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#恋愛
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翌週は最後の裁判のための準備で忙しく、日々は飛ぶように過ぎて言った
恐れていたガオールのパーティーで、弘美の醜態をさらした記事や画像は、SNSやゴシップサイトには出回らなかった
弘美の画像を削除するタツのセキュリティ会社のプログラムは、とても優秀らしく、紙媒体でも同じだった
そして裁判当日、勝訴した瞬間、弘美のクライアントがガッツポーズで立ち上がった、アソシエイト件、速記係の桧山も応援に駆けつけていた、上司の加々美も両手を挙げて喜んだ
弘美はファイルにそっと顔を隠し、柄にもなく喜びの涙を誰にも気づかれずに流した、事務所に帰ると誰もがお祝いを言いたがって弘美を囲んだ
事務所の弁護士達も弘美の手柄を誰もが褒めたたえ、特に加々美は弘美の肩をがっしりつかみ、大勢の弁護士に初めてあった時から、弘美はわが事務所の希望の星だったとかなんとかまくし立てた
秘書団(紅)の連中に花束を贈呈してもらい、みんな涙ながらに弘美に祝福の言葉を投げかけていたが
一部の紅のメンバーは、サプライズで今にも拓哉がお祝いの花束を持ってくるのではないかと、期待に胸を膨らませ、エレベーターの方をチラチラ見ていたのを見逃さなかった
あるいは下沢亮が・・・
弘美はなんとなく申し訳ない気持ちになってしまった
そう・・・裁判は終わった・・・そして彼らとの事も・・・ここでの役目は終わった
来週には奈々の待つ、もとの古巣へ帰ることになる、嬉しくもあるがどことなく寂しいような気もしていた
弘美は自宅の固定電話を解約した、随分前からメールやFAXはパソコンを使っていたし、連絡はすべてスマホだった、今やこの番号にかけてくるのはセールスぐらいだ
そしてひどい別れ方をした昔の恋人、それを過去と共に消し去った、もう二度と昔の恋人に煩らわされる事はない
これからもこうして仕事を死ぬ気でバリバリやって、いつか引退したころには、怒りっぽく、孤独で近所の子供たちにうるさいとわめく、一生独身の気難しい弘美ばぁさんの道をまっしぐらに進むことになるだろう
そうそう、オプション追加、そんな弘美ばぁさんにたった一つ自慢話が出来た、それは櫻崎拓哉とのつかの間のロマンスだ、まぁそれも自分がぶち壊した様なものだが・・・本当に一瞬だったが、彼とのキスはとても素敵だった
舞踏会から帰ってきたシンデレラもこんな気持ちだったのだろうか、夢のような時間を知ってしまった今・・・現実はなんと、むなしい事だろう・・・やるせない気持ちで大きくため息をついた
.。 .:・.。. .。.:・
嵐が起こったのが、もうすぐ週末を迎えようとした穏やかな午後
バンっとオフィスの扉が開いた時、弘美はオフィスの荷物をまとめていたため、ドアに背中を向けて一番下のファイルを取ろうとしゃがんでいた、ドアが開く音と共に彼女は首だけ振り向いた
そこには驚いたことに顔をしかめた下沢亮が立っていた
「ちょっと話せる?」
「無理と言っても入ってくるんでしょうね」
弘美はため息をついた、彼は返事も待たずズカズカと弘美のオフィスに入ってきて、皮張りのソファーにドスンと腰を下ろした
今は涙を溜めたまなざしで弘美をじっと見つめている
「どうしてパーティーでは先に帰っちゃったの?どうして今まで連絡くれないの?僕・・・ずっとひーちゃんの連絡待ってたんだよ?ひどいよ!」
亮がグスンッと鼻を鳴らして、弘美の立っているファイル棚に近づいてきた
こんなにかわいい顔をしてもやっぱり亮は男の子だ、弘美よりやはり数段背が高い、今や弘美が見上げるほど近くに亮が立っていた
二人は見つめ合った
亮がファイル棚にドンッと手を付き、棚と自分の体の中間に弘美を向え合わせで挟んだ
弘美は背中をファイル棚に預け、瞬きもせずに亮を見つめた、涙で濡らした瞳をキラキラさせ、亮が弘美に囁いた
「知ってた?・・・ウサギって・・・寂しいと死んじゃうんだよ? 」
そっと弘美の顎を持ち上げ、亮の顔が近づいてくる、目を閉じた綺麗な亮の扇方のまつ毛が目の前にある、亮の唇が弘美の唇をとらえようとした時・・・
弘美が口を開いた
「亮ちゃん・・・これからはもうこうやってオフィスへ押しかけて来ないでちょうだい、ここは遊び場じゃないのよ 」
「え?」
パチリと亮は目を開けた、その時には弘美は数メートル離れて、ファイルを段ボールに詰めていた
「私に会いたければ、正式に秘書にアポイントを取ってもらわないと困るわ、もちろん遊びの誘いなら他を当たってね」
亮が憤慨してだだをこねる子供のように言った
「どうしてあのパーティーで櫻崎拓哉なんかと、一緒に帰っちゃったんだよ?僕を置いて! 」
「櫻崎さんは困っている私を助けてくれたの、やむを得ない状況だったのよ 」
ギロリと亮を睨みつける
「あなたも見てたとは思うけど?」
あのパーティーでシャンパンタワーが降ってきて身動きが取れなかった時、群衆の中に亮を見つけて目が合った気がしていたが、当初は気のせいかと思っていた、だが時間が経つにつれ、弘美は確信していた、彼は自分を見捨てたのだ
