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第6話、読み終えました。愁斗の「大丈夫」がだんだん苦しそうになっていくのが切なくて……ひでくんの「助ける」って一言が、無鉄砲だけどすごく温かかったです。水かけられた後の夕方、河川敷で「施設は家だ」って言うシーンが一番好きです。笑顔が一瞬で消えちゃう描写も、細かいけど二人の関係性がよくわかって、もっと読みたくなりました。
あの日から。
日曜日だけだった約束は、少しずつ増えていった。
放課後。
休日の朝。
バイト終わりの短い時間。
ほんの15分だけ会う日もあれば、一時間歩きながら話す日もあった。
愁斗は相変わらず忙しかった。
学校へ行き。
新聞配達をして。
ファストフード店で働き。
ティッシュ配りへ向かう。
夜には施設へ帰り、下の子どもたちのお風呂や宿題を手伝う。
高校生とは思えない毎日だった。
『休めてる?』
「……うん。」
『絶対嘘。』
「ふふっ。」
小さく笑う。
その笑顔は一瞬で消えてしまうけれど、ひではその一瞬が嬉しかった。
『今、笑った。』
「笑ってない。」
『笑ったって。』
「気のせい。」
『いや、笑った。』
「……。」
愁斗は少しだけ照れくさそうに前を向く。
「変なの。」
『やっと笑ったなって思って。』
また沈黙。
でも、その沈黙はもう苦しくなかった。
少しずつ。
本当に少しずつ。
愁斗はひでの隣で肩の力を抜けるようになっていた。
『ねぇ、』
「ん?」
『ずっと聞きたかったんだけど』
『嫌だったら答えなくていいからね。』
『この前、朝』
『なんでびしょ濡れだったの、?』
「……。」
愁斗は口を開こうとしなかった
隠してる、そう思った。
でも言いたくないのかな、
そう思った時。
『俺、』
『俺さ』
『やっぱなんでもない』
「なんでよ。」
「救いたいんだ。愁斗のこと」
「…。」
そういうと、愁斗は
空を見上げた。
『……』
『この前。』
『上履きに落書きしてきたやつ』
『バイト先全部特定されてんだよね…😅』
なんで笑えるんだろう。
そう思いながら、愁斗を見ていたら、
急に顔が曇った。
『早朝に、新聞配達してるとさ 』
『人の気配ないからやり放題みたい』
『ふふっ…』
「ねぇ、ギュッ🤝」
『ッ…!バッ』
『なに、急に』
「いや。ごめん」
「なにされたの。それでその朝は」
『水たまりで転んじゃったんだ』
「そんなはずない」
『言ったら助けてくれんの…?』
「うん,助ける。」
助ける自信なんてなかった。
でも、助けたい思いは、
誰よりもあった。
『水かけられた。』
『頭から。 』
『新聞もダメにしちゃったから。』
『社長さんに謝ってきた。』
『だから遅くなった』
『汚い水だったから。』
『 給料…減っちゃうな』
「そんなのおかしい。」
『おかしくないんだよ』
『いいんだ。』
『勝手にやらせておけばいい。』
『殺されなければ、どうにかなる 』
ひでの心には、愁斗の言葉が突き刺さってきた。
「じゃあ、今度から新聞配り、」
「一緒に回る」
『え??』
「そしたら、いいだろ、??」
『……うん。』
「よし。決まり。」
根本的に解決したわけではない。
でもこの日を境に、
いじめは少しずつなくなっていった。
ある日。
二人は河川敷のベンチに座っていた。
夕日が空をオレンジ色に染めている。
『施設って、どんなところ?』
愁斗は少し考えた。
「……家。」
『家?』
「うん。」
「先生たちも。」
「下の子たちも。」
「みんな家族。」
少しだけ笑う。
「泣き虫もいるし。」
「ケンカばっかする子もいる。」
「でも。」
「みんなかわいい。」
『愁斗は、お兄ちゃんなんだな。』
「……そんな立派じゃない。」
『いや。』
『十分立派だよ。』
愁斗は何も言わなかった。
でも。
その横顔は少しだけ嬉しそうだった。
それから数日後。
約束の時間。
17:00
ひでは駅前で待っていた。
17:10
来ない。
17:20
スマホを見る
『珍しいな。』
17:30
ようやく遠くから走ってくる姿が見えた。
「ご、ごめん……!」
息を切らしている。
額には大量の汗。
肩で何度も呼吸を繰り返していた。
『大丈夫!?』
「平気……。」
『全然平気じゃないじゃん。』
「バイト、長引いて……。」
笑おうとする。
でも笑えない。
ひでは初めて気付く。
愁斗の唇。
少し白い。
顔色も悪い。
目の下には濃いクマができていた。
『……顔色悪いよ。』
「寝不足。」
『ちゃんと寝てる?』
「寝てる。」
『ご飯は?』
「食べてる。」
『嘘。』
「……。」
愁斗は視線を逸らした。
『本当に大丈夫?』
「うん。」
また、その言葉だった。
“大丈夫。”
何かあるたびに口にする言葉。
だけど。
その「大丈夫」が、少しずつ苦しそうになっていることに、ひでは気付き始めていた。
その帰り道。
二人は並んで歩いていた。
すると突然。
愁斗の足が止まる。
「……。」
『愁斗?』
一瞬だけ眉をひそめる。
すぐに何事もなかったように歩き出した。
『今、立ちくらみした?』
「してない。」
『したよね?』
「してない。」
『愁斗。』
「……。」
『病院行こう。』
「やだ。」
『なんで?』
「時間ない。」
『時間なんて——』
「あるの!」
初めて。
少しだけ声を荒らげ
愁斗はハッとする。
「……ごめん。」
小さく頭を下げる。
「俺。」
「休めないから。」
その一言だけ残して、歩き出した。
ひでは何も言えなかった。
夕日に照らされるその背中が、今にも消えてしまいそうで。
胸の 奥が、ざわついた。
それが、二人に訪れる最初の試練の始まりだった。