テラーノベル
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一体どれくらいの時間が経過したのだろう。数分程度のような気もするし、一時間以上であるような気もする。
「ぜえ、ぜえ、ぜえっ……」
楓は床に倒れたまま、荒い息をしていた。鼻を潰されて派手に流血したので、息が苦しくて仕方ない。鏡がないのではっきりわからないが、顔も何度か殴られたので腫れあがって酷いことになっているだろう。こんな姿、両親が見たら卒倒してしまうな、とどこか他人事のように思う。
しかし顔以上に痛くてたまらないのは股間と下腹部である。そのあたりを集中攻撃するあたり、綾乃の女性としてのコンプレックスが透けて見えるようでなんとも不憫だった。そんなことをしたって、彼女の女性としての、人間としての魅力が上がるわけではない。彼女が誰かに認められるなんて絶対にないというのに。
――明らかに、骨は折らないように、してる……。
何度も蹴られたし殴られたが、まだ両手両足も無事だし多分アバラも折れていない。
実のところ、肋骨というのは折れた場合命に関わることもあるのだ。それこそ折れた骨が肺に突き刺されば、呼吸ができなくなったり心臓を圧迫して死に至ることも少なくない。綾乃にそこまでの知識があるのかは定かではないが、少しでも長く楓を苦しませるため、致命傷になりかねない傷は与えないようにしているのかもしれなかった。
とはいえ、そろそろ手足の方は折られそうな気がしてならないが。
――何か、ないの?ここから脱出する方法。せめて、この人形みたいな奴らを倒す方法……!
必死で頭を回し始めたその時。灰色の人形の一体が、楓の上に覆いかぶさってきた。綾乃の声が響き渡る。
『まだ負けを認める気がないの?自分がやったことが愚かだったと、正直に謝罪する気にならないの?ほんと、あんたも強情ね』
なるほど、と楓は少しだけ理解した。殺さないようにしているのは楓を長く苦しめるためという目的の他に、楓を屈服させたいという気持ちもあってのことということらしい。
つまり、彼女は楓に「ごめんなさい、私が悪かったです」を言わせたいわけだ。言わせてすっきりしたいのだ。それをさせるためには、最低限楓が喋れる状態でなければいけない。血を吐くような大きな怪我を極力避けたいと考えているのはそのためでもあるのだろう。
『あの馬鹿どもも、マジでムカつくのよ。あんたの友達。命乞いはしてくれたけど、最後まであたしに一切謝らないし、自分達の過ちも認めなかったんだもの。まあ、拷問されまくってて、痛すぎてそこまで頭が回らなかっただけかもしれないけど』
――冬香さん、由衣さん……!
じわり、と涙がにじむ。それは恐ろしいからではなく、ただひたすら悲しかったがゆえに。
綾乃の言う通り、拷問に晒されて余裕がなかっただけかもしれない。でも彼女たちは最後まで、楓の名誉を守り抜いてくれた――そんな気がしてならなかった。少なくとも楓が売春行為に手を染めていたなんて不名誉な事実を、認めないでくれたということならば。
そのせいもあって綾乃は“楓に罪を認めさせる”ことに躍起になっているということだろう。楓は拳をぎゅっと握りしめる。彼女達が最後まで耐え抜いてくれたのに、自分がここで負けるわけにはいかない。憎悪だけではない強い炎が、めらめらと胸の内に燃え上がる。
「……私も、同じ答えです」
負けられない。少なくとも、こいつの望む答えなんか死んでも言ってやらない。
「私は、貴女の言う罪など、一つも犯していない。これ以上、貴女に謝ることなんて何もない……!何度でも言います、地獄に落ちるのは、お前の方だ!!」
『あっそ?ならいいわ。じゃあ、次はレイプね。言っておくけど、媚薬使ってあげるようなサービスないから』
「!」
覆いかぶさった人形が、楓のパジャマのシャツに手をかけた。そして、思い切り左右に引っ張る。ぶちぶちぶち、と可愛らしいピンクのボタンが弾けて飛んでいってしまう。母が買ってくれた、お気に入りのパジャマだったのに――楓は悲しい気持ちでいっぱいになる。
だが、もはやそれを気にしている場合でないのは明らかだった。楓は夜寝る時は、パジャマの下に何も身に着けないのだ。着ているのはパンツのみ。当然、前をはだけさせられば乳房が露わになることになる。
その両胸を、ごつごつした手が乱暴に掴んだ。
「い、痛いっ……!」