グッと亮が押し黙った、ウルウルしていた瞳の涙がスッと乾き、するどい目つきを弘美に向けた、そしてしばらくして亮が低い声で言った、初めて聞く声だった
「お前は俺を馬鹿にしているのか?」
亮の目は険しさを帯びた
「アイツと肩を並べて帰るなんて、招待したのは俺じゃないか、いまいましいパーティーの全員がアイツといるお前を見たんだぞ!」
弘美はじっと怒りに顔をゆがめる亮の様子を見ながら、こんな顔もするのかと感心していた、たしかに彼は演技が上手い、さらに亮はつづける
「くそっ!人が下手に出ていればつけあがって、警告しておいてやろう!今はちょっと櫻崎に相手にされているからっていい気になんなよ!お前なんかすぐに捨てられるに決まっているんだ!なんたって相手はあの櫻崎拓哉だからな! 」
ふいに弘美はすべてにうんざりし、答える価値もないと考えた
「タクシーを呼んであげるわ 」
聞こえていないかのように、亮も興奮してまくし立てる
「あいつは女を見れば誰だっていい色情魔で、とんでもない暴君だぞ!薬でもやってるんじゃないのか?俺はあいつに殴られたんだぞ!」
亮の悪意に満ちた言葉が次々に出てくる
「前にも話しただろう?アイツは女と枕営業をやって、のし上がってきたようなヤツなんだぞ?そんな男と仲良くするなんてお前も同罪だな!何回ヤったんだ?自分がずいぶん利口だと思っているんだろう」
弘美はどうやら彼の機嫌をかなり損ねたらしい、片眉をあげて腕を組んでじっと亮を見て彼の言葉に耳を貸す
「うぬぼれるのもいい加減にしろ、俺からちょっと声をかけてもらえば死んでもいいと思う女がどれほどいるか知ってるか?枕営業でのし上がって来た、卑怯で下劣な櫻崎なんかとは格が違うんだよ!お前なんかただの一般人の年増女のくせに 」
弘美は激怒した亮の顔をじっと見つめた、今や彼はハァハァと息を荒げていた
「終わった?もういいかしら?」
弘美はポリポリと頭を掻いた、その一言に再び亮がカッとなった
「この俺様がこんなに怒っているのに、なんとか言ったらどうなんだ!!」
怒鳴っている亮を無視して弘美は、秘書を呼び出すインターフォンを鳴らした
「聞いてたんでしょう?下沢様がお帰りよ、玄関までお送りして 」
弘美がそうインターフォンに話しかけるなり、ガチャリと美香が入ってきた、ハッと亮が振り向いて美香を見た、今や美香は恐ろしい顔で亮を睨みつけている
そしてその後ろに何人もの秘書達がずらり並んでいた、拓哉親衛隊(紅)のメンバーだ、全員が恐ろしい顔で亮を睨んでいる、なかなかの迫力だ
「な・・・なんだよっっ」
亮が慌てて大声で言った、今や亮は自分のあざとさを見せるのも忘れているみたいだ
「録音した?」
弘美が美香に聞いた
「バッチリです!」
美香がスマートフォンをかざして言った
「随分いろんな事を言ってたけど、少なくとも名誉毀損罪、侮辱罪に10個は当てはまりそうね?」
弘美の質問に美香がスマホを確認しながら言う
「当てはまるどころじゃありませんよ・・・ああ・・・特に、5分45秒の所は赤坂弁護士の風評被害として、信用毀損罪及び業務妨害罪に該当しますね」
さらにもう一人別の秘書が言った
「名誉毀損を犯すと「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」に科せられます」
「な・・・なんだよ!お・・・俺は別に!! 」
「これからあなたに訴訟を起こすための証言記録の書類を作成するわ、もしかしたらここにいるメンバーが全員訴えたいと言ったら集団訴訟になると思うけど、そうね・・・・内容にもよるけど三週間後ぐらいになるでしょうね、その後の流れを彼に教えてあげて」
弘美の後に美香が付け足す
「三週間後に下沢亮さんの事務所宛に裁判所から連絡が行きます、口頭弁論期日の指定、呼び出しに応じてください」
デスクに座っている弘美が手を組んだ姿勢で顎をのせ、同情するように言う
「残念だわ亮ちゃん・・・でも仕方がないわね・・・早く事務所の社長に連絡してそっちで弁護士を立ててもらうなり早急に対処した方がいいわよ 」
「な!なんだよ!それ!ちょっとムカついて愚痴を言っただけじゃないか!それを・・・さ・・・裁判なんて・・・・お・・・大げさな! 」
「愚痴なんかじゃなかったわ!」
「誹謗中傷よ!」
「彼は自分の発言に責任を取るべきよ!」
「大人になりなさいよ!」
口々に入り口にいる秘書軍団から叱咤され、亮がタジタジになって後ずさりする
「おっお前ら、頭がおかしいんじゃないのかっっ」
亮が秘書軍団の圧に圧倒され叫ぶ
「(頭がおかしい)とのワードは、相手の人格・精神面を軽蔑・侮蔑する抽象的な価値判断で、典型的な侮辱表現に該当しますので追加記載案件です」
美香がサラサラとタブレットに何やら書き込んでいる、しまったと亮が慌てている、自分の本性が弘美だけではなく大勢の人の元に晒された時の慌て様を弘美は冷静な目で見ていた
弘美はザッと立ち上がり、(紅)の秘書軍団を従えて、亮む向かって腕を組んで言った
「これ以上、拓哉の悪口を広めたら私達が相手になるわよ! 」
・:.。.・:.。.
