テラーノベル
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氷の絶対的な鋭利さと、炎のすべてを焼き尽くす熱量を併せ持つ、矛盾した魔力の刃。
バルザールが驚愕に目を見開き、防護壁を幾重にも展開する間もなかった。
「貴様に、彼女のいない世界を語る資格はない。…灰にすら残さず、塵になれ」
彼の一振りが、夜の闇を深淵ごと両断した。
極低温の蒼い閃光がバルザールを飲み込み
悲鳴を上げる暇も与えず、呪いの因縁ごと虚空へと消し去る。
首謀者が消滅した瞬間
荒野を狂わんばかりに吹き荒れていた熱風はピタリと止み、そこには奇跡のような、慈悲深い静寂が訪れた。
(……ああ、終わったのね)
役目を終えた私の意識が、いよいよ闇に溶けようとした時。
ルネサンスが、糸が切れた人形のようにその場に膝を突くのが見えた。
完璧だった彼の軍服はボロボロに裂け、その手は煤にまみれて震えている。
彼は、冷たくなった地面に落ちていたあの大粒のサファイアを
私が最期まで身に着けていた首飾りを、壊れ物を扱うように、震える指先で拾い上げた。
「……ヴィル。嘘つきで、誰よりも愛しき人よ」
宝石を冷えた胸に抱き、独り、夜明け前の闇の中で天を仰ぐ彼の姿。
その深い悲しみに呼び寄せられるように、私の中の「生」への渇望が再び脈動を始めた。
彼の手の中にあるサファイアが、ドクン、と確かな生命の鼓動を刻む。
夜の底に霧散していたはずの私の欠片が
再び彼の周囲に蛍のように集まり、揺らめきながら一つの確かな形を成していく。
「……ルネサンス…様…っ」
自分の喉が、再び空気を震わせた。
光の粒子の中から、ボロボロに引き裂かれたドレスを纏い、私は奇跡の具現として彼の前に立ち尽くしていた。
「…本当に、救いようのない馬鹿だな、君は。……あれだけ、私を置いて逃げろと言ったのに」
彼はそう言うと、私を今度こそ離さないとばかりに強く、強く抱きしめた。
伝わってくるのは、もう肌を焼き切るような呪いの熱ではない。
互いの存在を確かめ合い、魂を震わせる、温かくて、穏やかな、真実の体温。
「……もう、嘘はつかない。君を、一生、私の檻の中に閉じ込めたい。逃げたいと願っても、二度と放してはやれない…それでもいいのか」
耳元で囁かれる独占欲に満ちた言葉が、今は何よりも心地よい。
「……喜んで、その檻の、囚われの身になりますわ、ルネサンス様」
顔を上げれば、東の地平線から夜明けの柔らかな光が差し込み、荒野を黄金色に染め上げていた。
嘘と没落から始まった私たちの歪な物語は
今、あらゆる偽りを脱ぎ捨て、本物の朝を迎えようとしていた。
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