力の加減など知らないように、強引に揉みしだく。よく、男性向けのアニメなどでは、ヒロインの豊かな胸が揺れるような描写があるが、あれはけして現実的なものではないのだ。正確には胸が揺れるのがおかしいのではなく、揺れたことでヒロインが痛みを感じないのがおかしい。楓はEカップなので、そこそこ揺れるし、走る時はそれで結構痛いと感じることが少なくない。
当たり前だが、乳房は胸筋と連結している。無理に引っ張られれば神経を刺激して肉を裂かれるような激痛が走る。ましてや、こんな握りつぶすような揉み方をされて、快楽なんてあるはずがない。
さらに、被害は胸にとどまらなかった。パジャマのズボンを、下着ごと無理やり引き抜かれてしまう。そして、胸を嬲っている人形とは別の人形の手が下半身に伸びて来た。
『あははははははははははは!はははははははははは!うっわ、すっごくきたなーい!股間を集中攻撃してやっただけあったわね。血まみれじゃないの。ぼっこぼこに腫れまくってるし、こんな腐れマンコにツッコミたい男なんてきっとどこにもいないでしょうね!あはははははははは、ははははははははは!ああ、よく見える。中まで腫れてていったそー』
綾乃の悪意に満ちた声が聞こえる。この角度からでは見えないが、きっと事実なのだろう。足を強引に開かれただけで、股関節のみならず、性器もひりひりとした痛みを感じる。空気に触れただけでこれならば、よほど悲惨なことになっているのは間違いない。
そして、これで話が終わるはずもないわけで。
「ぐっ」
その腫れあがった膣口に、ぴたりと押し当てられるもの。それが何か、なんて考えたくもない。そして、濡れてもいないのに強引に入れようとすればどうなるか。
ぐい、と塊が一気に股間を引き裂いて、それで。
「ぎ、ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
股から、体がまっぷたつに引き裂かれるかと思った。ずぶぶぶぶぶ、と下腹部を遡ってくる肉の塊。しかも、それは腹の奥底まで届いても動きを止めないのである。
『そのまま、子宮口までぶち壊しちゃいなさいよ』
綾乃がそう宣言した途端、疑似陰茎らしきものの形状が変わったのがわかった。腹の中で、先端が針のように鋭くとがって、それで。
ぶちり、と。
子宮口を強引にこじ開け、貫かれる音が。
ぶちゅぶちゅ、と肉を引き裂かれる音が、血が。
「ひゅっ」
とっさに、それを理解するまで時間がかかった。恐る恐る、己の下腹部を見下ろす。
自分の臍の下あたりから、金属の太い梁のようなものが飛び出していた。ぬめぬめとした血液を纏わせながら。そして。
「ぎ、が、ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!あああ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
子宮が引き裂かれたのだと気づいた瞬間、腹をぐちゃぐちゃに潰すような凄まじい痛みで目の前が真っ赤になった。両手足をばたつかせ、針と陰茎を抜かせ必死になる。しかし、膣から子宮、腹筋まで貫いてしまった物体はそう簡単に引き抜けない。傷からは、ぶちゅぶちゅと脂肪のようなものも溢れだしていた。
――ああ、これで。もう、赤ちゃん産めなくなっちゃうな。
蓮見家の血が、これで途絶えてしまう。両親に、本当に申し訳ない。
頭の隅で、そんなことを思った。
『これでもう赤ちゃん産めないわね!ああ、いい気味、いい気味!きゃははははははっ!はははははははははははあっ!!』
そんな楓を嗤う綾乃の声。何がそんなに面白いのだろう、と痛みで朦朧とする頭で思う。
確かに、自分だって嫌いな相手、憎い相手はいる。大好きな友人二人を殺した綾乃に対して、殺してやりたいと言う気持ちが芽生えたのは事実だ。しかし。
だからって、同じ目に遭わせてやりたいとは思わない。殺す以上のことをしたいとまでは思えない。なんなら、本来は司法に任せて、そこで死刑になってくれるのが一番いいとも本当は思っている。そう。
憎悪にだって、限度はあるはず。どうして、この女は、ここまでのことができるのだろう。冬香に対しても、由衣に対しても、自分に対しても。何故、こんな恐ろしい行為を見て笑いものにすることができるのだろう。
「何が、そんなに楽しいの……」
理解し難い。同時に。
「貴女は、可哀想な、人ですね……」
『なんですって?』