「下沢亮が途中からあなたに暴力を振るうのではないかと、ヒヤヒヤしましたよ・・・赤坂弁護士 」
美香がテーブルのチョコレートを一つまみながら弘美に言った
「そうなると暴行罪やら色々あと2,3個は付けられるわね」
「彼を芸能界から抹殺するには十分ですね」
「そこまでは考えていないわよ」
弘美が笑いながら温かいコーヒーを一口飲んだ
「しかしとんだ見掛け倒しですね、亮は、いつから彼の本性に気づいてたんですか?」
「いつからと言うか・・・実際今日までハッキリとは分からなかったわ、ただ・・・出会った時からかな?彼はとても可愛く懐いてきてくれたんだけど小さな違和感を見逃さなかったっていうか・・・」
弘美は肩をすくめて言った
「でもあれぐらいあざとくなかったら芸能界なんてやっていけないんじゃない?私はもう関わりたくないけど 」
美香が弘美を優しく見た
「本気で訴訟を起こす気ですか?」
「まさか!忙しくてそんな時間はないわ、ちょっとお灸を据えてやりたかっただけ」
フフフフと美香が笑った
「慌てて逃げて帰って今頃すごくビビッてますよ!あんなに拓哉を敵視するなんてどうかしてるわ」
「人は自分が憧れている存在に対して嫉妬するものよ、彼は拓哉に嫉妬してると思うわ」
拓哉という単語を聞くと心が沈んだ、彼に会いたいけど、電話を掛けられずにいた、何を話せばいいかわからなかったけど、とにかく謝りたかった、今夜こそはと毎晩思いながら、結局勇気が出せず悶々と朝を迎えるのだった
ソファーに駆けられた布に目をやり、しょんぼりしてその模様を撫でた、その様子を美香がじっと見つめて言った
「赤坂弁護士・・・こんな事私が聞くのもあれですけど・・・拓哉とは?」
美香が心配そうに弘美の顔を伺ってる
「彼はとても良い人よ・・・でも・・・私が馬鹿だったと気付かされたことは確かね・・・」
声を落としてそう言った、せっかく拓哉との恋を応援してくれていた美香に申し訳ない気持ちだが、彼女に言える事はそれだけだった
そんな美香が青いチケットを弘美に見せて言った
「今日!アムザ3000シアターのムービーイベントがあるんです、それに拓哉が出演するのでチケットを奇跡的に取れたんです、すごいんです」
美香が嬉しそうに微笑む
ペラペラ・・・
「大変なんですよ!チケット発売開始と同時にスマホ、パソコンとにらめっこして、ファンクラブに入ってるからと言って必ず当たるとは限らないんです、それだけ倍率が高くて、楽天チケットに限らず、拓哉の会社は基本的にチケットの部数が多いんですけど、その分申込者数も多いので拓哉の場合は基本的にどのチケット会社を選んでも倍率は変わらないんですけど・・・ただ私の個人的な意見になるんですけどメインで使っている会社の方が良い席を用意してくれているかなって感じはしますね、さらに拓哉オタクの意見としましては・・・」
「み・・・美香ちゃん・・・話の着地点が見えないわ」
弘美が混乱していると美香がチケットを弘美に渡してにっこり微笑んだ
「み・・・美香ちゃん・・・これはあなたが苦労して手に入れたチケットでしょ?」
弘美が躊躇して答える、美香は硬く弘美にチケットを握らせて、その上から両手で包んで言った
「ごちゃごちゃ考えないで、赤坂弁護士は行くべきです!」
・.。. .。.:・
弘美は美香が差し出してくれた今夜のプレミアムチケットをぼんやり眺めていた
―今夜プレミアムイベントに行けば拓哉に会える―
しかし映画のイベントで拓哉に会うという事は当然その隣にはノエミ・クリスタルもいる・・・
途端に気分が沈み込む・・・彼を好きだということは今後もこういうことが着いて回る・・・・
今私が美香ちゃんにこのチケットを返せばまだ間に合うはず・・・・
やっぱりチケットを返そうと立ち上がった時、オフィスのドアの方から力強いノックの音がした
「どうぞ」
ガチャ!「まだおられますか?赤坂弁護士、ちょっと荷物になると思うんですけど・・・」
新人アソシエイトの桧山が大きな花束を抱えて入ってきた
「これは総務部からです、んで、こっちはアソシエイトのみんなからのお礼です・・・・それとこちらは経理部と・・・これはリスク管理課からで・・・」
桧山が次々にブランドの化粧品や贈呈品の菓子箱の入った紙袋を弘美のデスクに置いた
「長い間お疲れ様でした赤坂弁護士!寂しくなりますね!」
桧山がにこやかに言う
「ありがとう!桧山君も元気でね」
弘美は贈呈品を受け取り、桧山と向かい合い戦友の様にガッシリと握手した
「もう荷造りできましたか?何かお役に立てることがあればと思いまして」
「ええ・・・ほとんど済んだわ、ありがとう」
桧山は段ボール箱の中を覗き込んで言った、弘美はスカートのしわを伸ばして彼をそっと見た・・・・
「あの・・・桧山君・・・・お役に立てることって・・・・今言ったわよね?」
「ええ!何かあります?」
彼はくるりと振り返り弘美を見た、弘美は大きく息を吸い込み彼に少し近づいた
「客観的にものを考えられる人の正直な意見を聞きたいの」
弘美は言い出した
「えっと・・・そうじゃなくて・・・その・・・意見を聞きたいのは本当よ、それから―その意見によっては・・・勇気づけてほしいっていうか・・・」
「いいですよ?」
桧山が言う
「特に意見の方は僕の専売特許ですからね」
彼はその場に立ちつくし、次に腕を組んで面白そうな目でうなずいた
「どうぞ 」
「わ・・・私は女として・・・魅力ある? 」
弘美は尋ねた、桧山の顔がはにゃ?となって、その目が今まん丸に見開かれ、頭の中で猛烈に思考を巡らせてるのが手に取るようにわかった
「わかったぞ!僕をハメるつもりですね?」
彼は少し後ずさり真剣な顔つきで言う
「僕が正直に答えを言った途端、ドアの向こうから秘書軍団が飛び出してきて、〈性差別主義のカス野郎!〉とか叫んで〈男性優位主義のセクハラ反対!〉とか書かれたプラカードで、僕の頭を叩くんだっ!!違います?僕は騙されませんよ!赤坂弁護士!」
―私ってそんなに怖いのかしら?―
弘美は肩眉をあげた
「いいえ、違うわ性差別主義の男性優位主義者の意見こそ今私が求めているものよ 」
しばらく桧山は目を細め弘美をじっくり吟味することを続けた、良く見えるように弘美はその場で一回転した
「あなたと仕事をして僕がどれほどこの手のセクハラ絡みの発言には気を付けているかお分かりですか?わかった!男だな!さては櫻崎拓哉絡みですね!」
弘美は思わず頬が赤くなった、彼は手を叩いで頭をのけぞらせて愉快そうに笑った
「オーケー!そういうことならいいでしょう!いいですか?あなたはとても良いおしりをしてますよ、現に櫻崎拓哉はここに来るとずっとあなたのおしりをチラチラ見てましたよ!」
「それ・・・本当?」
思わず食いつき気味で聞いてしまった、咄嗟になんとか威厳を保とうと弘美は一つ咳をしたが、クスクス笑う桧山にはバレバレだ
「ええ!本当ですよ、多分彼は、ミスマッチ棒みたいなガリガリのモデルなんかより、あなたみたいな女性が好きなんじゃないかな?」
「私みたいな女性って?」
弘美がごくりと喉をならした
「いい「おっぱい」と「おしり」を持った頭の良い美人弁護士さん!櫻崎拓哉は間違いなくあなたを好きですよ、自信持ってください」
最後に桧山がウインクして付け加えた
「訴えないで下さいよ」
・:.。.・:.。.
