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ゆゆゆゆ
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ノスフェラトゥは、しばらく動けなかった。
スペクターの首筋へ牙を立てたまま、
肩を震わせ、
浅く呼吸を繰り返している。
頭が熱い。
吸った“生命”がまだ身体の奥を巡っていた。
甘い。
くらくらするほど。
スペクターは椅子へ腰掛けたまま、そんなノスフェラトゥを静かに抱えていた。
「……ふふ」
喉の奥で笑う。
「そんなに気に入った?」
ノスフェラトゥは答えられない。
代わりに、スペクターの胸元へ額を押し付けるようにして息を吐いた。
完全に力が抜けている。
まるで酔っていた。
スペクターはその黒髪をゆっくり撫でる。
「ほら」
「ちゃんと顔を上げて」
指先で顎を持ち上げられる。
ノスフェラトゥの赤い目は潤み、
耳はぺたりと伏せ切っていた。
普段の冷たさなど、もうどこにもない。
スペクターは満足そうに細めた目で見つめる。
「かわいい」
「……ぅ」
小さく喉が鳴る。
その反応だけで、
スペクターは全部理解していた。
もう、この吸血鬼は“報酬”を覚えた。
飢えを満たす快感。
褒められる安心感。
許可される幸福。
それら全部を、
自分と結びつけ始めている。
スペクターは首輪へ指を掛け、軽く引いた。
カチ、と金具が鳴る。
ノスフェラトゥの身体がびくりと反応した。
「敏感だね」
「……ッ」
「もっと上手にできるよね?」
耳元で囁かれる。
甘い声。
だが、命令だった。
ノスフェラトゥは悔しそうに眉を寄せる。
「……何を」
「おねだり」
ぞくり、と背筋が震える。
スペクターは微笑んだまま続けた。
「欲しいなら、ちゃんと言わなきゃ」
「……」
「私は君の主人なんだから」
ノスフェラトゥの爪が震える。
屈辱だった。
そんなこと、
したくない。
古代吸血鬼としての誇りが軋む。
だが。
身体はもう覚えてしまっている。
あの熱。
満たされる感覚。
スペクターの“許可”。
ノスフェラトゥは唇を噛んだ。
視線を逸らす。
なのに、首輪を掴む指先は無意識に縋るみたいに震えていた。
スペクターはそれを見て、さらに楽しそうに笑う。
「ほら」
「言ってごらん」
「……っ」
長い沈黙。
やがて。
ノスフェラトゥは、消えそうな声で呟いた。
「……欲しい」
「聞こえない」
「……もっと」
顔が熱くなる。
悔しくてたまらない。
なのに。
スペクターはその言葉に満足そうに頷くと、ノスフェラトゥを膝へ引き寄せた。
完全に抱き込む形。
「いい子」
その瞬間。
ノスフェラトゥの身体から、一気に力が抜けた。
ぐったりとスペクターへ寄りかかる。
長い髪が肩から流れ落ちる。
スペクターはまるで愛玩動物を撫でるみたいに、耳の付け根を優しく撫でた。
ノスフェラトゥの喉が小さく震える。
「もう隠さなくていい」
「君は、私に甘えるの上手だよ」
「……っ、ちが……」
否定しようとする。
だが声に力がない。
スペクターの膝の上で、
首輪をつけられ、
撫でられながら。
そんな言葉に説得力はなかった。
スペクターはくすくす笑った。
「大丈夫」
「ちゃんと可愛がってあげるから」
その声に。
ノスフェラトゥは悔しそうに目を閉じながら、
逃げる代わりに、
さらにスペクターの胸元へ顔を埋めてしまった。