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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第79話 〚ほんの一歩のズレ〛(澪視点)
翌日の昼休み。
澪は、教室の窓際で本を読んでいた。
昨日のことが、頭から離れない。
——想像しただけで、頭が痛くなったこと。
——そして、何かが“固定された”感覚。
(……考えない)
そう思うほど、
心は言うことを聞かない。
その時。
「澪」
名前を呼ばれて顔を上げると、
海翔が立っていた。
「図書室行くけど、一緒にどう?」
いつもの誘い。
いつもの流れ。
「うん」
澪は立ち上がる。
——その瞬間。
一瞬だけ、
昨日の少女漫画のコマが脳裏をよぎった。
(だめ——)
止めようとしたのに。
——ズキン。
頭が、軽く痛む。
(……また)
歩き出した澪の足が、
ほんの少し、もつれた。
「っ……」
体が前に傾く。
次の瞬間。
——手を、掴まれた。
海翔の手が、
澪の手首を支えていた。
「大丈夫?」
距離が、近い。
近すぎる。
澪の心臓が、
強く鳴る。
(……今)
昨日の妄想と、
現実が、重なる。
——“触れ合う距離”。
頭の痛みが、
一瞬だけ強くなって、
すぐに引いた。
海翔は、
すぐに手を離す。
「ごめん、急に掴んで」
「……ううん」
周りを見る。
誰も、特に気にしていない。
ただの、転びかけた場面。
——でも。
澪には、分かった。
(……今の)
偶然じゃない。
昨日、
“想像した距離”。
それが、
ほんの少しだけ、
現実に寄った。
未来でも、予知でもない。
——選んでいないのに、近づいた現実。
図書室までの廊下。
二人の間に、
いつもより短い沈黙が流れる。
海翔が、ちらっと澪を見る。
「……無理、してない?」
澪は、首を振る。
「大丈夫」
でも、
それは“体”の話。
心は、
全然大丈夫じゃなかった。
⸻
図書室。
席に着いても、
澪は本を開けなかった。
(小さい……けど)
確実に、
力が動いた。
妄想した“イメージ”が、
現実を、
ほんの一歩だけ引き寄せた。
頭痛は、警告。
(……これ、繰り返したら)
もっと大きく、
ズレる。
海翔が、
向かいの席で本を読む。
何も知らない顔。
(……言わなきゃ)
守ってもらうためじゃない。
止めてもらうためでもない。
——一緒に、考えるために。
澪は、
ぎゅっと手を握る。
小さな出来事。
誰も気づかない違和感。
でも——
澪にとっては、決定的だった。
妄想は、
もう“安全な場所”じゃない。
そして。
この力は、
一人で抱えたら、
きっと壊れる。
澪は、
静かに決めていた。
——次は、話す。
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