テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ノスフェラトゥは、しばらく動けなかった。
スペクターの首筋へ牙を立てたまま、
肩を震わせ、
浅く呼吸を繰り返している。
頭が熱い。
吸った“生命”がまだ身体の奥を巡っていた。
甘い。
くらくらするほど。
スペクターは椅子へ腰掛けたまま、そんなノスフェラトゥを静かに抱えていた。
「……ふふ」
喉の奥で笑う。
「そんなに気に入った?」
ノスフェラトゥは答えられない。
代わりに、スペクターの胸元へ額を押し付けるようにして息を吐いた。
完全に力が抜けている。
まるで酔っていた。
スペクターはその黒髪をゆっくり撫でる。
「ほら」
「ちゃんと顔を上げて」
指先で顎を持ち上げられる。
ノスフェラトゥの赤い目は潤み、
耳はぺたりと伏せ切っていた。
普段の冷たさなど、もうどこにもない。
スペクターは満足そうに細めた目で見つめる。
「かわいい」
「……ぅ」
小さく喉が鳴る。
その反応だけで、
スペクターは全部理解していた。
もう、この吸血鬼は“報酬”を覚えた。
飢えを満たす快感。
褒められる安心感。
許可される幸福。
それら全部を、
自分と結びつけ始めている。
スペクターは首輪へ指を掛け、軽く引いた。
カチ、と金具が鳴る。
ノスフェラトゥの身体がびくりと反応した。
「敏感だね」
「……ッ」
「もっと上手にできるよね?」
耳元で囁かれる。
甘い声。
だが、命令だった。
ノスフェラトゥは悔しそうに眉を寄せる。
「……何を」
「おねだり」
ぞくり、と背筋が震える。
スペクターは微笑んだまま続けた。
「欲しいなら、ちゃんと言わなきゃ」
「……」
「私は君の主人なんだから」
ノスフェラトゥの爪が震える。
屈辱だった。
そんなこと、
したくない。
古代吸血鬼としての誇りが軋む。
だが。
身体はもう覚えてしまっている。
あの熱。
10,618
満たされる感覚。
スペクターの“許可”。
ノスフェラトゥは唇を噛んだ。
視線を逸らす。
なのに、首輪を掴む指先は無意識に縋るみたいに震えていた。
スペクターはそれを見て、さらに楽しそうに笑う。
「ほら」
「言ってごらん」
「……っ」
長い沈黙。
やがて。
ノスフェラトゥは、消えそうな声で呟いた。
「……欲しい」
「聞こえない」
「……もっと」
顔が熱くなる。
悔しくてたまらない。
なのに。
スペクターはその言葉に満足そうに頷くと、ノスフェラトゥを膝へ引き寄せた。
完全に抱き込む形。
「いい子」
その瞬間。
ノスフェラトゥの身体から、一気に力が抜けた。
ぐったりとスペクターへ寄りかかる。
長い髪が肩から流れ落ちる。
スペクターはまるで愛玩動物を撫でるみたいに、耳の付け根を優しく撫でた。
ノスフェラトゥの喉が小さく震える。
「もう隠さなくていい」
「君は、私に甘えるの上手だよ」
「……っ、ちが……」
否定しようとする。
だが声に力がない。
スペクターの膝の上で、
首輪をつけられ、
撫でられながら。
そんな言葉に説得力はなかった。
スペクターはくすくす笑った。
「大丈夫」
「ちゃんと可愛がってあげるから」
その声に。
ノスフェラトゥは悔しそうに目を閉じながら、
逃げる代わりに、
さらにスペクターの胸元へ顔を埋めてしまった。