車を飛ばして御堂筋に入るといつもの渋滞に巻き込まれた
はやる気持ちを押さえ、弘美はめったにしない行動をした、前の車に速く行けとクラクションを鳴らしたのだ
自分の気持ちが一刻でも早く拓哉に会いたいと言っている、信じられない、つい数か月前までは彼から逃げるのに必死だったのに、今では自分が彼を追いかけているなんて
弘美の中で今まで幸せと恐れは、コインの表と裏のようなものだった、今ではそれがくるくると回転している、自分が何を望んでいるかを知ってこれまでにないほどドキドキしていた
今すぐ拓哉に会って、自分の気持ちを打ち明けて、まだ彼を失っていないことを確かめたい、涙でサングラスが濡れて滑りやすくなり、しかたがなく外した
車が流れ出した弘美はアクセルを踏む足に力を込めた
アムザ3000シアターと名乗る全国的に有名なその劇場は、約2年間も大規模な改装工事用の白幕が張られていた、その前を人々は普通の道路として行き来していただけなのに
ある日、突然その白幕は取り外され、建物はレセプションイベントと同時にその見事な全貌を露わにした、シアターは4階建てのショッピングモールと合体した商業施設になり、市内では一番の人気スポットとなるだろうと予想された
吹き抜けの中央ステージでは、そこで拓哉達の法廷ミステリー映画のショートムービーお披露目プレミアステージが行われる予定だ
カメラにTVリポーター、マスコミの広告トラックなど、あらゆる形の芸能関係の取材陣が、今年大ヒットになるはずの映画のお披露目ショーを取材しに来ていた、 さらにイベントチケットにあたったファン達も大勢押し寄せ、イベントが始まるのを今か今かと待っている
シアターの前には特設舞台が設置され、おびただしい数の群衆が集まっていた、彼らは歓声をあげ、叫び、興奮していた
みんなこの映画のヒーロー櫻崎拓哉が舞台に登場するのを待っているのだ
弘美はそのステージを見てごくりと唾を飲んだ、ローリング・ストーンでの出来事が思い起こされる、それでもここに拓哉がいる、どうしても拓哉に会ってひとこと言いたい
弘美はチケットを握りしめ、人込みの中をやっとの思いで進んだ、このプレミアには譲ってくれた美香の思いがこもっている、最前列では拓哉の昔ながらの古参で怖い雰囲気を醸し出している、ファン達が押し合い、ひしめきあっていた
始まる前からさんざんお互いを押したり突き飛ばしたりしてる、弘美もその群衆の波に揉まれて気づけば舞台最前列の、赤いロープの前に来ていた、そして横を見ると関係者達の通る通路が見えた
そこには何人もの屈強な警備員達がいた、一列に並んで不審者が入ってこないか目を光らせている
―少しだけ中をのぞいてみようかしら・・・拓哉に一目会えたらそれでいいのだけど―
弘美は最前列の群衆から逃れて、その関係者入り口に吸い込まれるように向かった
警備員の中でもひときわ体格の良い警備員が、弘美を馬鹿にするかのように立ちふさがった
「何かここに御用ですか?」
返事として考えると「拓哉に会いに来たの」と自分でもバカバカしい答えが浮かんだ、通してもらえる訳がない
「ええ・・・まぁ・・・用があるかといえば・・・あるし、ないと言えばないのよね」
警備員はワイヤレスマイクで誰かとボソボソ話し出した、おそらく「頭のおかしい女が関係者入り口をウロウロしているドウゾ」とかやっているのだろう
「関係者通行証をお持ちですか?」
彼は冷めた口調で弘美を睨んで言った
「ええ!もちろん持っているわ、え~と・・・どこへやったかしら」
弘美は時間を稼ぐためにゴソゴソとバックの中を漁ったがそんなものあるわけがない
「あら!いやだ・・・忘れて来ちゃったみたい」
ホホホと思いっきり笑ってにぃーっと白い歯を見せて警備員に魅力を振りまいた
「信じてもらえないかもしれないけど、私は櫻崎拓哉の知り合いで、ひょんなことから彼と喧嘩してしまったの・・・なんとなく連絡を取り辛くなってしまって・・・それでここに彼がいると聞いて・・・・別に今日の夜でも連絡すればいいのだけど・・・なんだかすぐに話をしたくなってしまって」
弘美は肩をすくめた、この警備員には今の自分はさぞかし妄想好きな頭のおかしい拓哉の危ないファンに映ってるだろう
「本当に・・・話せば長い話なのよ・・・」
警備員はいかにも不審者を見るような目つきで弘美を見ている、つまみ出そうかどうしようか考えている感じだ
「それはさぞかしお気の毒ですな、ですが関係者通行証が無ければ、ここをお通しすることはできません」
コイツは腕力はあっても俊敏さは弘美の方が上かもしれない、弘美は彼の脚の間を通り過ぎてしまえないか、間合いを見計らっていた
がその時奇跡が起こった、 真っ黒のダークスーツに身を包んだ拓哉のマネージャーの幸次を見つけた
「幸次さん!!こーぉうじさぁーん!! 」
弘美は警備員越しに必死にぴょんぴょん跳ねて手を振った
必死に叫ぶ弘美に幸次が気が付き、驚いた表情でこっちにやってきた、弘美は嬉しくて涙が出そうだった
「ええ?赤坂弁護士じゃないか!!こんな所で何をしてるんだ??? 」
