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―大阪 ミナミ―
“萬田金融事務所”
その日も銀次郎は事務所で作業をしていた。
ガチャっ! バタバタッ!
けたたましい足音と共に竜一が部屋に飛び込んできた。
「兄貴ぃ!大変ですー!」
「やかましい。静かにせえっていつも言うとるやろ。」
「はぁはぁ…すんまへん…!早く兄貴に伝えな思って。」
「で、どないしたんや?」
「高瀬が飛びよりました!」
「はぁ…飛んだ先の居場所はもう見当ついとるんか?」
「いやそれがまだ…。 ただあいつが良く出入りしてたクラブは目星ついてるんですけど…。」
「ほなさっそくそのクラブ行くぞ。」
「いや…!あのぉ…そのクラブなんですけど…」
いつもの勢いが無く言葉に詰まる竜一。
「何や歯切れの悪い。なんか問題でもあるんか?」
「えっとぉ…その…あいつが良く出入りしてたの桜子ちゃんのクラブらしくて…。」
「…………。だからなんや?」
「あいつ…桜子ちゃんに相当夢中らしくてそれでお金使って…」
「客から銭搾り取るんが夜の世界の商売やろ。あいつが誰に入れ上げてようがそんなもんワシには関係無い。こっちは銭返してもらうだけや。余計な心配すな。」
「はい、ですよね…。」
「さっそく米原のクラブ向かうぞ。」
「へい。」
俺の言葉を掻き消すようにそう放った兄貴の目は少しの戸惑いと不安が渦巻いているように見えた。
それは舎弟として雇われてずっと側に居るからこそ分かる兄貴の微妙な空気感の変化やった。
やっぱり兄貴は 桜子ちゃんの事…
2人は桜子が経営するクラブに向かった。
ミナミの街の繁華街。
同じように派手に着飾った男や女、それに連れ添って歩く客であろう女や男達。
同じような顔をして張り付けたような笑顔をして通り過ぎていく。
金欲と愛欲が渦巻く街。
金貸しにとってこんな好都合な街は無い。
全てが嘘で塗り固められた世界。
そんな世界で金貸しをしていると人間の本質が段々と見えてくる…
作られた華やかさの中で作られていく見栄、 それと共に作られていく永遠に消えない孤独…。
しばらくして2人は桜子のクラブが入ったビルの前に到着した。
エレベーターに乗りそのフロアまで上がっていく。
ピーンポーン…
「兄貴ここです。」
「…………。」
この時、竜一には銀次郎がなんとなく覚悟を決めたようなそんな表情に見えた。
銀次郎が扉を開く…
「いらっしゃいませ。」
「おお、兄ちゃん。 今日ママは出てる?」
「申し訳ございません。あいにく本日ママはお休みをとっておりまして…。」
「そうかぁ…。 兄貴どないします?」
「……。もしかしたら高瀬がクラブに姿表すかもしれんからお前はここで見張っとけ。 それと店の子らに高瀬の情報聞き込むんや。」
「分かりました。なんぞ情報掴めたら連絡します!…兄貴は?」
「ワシはちょっと調べたい場所があるからそっちに向かう。頼んだぞ。」
「へい。」
そう言って振り返り足早に去って行く兄貴の背中、何かに駆られて焦っているようなそんな背中やった…
「あ、お客様ご指名はございますか?。」
「そやなぁ!ここの店の一押しの女の子つけてくれるかぁ!」
「もちろんです!良い子揃ってますよ♪」
「うひょ〜↗」
早速、仕事を忘れて浮かれる竜一であった。