由香は少しずつ自分の心を整理していく中で、新たな希望を感じ始めていた。天城との関係が完全に断たれたわけではないが、その束縛から解放されたことによって、心の中に少しずつ余裕が生まれてきた。毎日が少しずつ平穏になり、彼女の心も以前のように暗く沈むことはなくなった。
その日は特別な日だった。由香は、ずっと行きたかった小さな美術館に足を運ぶことに決めた。千尋に誘われることもなく、一人で行くことにしたのだ。美術館の中は静かで、誰もがゆっくりと絵画や彫刻を鑑賞している。その空間の中で、由香は自分を取り戻すような感覚を覚えていた。絵画に触れることで、彼女は自分の中に新しい世界が広がるように感じた。
「ああ、この色、なんて美しいんだろう。」
由香は思わずつぶやきながら、ひときわ目を引く風景画に視線を向けた。そこには、広がる空と、静かな海が描かれていた。色と光が調和していて、まるで絵の中に吸い込まれるような感覚があった。
その瞬間、由香は深呼吸をして心を落ち着けた。ここにいる自分がとても自然で、心から安らげる場所だと感じた。天城のことを考えない自分、彼に支配されることなく、自分の人生を楽しんでいる自分をようやく見つけた気がした。
その日から、由香はもっと自分の感性を大切にしようと心に決めた。日々の小さな幸せを見つけること、好きなことをすること。それが、今の自分にとって何よりも大切なことだった。
翌週、千尋と再びカフェで会った由香は、少し顔色が明るくなったことに気づいた千尋が微笑みながら言った。「由香、最近、元気そうだね。美術館に行ったんだ?」
「うん、行ったよ。すごくいい場所だった。」由香は楽しそうに話した。「絵を見ていると、なんだか自分の気持ちが整理されていく気がする。」
千尋はうなずきながら、「絵を見て、自分を見つめ直すことができるんだね。由香、君が少しずつでも前向きになれてるのを見るのは嬉しいよ。」
その言葉に、由香は少し照れくさそうに笑った。「ありがとう、千尋。私、これからも自分のペースで少しずつ進んでいこうと思う。」
千尋は心から応援しているという表情で、由香の肩を軽く叩いた。「それが一番だよ。焦らなくていいんだよ、由香。君には君のペースがあるから。」
由香はその言葉に励まされながら、もう一度自分の未来を見据えた。まだ完全に心の中で天城との決別ができたわけではないが、それでも今は前に進むことが大切だと感じていた。
その夜、由香は一人で公園を歩きながら、ふと天城のことを思い出していた。彼のことを忘れることは簡単ではなかったが、それでも彼との過去に囚われるのではなく、自分の足でしっかりと歩むことが大事だと感じていた。
「私は私の人生を生きる。」由香は自分にそう言い聞かせるように、空を見上げた。今度こそ、彼の影に縛られることなく、自分らしく生きるための第一歩を踏み出したと感じていた。
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