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昔々の引き出しは、若干埃かぶっていた。少し埃のこもったような部屋の中明かりもつけず、私はきっと自分の城と比喩するべきな、小さな部屋にたたすんでいる。
暗い暗い古城の中の小さな小さなミステリー。そんなものも書いていたなと少し感慨深く思ってしまう。未完成の物語たち。憂鬱なまま私はそこに腰掛けた。何を書こうか、何をしようか。つれづれなるとはこのことだ。
なぜか知らぬが思い出す。昔々の引き出しにただ一心に呼ばれたような、そんなような気がしてしまい居ても立っても居られなくなる。
少しだけ、覗いてみようか。重い腰を少し持ち上げ私はそれを覗いてみた。開けてみると昔の香り、そんなものを感じていた。何もなかった私の城に昔の時間蘇る。きっとこの引き出しだけは昔のことを覚えていた。フワッと香る埃の香り、それは過去と同一なのだ。
あかりも外の白昼の夢、ドアの奥から溢れる以外何一つなき暗黒の中、それなのに、それは私にしっかと見えた。
真っ白な、原稿用紙。しわひとつなく、静かに佇む。私にすれば不思議な物だ。全ての紙は私によってなにかしら書き果たされた、なのにこれは残っていた。
真っ白な、原稿用紙、なぜか知れぬがこの紙に、今の私が書くべきでない、そんなふうに思ってしまう。時が止まった原稿用紙、この古城の時計は今も、猶予なくせわしく回るこの中に、ひとつだけ、時が止まった原稿用紙、まるで世界が違っていた。
ひとつだけ、時が止まった原稿用紙。まるで今、出されたばかりの原稿用紙はずっと昔の原稿用紙。かれに埃の落ちるその前黙って私は扉を閉じる。ここだけは、昔の時が今も流れる、それを愛おしむ、そうではなくて私が触れてはならぬように、昔の私が語りかけた。なぜそのように感じるか、その真意など誰にもしれぬ。