テラーノベル
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「なぜそんな悲しい顔をなさるのですか?」
俺は左手で優しく銀髪を撫でる。
フィル様は何度も目を|瞬《またた》かせて涙をこらえると、前を向いて更に早く歩き始めた。
「フィル様…」
「僕のためにラズールが傷つくのが嫌なんだ。ラズールはどうしてそれがわからないの?」
「…申しわけありません」
「僕のためであっても、今度したら、ラズールとはもう会わないからっ」
「それは困ります」
「じゃあ約束して」
「……はい」
フィル様が足を止めてこちらを向き、じっと見つめてくる。
はいと言ったものの、俺はまた、フィル様のためなら無茶をするだろう。こんな怪我など|些末《さまつ》なことだ。フィル様のためになるなら、腕や足を失っても構わない。でも、俺が怪我をすることによってフィル様が悲しむのなら、|善処《ぜんしょ》する。フィル様を悲しませたくないのに、俺が悲しませてどうする。
俺はフィル様の肩に回した右手で、滑らかな頬を撫でた。
「承知致しました。もう危険なことはしません。だからフィル様、俺のことで心を痛めたりしないでください。フィル様は、自身の幸せのみを考えて…」
「違うだろ。俺とフィーの幸せを考えてください、だろ?」
「リアム!」
前方からバイロンの第二王子が現れた。俺の言葉をさえぎり、いらぬことを言う。第二王子の幸せなとどうでもいい。俺の最優先は、フィル様だけが幸せであることなのだ。
第二王子がフィル様に向けて手を差し出す。
「おいでフィー。遅いから心配したよ」
「ラズールがいるから大丈夫だよ。それに待って。先にラズールが行きたい場所に連れて行くから」
「おまえが行かなくとも、ゼノが代わりに連れて行ってくれる」
「え?」
第二王子の後方から、ゼノが顔を出した。俺の顔を見るなり、慌てて寄ってくる。
「ラズール殿っ、歩いて大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。ゼノ殿が治癒をしてくれたのか?素晴らしい治癒魔法だな。もう痛くない」
「応急処置は俺とジルでしたけど、しっかりとした治癒は、ジルの祖父母が診てもらっている医師がした。かなり腕がいいという話だったが、本当だったのだな」
「そうか。後日、ジルの祖父母殿に礼状を送ろう」
「ジルは気にする必要はないと言ってたぞ。ところでどこに行きたい?」
「鉱石はどうした?」
「まあ気になるよな。フィル様、ラズール殿を連れて行きますがよろしいですか?」
「うん」と頷いて、フィル様が俺から離れ第二王子の傍に行く。第二王子にピタリと寄り添う姿を見て、もう慣れたはずなのに俺の胸がチクリと痛む。
「ゼノ、ラズールの具合が悪そうだったら、すぐに休ませてね」
「はい。よく注視しておきます。ではリアム様、フィル様、失礼します」
「|夕餉《ゆうげ》は皆で食べるぞ。ラズール、おまえの回復祝いだ」
「…ありがとうございます」
|微塵《みじん》もありがたく感じていない声音で礼を述べると、ゼノに支えてもらいながら、先ほどとは反対の方へと廊下を進んだ。
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