「誰だって、自分が認められたい、愛されたいのは……同じ。でも……多くの人、は。自分を高めることで、望んだ場所に、上り詰めようとする。……貴女は、どうですか。自分を、高める努力を、変える努力をした、のですか。いつも人を嫉んでばかり。人を、蹴落とすことで……そのポジションを奪い取ることしか、考えられない。ライバルより、上に行くために、努力しようと思えない。誰かを、貶めることばかり、必死で、滑稽で……」
少し身動きするだけで、腹がちぎれるように痛む。でも。
これは言わなければならないことだと確信していた。今、自分にしか言えないことだと。
「愛されたいだけ、認められたい、だけ。……自分で誰かを愛したり、認めることができない人を……一体、誰が、愛すると?それがわからない限り、貴女は一生……誰からも、愛されない。いい加減、認めたら、どうですか。ここで、私を殺しても、貴女が本当に救われることなんてない。それどころか……」
『うるさい』
「ぐほっ!」
綾乃が叫んだ瞬間、楓を犯している人形が大きく腰を引き、突き出した。針が、再び子宮を引き裂き、腹の違うところを突き破って顔を出す。楓の背中が苦痛に跳ねるのを無視してがっつり腰を抑え込むと、そのまま二度、三度とグラインドを繰り返す。
ぐちゃ、ぐちゃ、ねちゃ、ねちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちょ、にちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ねちゃ、ねちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちょ、にちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ねちゃ、ねちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちょ、にちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ねちゃ、ねちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちょ、にちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ねちゃ、ねちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちょ、にちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ねちゃ、ねちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちょ、にちゃ――。
繰り返されるたびに血飛沫が飛び、楓の下腹部と股間の肉が内側から耕され、滅茶苦茶になっていく。
『うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!おっさんどもに簡単に足開く売女のくせに、あたしに偉そうに説教してんじゃないわよ!このゴミ女!ゴミ女ゴミ女ゴミ女ゴミ女ぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
「があああああ!ぎいいいい、ぎゃああああああああああ!うぐ、ううう、ぐうううううううううううううううう!!」
激痛に呻きながらも、次第に出血多量で意識が遠ざかっていくのを楓は感じていた。なんとも間抜けな話だ。楓の“女”を破壊することに執着しすぎて、とっくに致命傷を与えてしまっていることに気付かないとは。
――愚かな人。可哀想に。
意識が遠ざかっていくのを感じながら、楓は思ったのである。
――でも、絶対に、許さない。……必ず、お前を、地獄に。
リユ
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阿炎快空
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コメント
1件
読ませていただきました……。第19話、本当に壮絶な回でしたね。楓さんの、あれだけの暴力と凌辱のただ中で「可哀想な人」と相手を俯瞰するその目が、胸に刺さりました。憎しみに飲み込まれずに「誰かを認められない人は愛されない」と言い切る強さが、彼女の人間としての真価だと思います。最後の「絶対に許さない」という静かな決意が、次への希望を感じさせてくれました。続きが気になります。