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にこにこ
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六月も終わりに近づき、蒸し暑い日が続いていた。
愁斗は相変わらず、毎日休むことなく動き続けていた。
学校。
新聞配達。
ファストフード店。
ティッシュ配り。
施設へ帰れば、小さな子どもたちのお世話。
眠る頃には、日付が変わっていることも珍しくなかった。
それでも。
「疲れた」と口にすることはなかった。
ある日の夕方。
ひでは駅前で待っていた。
約束の時間を20分過ぎても、愁斗は来ない。
『珍しいな……。』
スマートフォンを見ても、連絡はない。
さらに10分。
さらに10分。
結局、その日は最後まで姿を見せなかった。
心配になり、何度もメッセージを送る。
返事は来ない。
その夜。
見知らぬ番号から電話が鳴った。
『……はい。』
「突然のお電話、失礼します。」
落ち着いた女性の声。
「児童養護施設〇〇の者です。」
胸がざわつく。
『愁斗に何かあったんですか。』
「今日、施設で倒れまして……。」
その一言で、頭が真っ白になった。
『病院は!?』
「現在、〇〇病院に搬送されています。」
『今すぐ行きます。』
電話を切ると同時に、ひでは家を飛び出した。
息が切れる。
心臓が痛いほど鳴っている。
(頼む。)
(無事でいて。)
病院へ着くと、施設の先生が廊下で頭を下げた。
「来てくださってありがとうございます。」
『愁斗は!?』
「検査中です。」
待合室。
1分が1時間のように長かった。
ようやく診察室の扉が開く。
医師がゆっくり歩いてきた。
「命に別状はありません。」
その言葉に、力が抜ける。
医師はカルテを閉じながら続けた。
「極度の貧血です。」
「栄養不足と睡眠不足、それに過労が重なっています。」
「しばらく点滴と安静が必要ですね。」
ひでは小さく頷いた。
『……あいつらしい。』
少しして。
病室へ案内される。
ベッドには、点滴を受けながら眠る愁斗がいた。
顔色は真っ白。
唇にも色がない。
こんなに近くで見るのは初めてだった。
『……無理しすぎなんだよ。』
返事はない。
眠ったまま。
ひでは椅子に座り、静かに見守った。
数時間後。
愁斗がゆっくり目を覚ます。
「……。」
『おはよう。』
愁斗は目をぱちぱちと瞬かせた。
「……なんで。」
『施設の先生から連絡もらった。』
少し沈黙。
「あ……約束、施設の先生にも伝えてたんだった…」
『だから。俺に連絡くれたんだね。』
愁斗は天井を見つめる。
「……ごめん。」
『謝ることじゃない。』
「約束……。」
『そんなのいい。』
ひでは少し笑う。
『無事だったんだから。』
その言葉に、愁斗は目を閉じた。
安心したような表情だった。
翌朝。
医師が病室へやって来る。
「数日は入院してください。」
そう言われても。
愁斗は静かに首を横へ振った。
「帰ります。」
「まだ危険です。」
「帰らないと。」
「施設のみんなが困るので。」
施設の先生も止める。
「愁斗、今は休みなさい。」
「でも。」
「 下の子たちを見られなくなってしまいます。」
「ごめんなさい……。」
申し訳なさそうに頭を下げる。
自分の体よりも、子どもたちの心配。
MORRIEは胸が苦しくなった。
『愁斗。』
「……?」
『少しだけ。』
『自分のことも大事にしろ。』
愁斗は困ったように笑う。
「……俺には。」
「俺しかいないから。」
その言葉が、ひでの胸に深く刺さった。
結局、医師と何度も話し合い、
数日だけ入院したあと、自宅安静という条件で退院が決まる。
病室を出る時。
愁斗は振り返り、小さく笑った。
「もう大丈夫。」
その笑顔を見て。
ひでは、なぜか少しも安心できなかった。
──その”大丈夫”が、本当ではないことを。
もう知ってしまっていたから。
コメント
1件
うわ……第7話読み終わったよ……。愁斗くん、倒れちゃったんだね。でも自分より下の子たちの心配してるところがもう、切なすぎるよ。「俺しかいないから」って言葉が刺さった。ひでくんの“もう大丈夫”が本当じゃないって気づいてるところも、すごく胸にくる……。にこにこさん、この重さ、すごく伝わってきた。続きも読ませてください。