ダークスーツに彼はトップガンのようなサングラスをしているので、目が見えないが驚いているのは確かだった
そしてしばらく黙りこくって弘美を疑惑のまなざしで見ていた、もちろんサングラスで目は見えないが、弘美はハッキリ感じ取っていた、拓哉と仲たがいをしたことはこの人は知っている、幸次はポケットに手を入れ、じっと弘美を見据えて静かに言った
「で?拓哉に会いに来たのかい?アイツに何を言うつもりなんだ?」
「そっちに入れるように助けてください、幸次さん!」
「どうして俺が君を助けなきゃいけない?拓哉を傷つけた女を?」
二人はにらみ合った、きっと拓哉は彼に私の事を話したに違いない・・・幸次はつづけた
「今夜はアイツの人生の代表作になる今年一番の話題になる映画のショートプレミアイベントなんだ、それなのにアイツは問題を抱えていてね」
幸次はレッドカーペットを引かれた舞台を指さした
「なぜだかアイツはリポーターの前で無作法にも彼らに喧嘩腰でくってかかったり、カメラの前で愛想を振らなかったり、とんだ問題児でね、今かなり嫌なヤツになっている」
そこに中年の小太りの男性がやって来て言った
「拓哉があんな振る舞いをしたのを私は16年間で初めて見たよ・・・いったい彼はどうしてしまったんだい?」
「ルート監督!」
慌てて幸次が深々と挨拶をした
え?この人が?弘美は目を丸くした、ルート監督と言えば日本映画界を世界的に躍進させた、代表的な映画監督のうちの一人だ、彼の映画を知らない人はこの日本でいないだろう
「まったくもって普段の彼らしくないな、何かあったなら話してくれもいいものだが・・・」
人好きのする、優しそうな人だった、しかし彼が近寄ってきてから緊張してる幸次の様子を見ていると、この監督がどれほどの大物かなんとなく弘美も感じた
「あれでは、今日のイベントは困った事になりそうだな・・・ 」
幸次が弘美を「お前のせいだぞ」とばかりに厳しい目付きで見る、ルート監督は周りを気にしていた、弘美は二人に言った
「私ならその問題を解決できるかもしれません! 」
この言葉に二人は振り向き、俄然興味を引かれた様子で弘美を見た
「実は彼の態度に・・・心当たりがあるんです」
幸治が再び弘美に近寄ってきて、彼女をじっと見据えた、やがて幸次が弘美を見て言った
「君にどんな手があるのか見せてもらおうじゃないか」
幸次は警備員の方に合図した
「彼女を入れてやれ」
警備員は姿勢を良くしながらジロジロ弘美を見ていたけど、中に入れた弘美は安堵のため息をもらした
「拓哉はC控え室にいるだろう」
弘美は幸次を振り返ることなくレッドカーペットを早足で歩きだした、自分のしたことの大胆さに思わず両手で口を押えた
これで拓哉に冷たく袖にされたら・・・そんな事を思うと怖くて仕方がなかったが、平然とした態度で男優や女優スーツを着た軍団の映画製作会社の重役達の間を、縫う様にすり抜けた
彼らは前を通り過ぎる弘美を、当然だが誰も気にも止めなかった、そして迷路のような控室に向かう廊下のバルコニーで信じられない人を見つけた
―ノエミ・クリスタル―
弘美はいきなり世界が現実にピタリと止まった気がした
腰までの真っ黒なストレートの髪・・・彼女はきれいな砂時計型の体のラインがはっきりわかる真っ赤なドレスを、着るというより体に貼り付けていた、そして同じ真っ赤の凶器にもなりそうなハイヒールを履いている
ノースリーブのドレスからは爪楊枝のような細い腕を出していた、こんなに細いのに胸はFカップはあるだろう、ヒップも相当突き出ている、横から見たらS字フックのようだ
辺りは彼女がいるだけでデパートの香水売り場のような匂いを発散させていた、今は壁にもたれかかり、細いメンソールのタバコをふかしていた、その姿があまりにもゴージャスで思わず見とれそうになる、まるでボンドガールだ
―ビビるのはやめなさい弘美!あなただっておっぱいとお尻を褒めてもらったじゃない!お世辞かもしれないけど女はそれだけじゃない事見せてやりなさいよ!―
弘美は自分に叱咤した、 今までずっと考えていたが今後拓哉と関わるのなら、彼女は避けて通れない、拓哉の控室はこの先だ、ノエミを避けては通れない、ここは腹をくくって彼女と対決する覚悟を決めた
― 私だって拓哉が好き!絶対譲れない!―
弘美はキッと唇を結んだするとノエミがゆっくり弘美の方を向き、おや?・・・と目を丸くした
弘美も歩幅を整え、モデルが一本の線の上を歩くように優雅にノエミの前を通り過ぎようとした、 するとノエミが突然弘美の前に立ちふさがった
「あなた・・・もしかして・・・ガオールのパーティーで拓ちゃんと一緒にいた人?」
あからさまに値踏みするような目つきで弘美を見ている
「そうよ・・拓哉に用があるの、そこをどいてくれない?」
「嫌だと言ったら?」
その返事に思わず弘美はカッとなった、あいかわらずノエミは弘美を頭からつま先までジロジロ見ている、弘美は負けじと自分よりも数段背の高いノエミをキッと睨んで彼女を見上げた
「・・・それなら力ずくで通していただく事になるわね」
ノエミはその言葉を無視しキラキラした瞳で言った
