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 わたしがノアの顔を咄嗟に見ると、ノアが神妙な面持ちでひとつ頷いた。

セレーネ嬢は、いまわたしの身に起きているこの不思議な状況を話してもいい信用に値する相手なのだと判断した。


「説明させていただく前に、セレーネ嬢はお兄様と1年前に婚約をされていると恥ずかしいことに今回初めて知りました。知らなかったこととはいえ、お祝いのご挨拶も贈り物もせず、本当に不義理で申し訳ございません。改めて、お詫びとお祝い申し上げますとともに、不出来な義妹をお許しください」

頭を深く下げた。ノアにお兄様に婚約者がいると教えてもらってから気になっていた。


「頭を上げて。アグネスが気にすることはないのよ。レオンが貴女に婚約のことを伝えていなかったのが悪いのだ。それにアグネスは山奥のあの大聖堂にいたのだから知らなくて当然だ」

なぜかノアの方を見ながら、ケラケラとなんでもないようにセレーネ嬢は笑った。

「いま、お兄様と喧嘩をされていると伺いまして、その理由らしいこともノアから聞きました。お兄様は気が利かなくて申し訳ないです。セレーネ嬢をエスコートしたのにも関わらず、舞踏会でダンスを一度も踊らないなんて、お兄様はひどすぎます。お兄様に代わってお詫び申し上げます。そして、そんなお兄様と仲直りをしてくださいますか?」

セレーネ嬢の顔色を窺うと、彼女は少し驚いた表情をしていたがすぐに満面の笑みを返してくれた。


「仲直りするもなにも誤解のないように言っておくが、私とレオンは喧嘩はしていないんだ。ただ、私がレオンとダンスを踊れなくて一方的に拗ねていただけだ。レオンはあの舞踏会の帰りも、それからもずっと謝罪してくれていたのに、他の令嬢への嫉妬心で私が素直に許せなかったんだ。まさか、アグネスが心配してくれているだなんて。ありがとう。私とレオンは愛し合っているよ。だから心配はいらない。私の心がへそを曲げてしまっただけだ。次にレオンに会った時には素直になるよ」

そう答えてくださるセレーネ嬢の幸せそうな表情で、お兄様とセレーネ嬢は政略結婚予定とはいえ、とても良好な関係を築かれていることが見て取れた。

そして、心がチクりと痛む。

セレーネ嬢はお兄様に次も会えると思っている。当然のことだ。ただ「次」があるのかはわたし次第だ。


「うーん。これではお兄様の願いは叶ったことになるのかしら?」

お兄様とセレーネ嬢は喧嘩ではなかった。

では、お兄様は仲直りを願ってはいなかったのか?

「レオンの願い?」

「はい。わたしはお兄様の願いを叶えたいのですが、わたしはお兄様がセレーネ嬢と喧嘩をしていると思っていたので、お兄様の願いはセレーネ嬢との仲直りだと思っていたのです」

それを聞いたセレーネ嬢は首を横に振った。


「アグネス、それは違う。はっきりとレオンの願いは私との仲直りではないと言えるよ」

「それはどうして…」

お兄様を生き返らせるための希望の道が閉ざされたような気分になり、目の前が真っ暗になる。


「そんな悲しい顔をするな。貴女の兄は素晴らしい人だ。だから決して、私との仲直りを「願う」人物ではない。私が惚れたレオンという人間はこういうときは必ず自分が動いて解決する人間なのだ。こんな時に、祈って願ってと神頼みをする人間ではない。優しく穏やかに見えるレオンの内面は激しく熱い心を持った人だ。だから、今回も自分で私と接触する機会を掴み取り、私の拗ねた心を元に戻しにきたに違いないよ」


「では今回、セレーネ嬢と関係を修復するのはお兄様の「願い」ではなく、「実現させるもの」?」


「そうだ。願いというのは自分の力ではどうしようもないことを願いに託すのだと私は思うよ。それが願いの本質だと思っている」


セレーネ嬢は白百合のような凛とした表情で微笑まれ、この方のお兄様への深い愛に触れることができ、そして義姉として真っすぐに諭してくださる姿勢は、大聖堂でわたしにこれでもかと厳しく妃教育を施してきた教師陣の厳しさとは違い、とても温かい。

「ありがとうございます。貴女が義姉でわたしは幸せです。必ず、お兄様をわたしの命をもって貴女の元にお返しします」

「アグネスは大袈裟だな。命をもってだなんて。それで、なぜアグネスがレオンの姿になっていた?剣の構え方でレオンではないと一目瞭然だったんだよ。この不思議な状況について教えてほしい。なにかあるんだろう?」

セレーネ嬢は、勘も良いようだ。心配そうな顔になったとこを見ると、良くない話であることを察しているようだった。


「俺が、俺が見たものや騎士団でのことを説明するから、アグネスは辛いと思うが自分の身に起きたことを話してくれ」

わたしたちのそばで、じっとセレーネ嬢とわたしの話を聞いていたノアが口を開いた。

「わかったわ」

セレーネ嬢にわたしの結婚式で遭ったことを説明しようとするが、目の前のお兄様を愛しているこの貴女に今からなんてむごいことを告げようとしているのかと考えると、言葉が出てこない。


「アグネス」

ノアが、わたしの肩に手をのせ、後ろからわたしを支えるようにしてくれる。

それが嫌でなく、見守られているようで安心でき、勇気がでる。

「セレーネ嬢、落ち着いて聞いてください」

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