テラーノベル
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「ただいまぁ~♪」
夏の夕方の陽射しを浴びて散歩から戻ったジンと桜が、山田旅館の玄関で元気よく声を上げた
「おう~!おかえり!」
松吉の返事が聞こえる、だが、その声は妙に遠くから聞こえた。ジンが玄関を上がるとなにやら旅館の中庭が騒がしい
「私お茶をいれてきますね~♪」
山田旅館の中庭には大きな酒樽が何台もトラックに荷積みされ、大勢の旅館の男性の従業員がうんうん酒樽を運んでいる。藁で覆われたその酒樽にはどれも山田旅館の大きな「贈呈のし紙」が括りつけられていた
「・・・随分・・・沢山のお酒ですね」
ジンは呆気に取られて呟いた、一升瓶や一斗缶ではない、人の背丈ほどもある巨大な酒樽が、次々と荷台に積み上げられている、その数、ざっと見ても二十を超えていた
「海の恵みと大地の恵み、両方を司る神波穂神社へのお供え物じゃ!」
松吉が胸を張って答えた、汗を拭いながらも、その表情は誇らしげだ
「へぇ~・・・」
ジンは感心したように頷いた、地方の祭りというのはこういう伝統を大切にするものなのだろう。都会育ちの自分には新鮮な光景だった
「古くからの行事でなぁ~、明日は波穂の氏神様を称えて毎年盆に開かれる、一年一度の荒波祭りじゃ」
「西・東・北・南の地元の若い衆が総動員して荒波様へお参りするんよ」
松吉の隣の中堅の従業員も言った
「そうじゃ!婿殿も祭りに参加せんか?」
「おお!そうじゃな!それがええ!皆ジンさんの顔を覚えてくれるぞ」
二人の無邪気な笑顔にジンは軽く頷いた、日本の祭りと聞いて屋台が並ぶ穏やかな催しを想像した、何かうまいものが食えそうだ
「ハイ!そう言うことでしたらぜひ!」
ジンの明るい返事が、中庭に響いた
ザワッ!!
「ええ?」
「ええ?」
「ええ?」
女性従業員を従えてお茶を持ってきた桜達がその話を聞いて一斉にざわついた、お盆に乗せた湯呑みがカタカタと震えている
「ジ・・・ジンさん!明日の・・・お祭りに参加するんですか!??」
桜の声が上ずっていた、その顔は青ざめ、まるで恐ろしいものを見るような目でジンを見つめている
「え?う・・・うん、お義父さんもああ言ってるし、良い経験に――」
ジンは桜の様子に戸惑いながらも笑顔で答えた、祭りに参加して氏神様にお参りするだけなのに、なぜこんなに驚かれるのだろう?
ザワッ!!
「大変!!」
「大変!!」
「大変!!」
三人の仲居が同時に叫んだ
「あれを用意しなきゃ!!」
「今から間に合うかしらっっ!」
「急ぎましょう!お嬢様!」
桜の袖を引っ張る仲居達、桜も既に戦闘態勢に入ったような真剣な表情だ
「婿殿が祭りに出られるわ!!」
「出陣よっ!」
そう言い残して桜達はあっと言う間に雲の子を散らすように去って行った、バタバタと廊下を走る足音が遠ざかり、どこへ行くのやら、やがて車のエンジン音が聞こえた
「・・・え?・・・」
取り残されたジンは、きょとんとして中庭に立ち尽くした、松吉達は「ええこっちゃ!ええこっちゃ!」とニコニコしている
そして・・・
まさかジンは明日が、自分の人生で最も激しい一日になるとは、この時は知る由もなかった
コメント
3件
どんな祭りなの!? アレを用意て何ーꉂ🤣𐤔 漢を試す祭りとか?荒波祭り楽しみ!ジンさん、いざ出陣‼️
え~っ🤣この女衆の慌てよう💨 明日のコスチューム(ふんどし?)揃えに行ったのかな🤔 荒波祭りたのしみだ〜🤭
荒波祭りって海に飛び込む?なんか危険なお祭りなのかなぁ?楽しみだけどちょっと心配だよー