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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第78話 〚言葉になる前の違和感〛(海翔視点)
最初に気づいたのは、
澪の「目」だった。
放課後。
昇降口で合流した時。
「お疲れ」
いつも通りの声。
いつも通りの距離。
でも——
どこか、違う。
(……?)
澪は笑っている。
会話も、普通。
なのに、
視線が、少しだけ落ち着かない。
まるで、
自分の中の何かを
必死に隠しているみたいに。
「澪」
名前を呼ぶと、
一瞬だけ、肩が揺れた。
「なに?」
「……大丈夫?」
それだけ。
踏み込まない。
理由も聞かない。
澪は、少し考えてから頷いた。
「うん」
「大丈夫、だと思う」
“と思う”。
その言い方が、
胸に引っかかった。
⸻
帰り道。
並んで歩く距離は、いつもと同じ。
でも、沈黙が多い。
澪は、何度も深呼吸をしている。
(……頭、痛い?)
そう聞きかけて、やめた。
今の澪は、
聞かれる準備ができていない。
それが、分かる。
代わりに、
歩く速度を少し落とした。
合わせる。
守るんじゃない。
寄り添う。
⸻
信号待ち。
澪が、無意識にこめかみを押さえた。
——ほんの一瞬。
でも、見逃さなかった。
「……無理してない?」
今度は、
声を低くして聞いた。
澪は、少しだけ困った顔をしてから、
小さく首を振る。
「ちょっと、考え事」
嘘ではない。
でも、全部でもない。
(……何か、起きた)
確信に近い感覚。
それでも、
海翔はそれ以上聞かなかった。
今、必要なのは質問じゃない。
——安心。
⸻
学校の前で別れる時。
「澪」
「ん?」
「何かあったら」
「言わなくてもいいから」
一拍置いて。
「一緒にいよう」
澪は、少し驚いた顔で海翔を見て、
それから、ゆっくり笑った。
「……うん」
その返事は、
心からのものだった。
⸻
帰り道、一人になってから。
海翔は、立ち止まる。
(妄想じゃない)
(予知とも、違う)
でも——
確実に、何かが変わった。
澪の力か。
澪の心か。
どちらにしても、
一人で抱えさせる段階じゃない。
(……タイミングを待とう)
前に出ない。
詮索しない。
でも、
目は離さない。
それが、
今の“守り方”。
⸻
その夜。
海翔は、スマホを見つめながら、
澪の名前を一度だけ入力して、消した。
連絡しない。
焦らせない。
——信じる。
澪が、
話したくなった時。
その時、
隣にいられるように。
海翔は、静かに決めていた。
何かが起きた。
それは確かだ。
でも——
それを“事件”にしない。
澪が、
自分の言葉で語れるその瞬間まで。
海翔は、
ただ、そばにいる。
それが、
今の彼の選択だった。
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