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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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『…うっせーっよ!タコ女!勝手に侵入してくるんじゃねぇっ!』

細い声は由香ちゃん。

予想通り猛アタックが始まってるみたいだ。


『このションベン臭いガキ、マジでうぜぇわ…みゃーだったら大歓迎なのにさぁ』


「なに?…お酒飲んでるの?」


『あぁ、接待みたいなもん。付き合いでさ、取引先との飲み会に行って、帰ってきたとこ』


みゃーは…?と聞き返されて、どう言おうか迷っているうちに、また細い声がまぎれ込んでくる。


『嶽丸せんぱーい…ヤバい色気ですぅ…もう、全部脱いじゃってくださいよぅ…!』



なに全部脱げって…

嶽丸、どういう格好してるわけ…?



『お前みたいなクソガキに見せる体はねえっ!』


『シャツの前が開いてて腹筋ヤバいですぅ…ご飯3杯いけますぅ…』


『…うわぁっ!こらっ!何やってんだ!ガキのくせに300年早いっつーの!』



…私は何を聞かされてるんだろ。

なんだか、2人のイチャイチャを聞かされてる気になる…



「…あのさっ!」



ひときわ大きい声で叫ぶ。


『ちょ…待って、この変態を部屋の外につまみ出すから…』


嶽丸が言う間にも、由香ちゃんのわーだのきゃーだの聞こえてくる…



「…もういいっ!バカっ!嶽丸のバカっ!」


『…え?なになになに?なんで俺がバカ?バカはこのタコ女だろ?

ちょっ…待っ…切るなっ』




「…会いたかった…」



それだけ言って、携帯を切った。


すぐに掛け直された嶽丸からの着信。…もういい。


今一緒にいるのは由香ちゃんなんだよね。


嶽丸も…襲われるかもしれないって危機感はなかったの?

押しが強い子だってわかってるのに、半裸で部屋に入れたってこと?

お酒入ってるのに?


…今頃抱きつかれてるかもね。

キスだってしてるかも。


あの、しなやかな筋肉に覆われた美しい嶽丸の体に包みこまれたら、どんな人も絶対ハマっちゃう。


由香ちゃん、今以上に嶽丸のこと好きになっちゃうね。




何度目かの着信を無視してたら、今度はこれでもか…ってメッセージの嵐がやって来た。


でも…読む気になれない。


こんなの、私の完全なヤキモチで、勝手なイライラだってわかってる。

いい年した大人が、なにやってるの?子供みたい…

でも止められないから…困ってるの。


喉元から、突き上げてくるような重苦しい思いは、どう言葉にしたらいいかわからなくて、仕方ないから必死に呑み込んだ。


代わりに涙とかで出ていっちゃえばいいのに、どんなに泣いても、重苦しい思いはなくならない。


これはいったいなんだろう。

嫉妬…焦り…。

どうしたらなくなるんだろう。

わかんない…



リビングのソファに、横向きに倒れるように寝そべって…明かりも消せないまま、私はそっと目を閉じた。



………


そのまま眠ってしまったらしい。

窓の外から入る陽射しに照らされ、部屋が明るくなっている。


ふと…頬にぬくもりを感じた。

いや、頬だけじゃない。

体全体が…何かに包まれてる…


胸のあたりで交差するしなやかな筋肉を浮かべる腕、頭の上で規則的に繰り返される呼吸音…


長い脚が私の腰に乗り上げて…こんな格好で密着してくる人は、ただ1人を除いて誰もいない。



「…嶽丸…?」


夢…かな?


確か昨日、出張中の嶽丸に電話して勝手に怒って切った。



「起きたか…?」


頭の上から聞こえる低い声は絶対嶽丸…でもなんで…?



「起きたけど…なんで…」


包まれている腕を引き剥がして起き上がると、そこには確かに嶽丸がいる。


ボサボサの髪とTシャツ。

ジャージは暑いのか、膝あたりまでまくってあって…これ以上ないラフな格好。


「あの、大阪…は?」


出張じゃなかったっけ?…って言葉を繋げないほど驚いた。


「…朝イチの便で帰ってきた」


何でもないことみたいに言う。聞けば泊まっているホテルは空港も近かったらしいけど、それにしても…


「…3日の予定じゃなかった?」


「だって昨日、会いたいって言ったじゃん」


「…は?」


「忘れたのか?…こらっ」


忘れてないよ…

確かに言ったけどさ…

それだけで帰って来るの?

出張ぶっ飛ばして…?


平然と横たわる人を見下ろせば「隙あり…!」と腰を引き寄せられ、そのまま組み敷かれる…


「ちょっ…と、待って…」


整理させて…と言ったのは、会社に命じられて行った出張を、勝手に帰ってきて大丈夫なのかということ。


それに、由香はどうしたのか…嶽丸は指導係として、一緒に仕事を進める任務があるんじゃないのか…?


…それなのに。

至近距離で私を見つめながら、おでこに…まぶたに…頬に、キスをする嶽丸は余裕。


「…今日は仕事?」


…こっちが聞きたいわ、と思いつつ、頷く。


「1時間くらい、平気?」


「…えっ?」


「もう無理…ヤバいって」


低い声が耳元に落ちれば…ここに嶽丸がいるって、実感した。


いつの間にか、喉元から突き上げるような重苦しい思いは、どこかに消えてる。


今嶽丸がここにいて私を抱きしめて、キスをしている。

それがどうしようもなく嬉しくて安心して…私も強く抱きしめてキスに応えた。


…………



「ねぇ…全然足りない…」


「そ…んなこと言われても困る」


髪をかき上げながら私に落とすキスは、優しさの欠片もない。

密着して絡まりあって、いつまでも離れない。


突き上げられて跳ねる腰。

繋がれる手…


私の体を覆い隠すほど、嶽丸の体は大きい。

嶽丸…ってうわ言みたいに呼んで、初めて感じる喜びを知った。


「柔らかい…全部、でもそんなに締めつけないで…」


座ったまま深く愛を繋いで、嶽丸は切ない声をあげる。私はすぐそこにある嶽丸の綺麗に歪む顔を見ながら、ダメ…って言われてることを…また、してしまった。


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