テラーノベル
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そよそよと風に揺れる藤の花。
そこに現代には似つかわしくない着物を着た男性が立っていた。
ここはある県の中にある植物園。
季節により色とりどりの花が咲き、私の心を癒してくれる。
私はこの場所が大好きだ。
今日もこの植物園に来た。
「綺麗…」
今見ているのは藤の花。
風に揺れると、いい香りがこちらに漂ってくる。
その匂いを嗅ぐと心が落ち着くのを感じた。
横を見ると、蝶が舞っていた。10匹ぐらいは舞っている。
見惚れていると、こっちに来なさいと言うように一匹ずつくるくると私の周りを飛び、前に進んだ。
私も見失わないように、少しかけ足で蝶を追いかけた。
しばらく進むと、私も見た事がないようなところに来ていた。
藤の花が咲き誇り、その鮮やかな紫を見せつけながらそよ風に吹かれる。
それも美しかったが、私がさらに美しいと感じたのは
その下で、藤の花を見ている男性だった。
昔の人のような雰囲気で、顔は俳優のように整っており、髪は一つに束ねていた。
一瞬、美しすぎて女性かと思ったが、そのがっしりとした体格から男性だと察した。
私に気づいたのか、こちらを見る男性。
「あ、すみませんっ…綺麗で、見惚れてしまいまして…」
心に思ったことをつい話してしまう。
それでも、男性は嬉しそうに微笑んだ。
「あら、ありがと」
その口調から、私はさらに察してしまった。
この人はオネエだと。
あまり見ない特徴の人物に新しい扉を開きそうになったが、すんでの所で閉めた。
男性の周りを蝶が飛ぶ。
懐かれているようで、その人が微笑むと蝶も心なしか嬉しそうに見えた。
「ふふっ、可愛いでしょう?あたしのお気に入りの子たちなの」
そう言い、私の周りにも蝶を飛ばせる。
鱗粉が光り、幻想的だった。
「うわぁ…!綺麗ですね!夜に飛ばしたらもっと映えるかも…」
想像すればするほど、その景色が見えてきた。
月明かりに照らされながら舞う光る蝶たち。
風に吹かれる藤の花もセットだ。
それと…今目の前に立っている人も。
「貴方、綺麗なものが好きなの?」
ふと、そんなことを聞かれた。
「はい、好きです。特に…花とか綺麗で好きなんです」
そう言うと、目の前の彼は嬉しそうに微笑み、私の隣に座った。
「あたしも同じよ」
耳元で囁かれて、少しドキドキしてしまう。
吐息混じりのその声は、低い声も混ざっていた。
まるで、吐息という甘さに隠された苦味のよう。
声まで美しいだなんて、うまく出来すぎた芸術品だ。
「ね、貴方名前なんて言うの?」
今度は、左耳に囁かれる。 やっぱりドキドキしてしまう。
「え、えっと…四葉って言います」
声が裏返ってしまって恥ずかしい。
赤くなる顔を手で必死に隠した。
ちらりと隣の彼を見ると、こちらの顔を見たそうに覗き込んでいた。
それがあまりにも可愛いので、つい隠していた手を膝においてしまった。
「あたしは藤巳よ。四葉ちゃんね。改めてだけど、よろしく」
相変わらずの微笑みで私を見つめる。
その瞳は海のような青で美しい。
宝石に例えられそうだ。
もし例えるなら、サファイアかもしれない。
深い深い海の色。そんな宝石が藤巳さんの目にはめ込まれているのかもしれない。
そんな瞳に見つめられると、深海に沈みそうな感覚がした。
「藤巳さんは藤の花が好きなんですか?」
頭の中に思った疑問をそのまま口に出してみる。
「あたし?もちろん大好きよ」
話してくれたのは、藤の花を好きになった理由。
藤巳さんの実家は藤がたくさん咲いているところにあり、その藤を見ているとすごく落ち着くからだそうだ。
小さい頃から見ていると、安心するのだろう。
話している時の藤巳さんは、どこか懐かしい者を思い出すような表情だった。
「あ、そうそう…あたしねこの蝶達にある者を探させていたの」
「ある者…ですか?」
そう言うと、飛んでいた蝶たちが藤の花に止まる。
鱗粉が藤にも付いて、花が光りとても綺麗な景色を作り出す。
「あたしと気が合う子よ。色々探していたら四葉ちゃんに会えたってわけ」
私の手を握りながら言う。
藤巳さんの手は大きくて、私の小さな手なんかすっぽり収まってしまうほどだった。
それでも、しっかりと手入れをしている綺麗な手だった。
「ね、四葉ちゃん。あたし…貴方のこと好きよ」
少し照れながらの告白。
そんなことしたらこっちだって赤くなる。
反応に困っていると、急に抱きしめた。
「あたしじゃダメだっていうの?あたしの人生めちゃくちゃにして?」
あぁ…ダメだ。
そんなセリフを言われてしまったら、私の心は藤色に染まる。
そう、貴方色に。
結局、告白はOKしてしまった。
一生彼氏なんて出来ないように思えたから、正直言って嬉しい。
今も、こうして藤巳さんとよく植物園に行く。
「ほら、四葉ちゃん!ネモフィラ畑よ!綺麗ね〜」
一面に咲くネモフィラに、 私も藤巳さんも釘付けになる。
今日もあの時のそよ風が吹く。
「あたし、貴方に出会えてよかった」
そう言い、私のファーストキスを奪った。
唇は柔らかくて、もっと味わっていたかったほど甘かった。
「私も、藤巳さんに出会えてよかったです」
精一杯のお返しをして、今日初めてのデートの続きを描き始めた。
優しいそよ風が吹いたら、それはきっと春の訪れ。
コメント
2件
絶対私が好きなタイプのビジュなオネエと見た 皆さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!実は私のスマホのホーム画面、ネモフィラなんですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!運命でしょうかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!(?&爆音)