「あなた・・・拓ちゃんの弁護士さんなんでしょ?とても優秀らしいわね 」
「それが何か?」
「実は先日、私と恋人が一緒にいる所をパパラッチに撮られたのよ・・・助けてくれないかしら? 」
ノエミが睫毛をパチパチして弘美を見つめる、弘美は面食らった・・・てっきり彼女と取っ組み合いの喧嘩でもする覚悟だったのに
「恋人?」
「拓ちゃんじゃないわよ」
ノエミが弘美にウインクして言った、一気に肩から力が抜けた、ホッとして言う
「ええ・・・そういうことでしたら、うちの弁護事務所から芸能人や著名人専門の告訴案件に特化した人を紹介―」
「あなたがいいの!」
ノエミが遮った、そして気が付けばずいぶん彼女は弘美の近くまで詰め寄っている、今はお互いの胸が当たりそうだ
―なんだろ?・・・この人・・・距離感バグってない?―
ノエミのカラーコンタクトの瞳がじっと弘美を見つめる、その瞳はなんだかビー玉のように思えた、思わずその瞳に吸い込まれそうになる
「わ・・・わかったわ 」
思わずつぶやいた、にっこりノエミが笑う
「ありがとう!嬉しいわ 」
ノエミが弘美をキツク抱きしめた、今や弘美の胸とノエミの胸はぴったりくっついている
―モデルって女同士でこんなに熱く抱擁するものなの?―
そう不思議に思っていると、至近距離でノエミが弘美の顔を覗き込んで言った
「・・・・あなた・・・とても綺麗な二重瞼をしてるわ・・・それ整形? 」
「ち・・・・違うけど・・・」
うなじに手をかけられゾクゾクする、弘美はノエミに対して敵意というより、なんだか自分が捕食動物になったような気にさせられていた
今やノエミはがっしり弘美の腰に手を回し、しっかり弘美を抱きしめている、そして弘美の耳元でささやく
「嫌になっちゃうわ・・・拓ちゃんと好みが一緒なんてねぇ」
―え?え?ええええええ~?―
全身に衝撃が走り、心臓が狂ったように鼓動を刻む
「拓ちゃんに飽きたら私の所へ来てね、女同士って・・・とっても快感が深いの・・・気絶するまで舐めてあげる・・・」
チュッと軽く弘美の唇にキスをした
「拓ちゃんは控え室にはいないわよ、メインホールへ行ったわ 」
「ごちそうさま」とばかりにノエミがヒラヒラと手を振って優雅に猫のような足取りで去って行った
一人残された弘美はノエミにキスをされた右頬を押さえてヘナヘナとその場に座り込んだ
―ノ・・・ノエミさんって・・・ノエミさんって―
火照った顔を手でパタパタ仰ぐ、そしてあの夜・・・拓哉とキスをした夜、彼の言葉を思い出した、ノエミとの事はただの報道でファンタジーだと・・・
拓哉は真実を言ってたのだ、間違いない彼女はレズだ、それなのに彼の話をろくに聞かないで私ったら・・・
拓哉に対する申し訳なさと愛しさがこみあげてきた、すっくと立ちあがって、弘美は再び拓哉を探し出した
メインホールに足を入れると、そこには大勢の人とその中央に拓哉の姿を確認した
ここ1か月ほどに渡って拓哉と親密になっていったけど、彼が日本を代表する俳優だということを正直言って弘美はあんまり実感することがなかった
でもこうした場面を見たら、嫌でも彼の存在の大きさを認めざるを得ない
そこに立っている拓哉はすべての活動の拠点で中心だった、このイベントで誰もが一目姿を見たがっている存在・・・
人々が拓哉を取り囲み、報道陣は彼の姿を一瞬でも写真に収めようと、カメラだけを高く上げ、ピントも合っていないのにパシャパシャ撮影している
外のファンは熱狂的な歓声をあげ彼の名前を叫んでいる
だが拓哉はこんな喧騒の中でも超然としていた、目もくらむようなカメラのフラッシュが焚かれても動じずにいる
今夜の彼もとても素敵だ、一目でベルサーチとわかる柄物のシルクのシャツを身に纏い、片方をオールバックで、そしてもう片方は前髪を粋に垂らしている
報道陣が次々にマイクを振りかざして拓哉に質問している
しかし彼は数々の報道陣に向かって一言もしゃべらず、ムッツリとしかめっ面をしている
困り果てた報道陣の表情を見ると、みんな混乱している、いつもの拓哉は報道陣や記者にはとても愛想が良いのに・・・
「ここ一週間・・・ずっとあの調子なんだ、なんとかしてくれるんだろ?」
振り向くと幸次が弘美の後ろに立っていた
あの時ここに入りたくて勢いで幸次にそう言ったものの、彼の不愛想の原因が本当に自分にあるのかどうかも自信がなかった
ただ自分はこんな所ではなくて静かな所で・・・二人っきりで話がしたかっただけだのに・・・
「あいつと付き合うってことはこーゆーことだな!すぐ慣れるさ 」
幸次がそっけなく言った
とてもじゃないけど今の超絶した「俳優・櫻崎拓哉」に近づくことはできない
カメラが回り、拓哉から一言もらおうと必死で彼を囲んでいる報道陣の所に、さきほどのノエミ・クリスタルが猫のように歩きながらやってきた、カメラが一斉にノエミに向けられる、ノエミが拓哉に何やら耳元でこれまたセクシーに囁いている
そして拓哉はノエミの指さす方にゆっくり顔をあげると、視界の中で弘美を見つけて目を見開いた
弘美は蛇に睨まれたカエルのようにその場から動けなくなった、じんわり脇に汗が滲む
