディオン」

「父さんが嫌いだった。だからあの人が白騎士団長だったから、反発する様にして黒騎士団に入隊した。今思えば、自分だけの力でのし上がって何時かあの人に認めて貰いたい、そんな想いがどこかにあったのかもね。まあ、その前に死んじゃったけどね」






◆◆◆





「最期くらい、格好良くいきたいもんね~」


ディオンとリディアを送り出した後、石像を元に戻した。レフと共に他の団員等の待つ広間へと向かう。


「あぁ、それもそうだな。あぶれ者で落ちこぼれだと言われようが、たまには格好良く見せつけてやらないとな。優秀だと宣う白騎士団の連中にな」


外には騎士団だけでなく衛兵隊等も無数にいる。数だけでも勝ち目などないのは鼻から分かっている。

時間を稼げればいい。あの二人が少しでも遠くへ逃げられる様に。彼が生きて幸せになってくれればそれで十分だ、自分達の分まで……。


「遅いぞ」


広間には副団長のジークフリートが待ち構えていた。無論他の団員等も揃っている。


「火の回りが、そろそろヤバい。ルベルト……団長は行ったか」


返事の代わりに笑って見せた。


「そうか。なら、お前等……これが最期の命令だ。存分に暴れろ‼︎」


ディオンは賢く武術にも優れていた。天才とはこう言う人間なのだと思い知らされた。だが彼は自分の才能に自惚れる事なく常に努力し続けていた。そんな彼は白騎士団長の父親を持ちながら、敢えて黒騎士団へと入団して来たのだ。彼ならいつか自分達の代わりに白騎士団を、自分達を蔑む人間等を見返してくれると、彼に希望を抱いていた。きっと此処にいる他の者達も同じだろう。


ーーもう十分夢は見させて貰った。


「ルベルト、置いてかれるよ」

「あぁ、今行く」


黒騎士団は最期の闘いへと向かった。




私だけに優しい貴方

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