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あの日から、数週間が経つ。


私はRioの曲を全て聴き通し、言葉の一つ一つ、歌詞の一文一文を心に留めて行った。曲を聴けば聴くほど、Rioは私の中で、かけがえのない存在になっていった。


でも、Rioのことを周りに打ち明けることはできなかった。友達にも「最近楽しそう。何かあったの?」と聞かれたけど「何もないよ」の一点張り。どうしてかは分からない。

楽しいはずなのに苦しくて、嬉しいはずなのに悲しい。この感情の名を、私は知らない。






少し、肌寒くなってきた今日この頃。オレンジ色に染まる廊下には、私以外の姿は見えない。


今まで、図書室で勉強をしていた。そろそろ帰ろうと思ったとき、英単語帳を教室に忘れてきてしまったことに気づいた。明日は英語の小テストがある日だ。勉強は普段からしているけど、やっぱり前日には確認しておきたい。そう思い、少し離れた教室まで戻ることにしたのだ。



夕方の校舎に人の気配は少ない。テスト期間の今、ほとんどの生徒は下校している。

「さっさと取りに行って帰ろう…」

教室まで来て、ドアに手をかける。すると

「あはは!何それおもしろ〜!」

「でしょでしょ〜!」

ドアにかけた手は、そのまま固まった。そしてゆっくりとドアから離れる。

多分、中にいるのは私の友達と隣のクラスの子だろう。一人は友達だとはいえ、お話ししている中に堂々と入っていけるほど私は強くない。お話終わるまで待つしかないかな…。そんなことも思っていたとき、教室の中の空気が変わった。

「ねぇねぇ。“あの子”とどうなったの?」

「あ〜あれね…」

…これは良くない空気だ。私は知っている。重くて、それでいて好奇心が混ざっているこの空気を。

英単語帳は諦めて、早く帰ろう。

しかし次の瞬間、昇降口へ向けた足は進むことはなかった。


「真奈のことでしょ?」


あぁ。やっぱり。どうして早く帰らなかったんだろう。誰に向けてかも分からない感情が込み上げてきた。これ以上聞いても苦しくなるだけ。それなのに私の足は言うことを聞かない。


「あの子、顔はまぁまぁ可愛いから仲良くしてたけど、話してみても全く面白くない」

「ほらぁ。私の言った通りじゃん!」

「自分のこと何にも話さないし『あなたとは関わりたくないです』って言ってるようなもんだよ。イライラする」

「良い子ちゃんだもんね〜」


頭の中で、同じ言葉がぐるぐると回る。「面白くない」「イライラする」「良い子ちゃん」


とっくに二人の話題は人気の韓国アイドルになっていた。








どうやって家に帰ったかは覚えていない。気がつくと自分の部屋にいた。

お母さんはいなかった。そういえば、今日は高校のお友達とご飯に行くって言っていたっけ。


急に、一人の部屋が寂しく思えた。いつもは全くそんなことないのに。いつもはずっと一人になりたいって、思っていたのに。


息が苦しい。寂しい。辛い。怖い。


…あぁ。分かった。私は怖いんだ。

誰かに嫌われることも、一人ぼっちになることも。全部怖いんだ。

だから、周りの人全員に壁をつくって、自分が傷つかないようにして、ずっと自分を、不安定な盾で守っていたんだ。


……でも、今更分かったところで何一つ変わらない。つくった壁は簡単には壊せない。



私が孤独なのは、変わらない。



ピコン。

スマホの通知がなって、画面が明るくなる。

「……え、Rio?」

それは、Rioの配信が始まることの通知だった。Rioを知ったのは、もう半年ほど前だけど、Rioの配信を見たことはない。タイミングが合わなかったし、何より、Rioの配信は滅多にないことなのだ。

私の指は操られたかのように、私をRioの配信へと導いてくれた。



配信時間になり、Rioのアバターが画面に映し出される。たくさんのコメントに反応しながら、笑顔で配信が始まった。今日は、あらかじめ募集していた質問に回答する、質問コーナーをやるらしい。「好きな映画は?」「最近ハマっていることは?」など、Rioについての質問が多く届いている中で、 Rioがある一つの質問に目を止めた。

「今日、仲の良い友達が私の悪口を言っているところを聞いてしまいました。友達からの本音にとてもショックを受けています。Rioさんは、辛いとき、どうやって乗り越えていますか?」

Rioがいつもの落ち着いた声で読み上げる。

この人、私と同じだ…。

私は静かに、Rioの回答を待った。


「質問、ありがとう。そうだね、この出来事は俺でも相当辛いことだと思うよ。でも、これをただの『悪口』と見るんじゃなくて『本音』として見ることができるのは、すごいことだと思う。乗り越える方法か…」

Rioは悩む素振りを見せた。そして

「…ひとつ、良い言葉があるんだ」


『未来で、過去の話をしよう』


「この言葉は俺のお母さんから教えてもらったもので、二つ意味があるんだ。一つ目は、『もし今すごく辛い状況にあって、それがすごく大きな悩みだったとしても、未来の自分からしたら、すごく小さなことかもしれない』って意味。二つ目は『未来の自分が笑って話せるような今を過ごそう』って意味。」


「こんなこと言ってるけど、俺も中学生や高校生のとき、めっちゃ辛いことあったよ。でも実際に今、こうやってみんなと出会って、こんなに楽しく過ごしてる。この言葉の解釈は人それぞれだけど、これで少しでも、みんなの気持ちが楽になってくれたら嬉しいな。

そして今、自分を変えたいと思っている人へ。自分を変えるのって、とても大変なことなんだ。だけど、“変わりたい”と思ったら、自分の心に素直に従って。絶対に変われる。俺がついてるから」


「よし、そろそろ配信終わるね。最後まで一緒にいてくれてありがとう。

みんなの“明日”が良い日でありますように」


またね。と言って、Rioは画面から消えた。


未来で、過去の話を______


衝撃的だった。そんなこと、今まで考えたことなかったから。

『未来の自分が笑って話せるような今を』なんて、自分には絶対に無理だ。未来なんて、変わらない。


でも…


“変わりたい”こんな自分を“変えたい”


不思議だ。Rioに言われると、なんでもできるような気がしてしまう。


自分を変えよう。

未来の自分が、笑って話ができるように。


そう思いながら私は、スマホのアラームの設定をしなおした。

明日の朝が、いつもと少しだけ 変わるように。

 end.

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