弘美をとらえた彼のアーモンド色の瞳が大きく見開く、あきらかに驚いている
弘美はたった今徒競走を走ってきたと思えるぐらい鼓動が早くなった、目が泳いでの場に固まった、群衆は驚愕の表情で固まっている拓哉に気づき、彼の視線の先を追った
そしてほんの数メートル離れている弘美に一斉に注目が集まった、弘美の汗はじっとりと額にまで滲み出してきた
「ガオールのパーティーにいた女性だ!」
誰かが叫んだ
誰もが囁き、場の空気は興奮に満ちてヒソヒソ声からザワザワと喧騒に変わる
弘美はこれ以上ない程一気に緊張した、次に驚いたことにノエミが弘美に微笑みながら近づいてきた
どよっと周りが騒めく、ノエミが間近に迫り、そっと弘美に囁く
「さて、これから私は彼に振られた女を演じるわよ、弁護士の件よろしくね 」
―え?―
状況を把握できないまま、弘美が呆然と立っていると、突然ノエミが大声でわめきだした
「なによ!拓哉!こんな女の方がいいってわけ?よくわかったわ!あなたとはこれっきりよ! 」
ノエミがハイヒールで近くにあったゴミ箱をガンッと蹴って、いかにも憤慨している様に腹を立て、怒りながら去って行った、去っていくノエミを数多くのフラッシュの光が彼女の後ろ姿を真っ白にした
彼女の仕草は大いに芝居がかっていて、大げさだった
「わははは、おもしれー」
幸次が弘美の傍で笑っている、拓哉がゆっくり弘美に近づいて来た、急に弘美は拓哉だけしか見えなくなった
実際には弘美と数メートル離れている拓哉との間には大勢の人がいた
遂に拓哉が弘美の前に来た、どこかで「アクションッ!!」とルート監督が叫ぶ声がした
なぜか数台のカメラが二人の周りをゆっくり回っている
先に口を開いたのは拓哉だった
「ここで何をしている・・・?」
「ごめんなさい 」
「どうして謝る?」
カメラも・・・群衆も記者も誰もかれもが弘美を見つめている、拓哉の瞳がいつもより冷たく感じる、弘美は何も言えなくなり黙り込んだ
「今は、君の減らず口を聞く余裕は無いぞ!」
―え?ダメなの?―
弘美はパニックになった、少なくとも弘美の減らず口を彼は好いてくれていると思っていたのに
弘美が黙り込んでるのを見て、拓哉の顔は無表情から冷たいものに変わっていった
「わ・・・わたし・・・ 」
「わたし? 」
スポットライトに照らされていると、全てをさらけ出しているような気がする、今こそ彼に気持ちを打ち明ける時だ
「私はあなただけのイケナイ弁護士になりたいの!」
弘美は拓哉に向かって言った
群衆が一斉に「オォォォォ~ッ」と騒めく、泣くつもりなんかないのに自然に気持ちが高ぶって涙が溢れてくる
ヒック・・・
「あなたを信じるわ・・・拓哉・・・・私、あなたを愛している」
群衆はしんと静まり、拓哉の反応を待った、誰もが二人を見守っている
拓哉は驚愕の表情をして目をぱちくりした
そして口をキッと結び一歩弘美に近づき―――
思いっきり彼女を抱きしめた
弘美も何も考えず彼の首にしがみついた拓哉が弘美に囁く
フッ・・・
「やっと言ったなコイツ・・・もう離さないからな・・・」
「拓哉!」
拓哉は熱く弘美にキスをした、弘美も全身全霊でそれに答えた、これが映画のラストシーンなら最高の出来だ
一瞬でキスをしている二人はカメラのフラッシュを浴びて真っ白になった、リポーターや群衆からはワッと歓声が広がり、辺りは騒然となった、どこか遠くから人々の悲鳴や割れんばかりの拍手が聞こえ、周りが大騒ぎになっているのを感じた
しかし今の弘美は、そんな事まったく気にしなかった、今この瞬間、拓哉がいればそれでよかった
:・.。. .。.:・
「あなたの子猫ちゃんが来てるわよダーリン♪だから報道陣を睨みつけるのはやめてね 」
沢山の報道陣に囲まれ、ここでも臭い演技するのにうんざりしていた拓哉に、ノエミが耳元で囁いた
―なんの事をいってるんだ?―
ノエミが指刺す方向を見ると、そこにはまさしく弘美がいた、不安の色を浮かべた小さな顔がこわばっている、今にも泣きそうな顔をしている
一気に自分の口元が緩みそうになるのを必死で我慢する、周りは報道陣でいっぱいだ、デレデレしている自分を見せるのも癪にさわる
「どうしてここにいる?」
「ごめんなさい」
「なぜ謝る?」
―この顔に弱いんだよな―
・:.。.・:.。.
初めて会った時から自分はこの勝気な顔に魂を持っていかれていた、彼女を追いかけるのが楽しかった、困らせるのも、そして彼女が惨めな思いをすると、自分の事のように心が痛んだ
拓哉は愛って不思議だなと思った、ついさっきまでイライラして心は不安定だったのに、顔を見た途端、自分の心は温かさでいっぱいになった
彼女を愛している、そんな彼女が許しを請う為に、自分の所へやって来たのが分かったなら、謝罪を受ける前にもうすでに許しているというものだ
もともと何を言われようと、されようと、彼女を嫌いになれる訳がない、彼女を求める気持ちを捨て去る事など到底自分には無理なんだから
「愛しているわ拓哉・・・」
涙ながらに彼女の告白を聞いた
―泣いた顔も可愛いぞ―
・:.。.・:.。.
