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進学!おめでとうございます🎉👏 環境変わるの不安だよね😭 応援してるよー! 細かい設定まで作り込んでるからいろはさんの作品ってこんなにもひきこまれるんだなって改めて感じた、、、この特等席を君にもすっごく好きな作品!
更新ありがとうございます。m君の言葉によって、だんだん素直な言葉遣いになっていくrちゃん…💛 2人の言葉のやり取りがすごく素敵です💕 m君によって、rちゃんのシュン君への蟠りも少しずつ昇華していけたら良いですね✨ 🥰
感動して泣きそうになってしまいました…残りの3話、とても楽しみにしています! 私も春から今までとは大きく変わった環境で過ごすことになるので、お互いがんばりましょ😭🤝♡
「待ってよ、もう何が何だか……」
戸惑いをあらわに視線を彷徨わせる藤澤さんに
「たしかに、急に言われても困っちゃいますよね」
そういって、ぱっと腕を放してやると彼は軽く安堵の表情を浮かべた。
「でも、本気ですよ俺。バンドのことだって、貴方のことだって」
藤澤さんは何か言いたげに口を開いてから、窓の外に視線を移した。それから一度大きく息を吐いて
「夢に見なかったわけじゃない。あの学祭ライブの日から……何度ももう一度あのステージに立てたらって思ってしまった自分がいた。現実的じゃないって分かってても、ずっとあの瞬間を繰り返すことができたらって。もちろん、先生になるって目標はこの大学に来るきっかけだし、ここに来た以上そうするのが当然だと思ってた。でももとをただせば、それは僕が音楽が好きだったからで、もしあの『場所』に居続けることを大森君が「現実」にしてくれるんだっていうなら、僕の人生を預けてもいい。そう思えるくらいには僕は、君の作る音楽が好きで……あのメンバーで作る音が好きだった」
よし、と思わず俺は心の中でガッツポーズを作る。じゃあ、と口を開きかけた俺を藤澤さんは目で制し、でも、と言葉を続ける。
「大森君がこれまでの僕との思い出とかから僕のことを好きになってくれたんだとして、それでバンドに誘ってくれてるなら、僕は頷けないんだ。だって、僕は君のことを利用してたから」
「……どういうことですか」
俺の怪訝そうな表情に藤澤さんは気まずそうな顔をしてぱっと目線を逸らす。
「僕は……前に組んでいたバンドでの活動が本当に楽しくって、そこでの思い出に囚われていたところがあったんだ。純粋な音楽活動だけじゃなくて、メンバーとの関係性みたいなところもあって……。それで初めて若井君に君たちのライブ映像を見せてもらった時、本当に感動して、それと同時に大森君に……うちのボーカルの黒田を重ねた節があったんだ」
藤澤さんは何となく誰かを通して俺を見ている感じがしていたのは分かっていたことだった。そしてそれが黒田さんなのだということも、あの日の夜から気づき始めてはいた。それでも、本人の口から聞くと少し、苦しくなる。
「だから君から初めて連絡があった時も、バンドに誘ってもらった時も、……ライブ中も。どこかで君に彼のことを重ねていて、彼を忘れるためのきっかけにならないかって、そういう自分勝手な思いがあって君といたんだ。……だから、君に好きになってもらえる資格なんてないんだよ」
藤澤さんは俯いたままぎゅう、と拳を握り締める。俺はゆっくりと息を吸って吐いた。俺が今から彼に話すことは、何としても彼の心に届かせなければならない。でも、どうやって伝えたら彼に届くのか、正直分からないのだ。
「……いま、何から伝えようか迷ってるんです」
結局考えなどまとまらないままに俺は口を開く。俺の静かな声に、微かに彼の肩が震えた。
