「僕のファンの方が、僕の友達を救ったんですよ!すごくないですか?偶然もまた縁ですよね〜」
嬉しそうにあの日のことを語るラジオ。収録の日は最近テレビにも引っ張りだこで忙しいのかな。来都くんのこと全然見かけなくなった。
仕事もうまく行かず、毎日誰かに迷惑をかけることにものすごく不安を感じていた。来都くんのことを考えて、余裕のある人間を目指そうとしても心が折れる。自分がなりたい自分になれないし、推しが好きな人間性にも程遠くなってしまった。
「はぁ。また満員電車」
最近は出勤の時間も早めないと仕事が終わらない。私たちの代は就職困難期と呼ばれ、やりたかったことを仕事にできたわけでもなかった。もうとっくに限界を超していた。消えてしまいたいぐらいどうでもいい毎日に、生きている価値を感じなくなった。
「何度言ったらわかるんだ!」
寝不足も含めて仕事ではミスばかり。私はこの仕事に本当に向いていない。推しのために頑張れたあの時の私は、もう限界を越していた。帰りもまた満員電車に乗り、こんなにも残業している人たちばかりなのかと世間に憤りを感じた。
もう、生きていたくない。それぐらい悩み、疲れながら帰る毎日だった。やっと最寄駅に着いた頃、意識がだいぶ遠のいた。最近自炊ができていないせいで食費にお金がかかる。ご飯も買わないとだし、タクシーを使うのもキツい。頑張って歩こう、それしかなかった。
バタッ
駅から数分歩いた頃、私は崩れるように倒れてしまった。この時は意識もなく、倒れた感覚もなかった。まるで初めての感覚だった。
来都くんと歩く時も人の目を気にしなくていいぐらい人気のない道端で1人、助けを求めることもできなかった。
「もも、ももちゃん?ももちゃん!!!先生、意識戻ったみたいです。今目が開いて…」
気づいた時には病院にいた。視界はぼやけて何も見えない。ただ、声だけは聞き取ることができた。
「…これは、来都くんだ」
手も口も動かせない、そんな状況でも推しの存在は理解できた。しかしなんでここに…私はハッとして一瞬で意識を戻した。
「ももがやっと目を覚ましたよ…」
状況の判断がつかず、頷くことしかできないままその時の状況を聞いた。
“来都くんは大学の帰り道、私のことを見かけた。来都くんは追いつくことができなかったが、一瞬にして倒れてしまった私を走って追いかけ、目を覚まそうと必死に声をかけるも意識がない。慌てて救急車を呼び、一緒に付き添って病院に来てくれた”
来都くんは大学帰り道、歩いて帰る途中だった。今日はゼミの課題をしていたみたいで、すごくうとうとしている。私も気力を完全に失って、声を出すことができなかった。
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