オーケー!もういいだろう、拓哉は精一杯強く、温かく弘美を抱きしめキスをした、彼女の口を自分の口で開けさせ、中を味わう、彼女は震えていたが精いっぱい拓哉のキスに応えていた
男性経験が浅いのは彼女の醸し出す雰囲気から見て取れた
キスが終わる頃には拓哉の心臓はまるでマラソンを走り終えた時のようにドキドキしていた
幸次が笑いながら二人の肩をポンッと叩いた
「おい!拓哉!報道陣に説明するべきだぞ!それとも改めて記者会見の場を取っ手もいいけどな!とにかくこの場をなんとかしろ!」
拓哉は弘美の肩を抱き、じっと彼女を見つめた、さきほどのキスで頬は紅潮し、瞳はキラキラしている、彼女次第だとばかりに問いかける
「・・・いいのか? 」
弘美はにっこり笑って言った
「私はもうあなたの人生に関わることに決めたの、私の事・・・あなたの好きに紹介して」
その言葉と同時に一斉に拓哉と弘美は報道陣に囲まれた、数えきれないほどのマイクとカメラが、たちまち二人の顔の前に突き付けられた
みんな一斉に質問する
「櫻崎さん!この女性はどなたですか?」
「先日のガオールのパーティーでもご一緒でしたよね?」
「この女性とはどういうご関係なんですか?」
「女優さんなんですか?」
「モデルさんですか?」
弘美は沢山の報道陣の勢いに圧倒された、不意に反対尋問される側の気持ちがわかった、いったいどう答えたらいいのか頭が真っ白になった、体は固まり、顔は強張る・・・
そしてこういった事のスペシャリストが口を開いた
「みなさん!彼女は赤坂弘美さん!女性弁護士さんです、そして・・・」
全員が、弘美さえも固唾を飲んで拓哉の言葉を待った
「彼女は僕の婚約者です!彼女と僕は結婚します! 」
「えええええええええ~~~~~~???」
拓哉の言葉を一番驚いたのは他ならぬ弘美自身だった
:・.。. .。.:・
茶色いブラインドから朝日がこぼれるのを、弘美は身動きせずじっと見つめていた
横には拓哉の寝顔が間近にある
プレミアムイベントが終わってからは、とても騒がしくて、慌ただしくもあり、そして幸福だった、イベント会場から逃げる様に彼の所有するタワーマンションに向かい
ワインのボトルを二人で空け、一緒にシャワーを浴び、そこからはまさしく朝までベッドにいた、千回はキスをしたであろうお互いの唇を貪り合った、そして夜が明ける頃には、弘美はまさしく拓哉のイケナイ弁護士に変わっていた
拓哉ときたらセックスでNGなことは何一つなく、どんなことにも躊躇わなかった
そして意地悪なぐらい辛抱強く、周到だった、弘美は初めて立て続けに絶頂を迎え、体をバラバラにされてもう一度組み立てなおされたような気がした、朝方にはくたびれ果て、満足しきって弘美は、拓哉の腕の中で丸くなって眠った
そして窓から差し込んでくる弱い朝の光の中で目覚めると、拓哉が弘美の頭の上であくびをした
伸びをする体が震えるのがわかる、あまりにも素晴らしすぎて、現実とは思えないぐらいだ
重たい男らしい体が自分の横にあり、かすかな内側のヒリヒリした痛みが昨夜の喜びを思い出させてくれた
ぴったり体を寄せていると、脚に焼けつくような硬さがおなかに当たるのを意識せずにはいられなかった
「う~ん・・・たまげたな・・・昨日あんなにしたのにこんなの初めてだ・・・十代のセックスを覚えたてのガキみたいだ」
頭の上でかすれた声がした、自分が夕べ手を入れてクシャクシャにした前髪から片目を覗かせて、こちらを見ている、なんてセクシーなんだろう
弘美は思わずゾクゾクした、脚のつま先で毛深いむこうずねをそっと撫でて、恐ろしいぐらい硬く・・・熱くなってるものをそっと握った
「無駄にするのはもったいないみたい・・・」
「イケナイ弁護士め・・・ 」
彼がにやりと笑った、すっかり燃え上がった弘美は彼の上に這い上り、自ら彼を自分の体の中に埋めた
朝日の中、彼の笑い声が響き、拓哉が突然体を返して弘美をバックから抑え込んだ
「二人で猫のようにつながろう・・・」
そう言うと拓哉は弘美の首筋の脈を打ってる部分を舐めて軽く甘噛みする、さらに浅く突きながら、手は弘美の敏感な突起を弄ぶ
ありえないぐらいのみだらな快感に、今まで他の男としてきたセックスは遊びのようなものだったと感じた、弘美は彼にしっかりと押さえつけられ、全身を駆け抜けていく恍惚の波に酔いしれた
今まで弘美は自分の力で難局を切り抜けてきた、でも誰かから力をもらえることを知ったのは新しい発見だった
炎のような激しさとやさしさに溢れるキス・・・受け止めきれないほどの愛に満ちたセックスに、この人との人生は想像を遥かに超えたものになるだろうと考えていた
激しく腰をふりながら拓哉が言った
ハァ・・・・「もう逃げられないからな弘美・・・覚悟しろよ 」
逃げるつもりなんかない、私の帰る所はあなたの元よと言いたかったけど、こんなに激しく責められていては、よがり声しか出せなくなっていた
―ああっ!一番奥を突かないで・・・気絶しちゃう・・・―
「愛している」
「愛している」
拓哉が腰を振りながら、結婚指輪を買いに行こうと言った
弘美は絶頂を迎えながら思った
それも悪くはないが、まだまだベッドから離れたくないのが本音だった