「まず、俺が貴方に救われたことは事実なんです。どうかそれは知っておいてほしくて。いくら貴方が俺に黒田さんを重ねていて、それで一緒にいてくれたんだとしても、それでも貴方の言葉ひとつ、行動ひとつに救われた俺がいた事実に変わりはなくて」
なるべく、ゆっくりと。はっきりと。
「ピアノ室で初めてセッションした日、楽しかったですね。あの日俺にくれた言葉も全部、黒田さんを重ねてましたか?」
藤澤さんは俯いたまま、ぶんぶんと勢いよく首を振る。
「長野もすっごい楽しかったなぁ~。初めて見る景色、おやきも初めて食べたし。俺に声かけてくれてめちゃくちゃ嬉しかったんです。それも、俺に黒田さんを重ねてたから?」
また彼は勢いよく首を振る。ちがう、と消え入りそうに小さい声。
「僕も、楽しかった。君とのセッションも。一緒に長野に行ったことも。シュンを重ねてたからじゃない。そんなことどうでもよくて、君とだから楽しかった瞬間がたくさんあるんだ」
「ね?きっかけはそうでも、何かの瞬間に俺とあの人を重ねたことが確かにあったとしても、それで俺と藤澤さんが作り上げてきた関係性すべてを否定しないでくださいよ」
ふたりだけの部屋に嗚咽が響く。藤澤さんは完全に膝を抱えこんで顔を伏せてしまった。
「それに、藤澤さんを縛り付けていた『過去』を塗り替える可能性があるものとして俺や俺の音楽が選ばれたんだとしたらむしろ光栄なんですよ。だってすごくないですか?初めてのバンド、仲間。それもあんなにすごい。囚われ続けないほうが無理だ。俺だってどこかでずっと、昔のバンドのことに囚われ続けてた。だから二度と音楽なんてやらないなんて思ってたんだ。それを藤澤さんが初めに連れ出してくれて、メンバーの皆に塗り替えてもらった。だから貴方にとってのそれが俺だったならこんなに嬉しいことはないんだ」
ねぇ、藤澤さん。俺は努めて優しく語り掛ける。
「むしろ利用上等。逆に言えば俺はそれを利用して藤澤さんと一緒に居れたわけだし、あの人のこといくらでも重ねてくれてたっていいですよ。だって俺はいつか貴方の中であの人を超えてみせますから。そのうち重ねてたことなんて忘れちゃうくらいにね。どうですか?」
「そんなの、狡いよ……なんでそんなこといえるの、優しく考えられるの」
藤澤さんは涙声だ。ぐずぐずと鼻をすする音も聞こえる。
「狡くもなりますよ、だって俺、藤澤さんのことが大事で、本当に貴方が必要だから」
俺は深く息を吸う。
「あと、貴方のことを好きだってこと抜きにしても、俺の欲しい『場所』には貴方が必要なんだ。だから手に入れるためならどんな甘い言葉だって囁きます。おねがいします、俺の作る音楽でバンドをやってほしいんです」
※※※
押せ押せなもっくんです
残り少ないので制作裏話的なものを……
読まなくても本編に支障はないので、とばしてもらって大丈夫です
本作にはオリジナルキャラが何人か出てきますが、彼らも全員フルネーム、学部学科、学年、出身地などを始めとしていくつか簡単なプロフィールを設定しています。
また、もっくんと若井に関しては時間割もちゃんと設定していました(どこが被ってるとか含め)。
振り返ってみるとあまり描写にははっきり出ていませんが、少しずつそんな設定が背景にある描写があったりします。
そして、特にゴールデンウィークをはじめ細かい日付がいくつか出てきますが、暦は今年(2025年)に準拠しています。本作は3月いっぱいでちょうど完結しますが、今年の春から夏を過ごす上でふと「あの頃彼らは……」なんて思い出してもらえちゃったりしたら嬉しいですね!(欲張り)
実は作者が今年の春から関東に進学するということもあり、慣れない生活のなかで何かリアルとシンクロした楽しみがあればがんばれるのでは……!なんて思ったのがきっかけだったりします()
4月から環境が変わる人もたくさんいると思います。がんばる中でちょっと日々に色を添えられたら嬉しいです。がんばっていきまっしょいᕙ( ‘ω’ )ᕗ