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金子りさ
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コメント
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第25話、読みました。インフルエンサーの“ビジネス婚”提案、かなり衝撃的でしたね。特に「私の体に興味ありません?」の投げかけと、潤さんの「若い体に飛びつく男なら…」という返しの対比が印象的。でも一人称がうっかり「俺」になるところに、彼の内心の揺れがちゃんと見えて、そういう細かい心理描写が好きです。次が気になります!
「俺が、そう言われて『はい』と頷くとでも?」
つい一人称が『俺』になってしまった。
「思ってないよ。だからプレゼンさせて欲しいの」
くすっと笑ってソーダをストローで一口飲む様子は、まるで友達と他愛のない会話を楽しんでいるかのような雰囲気だ。
聞いたところで俺の気持ちが変わるはずもない。しかし、聞かないことにはこの場面は終わらないだろう。
俺もまた一口、アイスコーヒーを飲む。舌の上に残るほろ苦さを感じながら、静かに耳を傾けることにした。
「私は一応、他人から見ると成功したインフルエンサーかもだけど、それを永遠に続けるのは無理だってことは理解しているの。だから今のうちに色々とコネを作ったり、イベントを海区で打ったりしているけど、それにも限界がある」
「そうだろうね。インフルエンサーなんて一過性のものだし、次々と新しい人間が生まれてくる」
「だから、私は二十代半ばの今のうちに早く結婚して、本格的にビジネスに鞍替えしたいわけ。で、私が心底欲しいのはファンやフォロワー数なんかじゃなくて、誰もが羨むような、賢くてカッコいいビジネスパートナーなの」
「君のスペックなら、相手には困らないだろう」
俺の前に置かれたアイスコーヒーの中の氷が、カロンと軽やかな音を立てた。
それを合図にしたかのように、彼女はふぅっと大袈裟に肩を落とす。
「──それが困っちゃう。なまじインフルエンサーなんてやっていると、普通の男とは感覚が合わないし、同業者と結婚なんて絶対無理。イベントで知り合うハイスペックな男は良くて舞台俳優か、年の離れたIT社長くらい」
「だったら、その舞台俳優で手を打ったらいい」
「あーいうのは、最終的にプロ彼女が持って行くモンなんですよ。海区系女子はセカンドにされがちだし、舞台俳優にビジネスパートナーなんて絶対に無理。オジサンIT社長なんて、体目的の癖にこっちを見下してくるし、ビジネスモデルや価値観が合わなくてもっと無理!」
彼女は、イヤイヤと大袈裟に首を振った。
緩く巻いた髪が揺れて、スカイガーデンの植物の匂いに混じって甘い香水の香りがする。
本気でビジネスをしたいなら、一人でやればいい。
どのようなビジネスかは知らないが、パートナーなどいなくても事業を起こすことは可能だ。
そう、やや非難めいた視線を送ると、彼女はそれをパッと煙に巻くように軽く受け流した。
「あぁ、言いたいことは分かりますよ。一人でやればいいって。私もそう思うんですけど、この社会って多様性を謳いながら、結婚して、子供を作って一人前っていう暗黙の了解があるんですよねぇ」
「それは否定しない」
「だからぁ、社会的信用が得られやすいのが結婚なんですよね。潤さんと私が結婚したら、信用も相手もゲット出来て一石二鳥。ふふっ。なので──潤さんは私に恋愛感情がなくても良い。一緒に私とビジネスしてくれたら良いんですよ」
彼女は言う。ベンチャー投資をしたい、と。
自身が持つ強い影響力や専門知識を活かし、まずは自分のような女性インフルエンサーを作り上げて、将来性のあるスタートアップ企業へとマッチングし、市場を広げる。
ゆくゆくは投資や事業支援、企業のブランドプロデュース・コンサルティングを行っていきたいと言った。
その年齢にしては、悪くないビジネスモデルだろう。
彼女の言う通り、若くして結婚をしているほうが、彼女がターゲットにしているメイン層の安心感に繋がるのも確かだ。
「しかし、私が君と結婚して、私には何の得がある」
思わずまた『俺』と言いたくなるのを堪えて、硬い口調のまま質問をした。
すると彼女は、つつっと意味深に自分の身体を抱きしめる。
「私の体に興味ありません?」
「──なんだって?」
眼鏡がずれてしまいそうになる質問に、もう一度「なんて言った」と聞き返す。
「恋愛でしかセックスしない、なんて幻想でしょ。愛の形がそれぞれなら、セックスのあり方もそれぞれ。私は知佳ちゃんより若いし、プロポーションもいい。そして私のビジネスが成功したらインセンティブ、粗利益額の最低10%は支払うので、ビジネス婚だとしてもかなり、良いんじゃないかな」
今時という価値観、もしくは詭弁。
知佳を下げる発言は、きっと本人はなんとも思ってないと感じた。
怒りを散らすように眉間を軽く揉んでから、静かに口を開く。
「私が若い体に飛びつく男なら、君が老いたときに私が、他の若い女性に飛びつくリスクがあるとは思わないのか?」
中々下世話な会話だと思い、深呼吸して肺に植物の香りを流し込んだ。