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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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夕食後に1人どこかへ出かけたテオは、珍しくなかなか戻ってこなかった。


俺は攻略サイトで情報を集めつつ、宿で起きて待っていることにしたのだが……。







――…………クト…………タクト!




「んぁ……?」


急に揺り起こされる。


寝起きでぼーっとしつつも体を起こすと、目の前にいたのはテオだった。

「こんなとこで寝たら風邪ひくぜ?」

「……」


段々はっきりしてくる頭。

状況を見るに、どうやら俺は椅子に座ったままテーブルに突っ伏して眠り込んでしまっていたらしいな。


軽くあくびしてから、たずねてみる。


「……テオは、いつ戻ってきたんだ?」

「たった今だよー」

「今何時?」

「えっと……」

腰につけた時計を見て答えるテオ。

「朝の4時過ぎだって」



あれ?

テオが出かけたのは昨夜の21時前だったはず……

……いつもなら、ここまで遅くなるような事はなかったんだけど。



「……テオがこんなに遅くなるなんて珍しいな」

「まぁねー」

「またどっかで演奏でもしてたのか?」

「それもあるけど…………」


含みをもたせるように言葉を切るテオ。



「……なんだよ?」


テオは答えの代わりに「ふあぁ~」と大きくあくびをしてから、眠そうに言う。


「詳しくは明日でいい? あ、日付変わってるから今日か……まぁいいや、とにかく眠いから寝る! おやすみー」

言いたいことを言うなり、テオはベッドに倒れ込んでしまった。



「お、おい……テオ?」

恐る恐るベッドに近寄り声をかけてみる俺だったが、テオは既にスースーと気持ちよさそうに眠り込んでいた。



「はぁ……相変わらずマイペースなやつだな……」

大きく溜息をつく。

テオが何を言いかけたのか気になりはするものの、これじゃどうしようもないと割り切って、もう1つのベッドで寝ることにした。






「……ん? 朝か……」


カーテンの隙間から差し込む太陽光で目を覚ました俺。

まだ眠い目をこすりつつカーテンを開け、部屋の時計を見る。


「……9時……45分……?」


違和感を覚えた。

次の瞬間、ハッと眠気が飛ぶ。



「9時45分!? やべっ!」



チェックアウト時刻は10時。

時間ギリギリという事に気付き、慌ててテオを起こす。


「起きろ! チェックアウト寸前だぞ!」

「……すぴぃー……」

「テオッ!!」

「…………すぴぴぃー……」


起きる気配が一切ない。


「……ダメだこりゃ」



諦めた俺は宿の受付カウンターで理由を話し、連泊への変更手続きをする。

朝食も10時までということだったのだが、従業員が気をきかせ、部屋で食べられるように包んでくれた。




無事に手続きできたのにホッとしつつ、俺はあてがわれた客室へと戻る。

ガチャッと扉を開けたところ、先程と同じくベッドの中にいるテオが目に入った。


「テオ?」

一応近寄って声をかけてみたが、テオは笑顔で寝息を立て続けている。

「……ま、そのうち起きるだろ」


気長に待とうと決めた俺は、まずは朝食でも食べようと、包んでもらった食事を1人分だけテーブルに並べる


朝食メニューは、焼きたてパンが2種類――昨日と同じ硬めパンをスライスしてトーストしたもの、触っただけでパリッと薄皮がはがれそうな焼きたてクロワッサン――、焼き目のついたハムの角切り入りスクランブルエッグ、葉物野菜とニンジンのシンプルサラダ。

後はポットに入った熱々のホットコーヒー、コーヒー用のミルクと砂糖。


ふわぁっと部屋一杯に広がる、焼きたてパンの香ばしい匂いや、淹れたてコーヒーの優雅な香り。


食欲をそそる匂いに俺の顔がニヤけた瞬間。

彼の背後から大きなお腹の音がした。



――ぐぅーきゅるる……



「ん?」


振り返ると、そこにはおいしそうな匂いに誘われたテオが、上半身を起こし寝ぼけまなこで鼻をひくひくさせる姿があった。



「……テオも食うか?」

「食べる……」


とりあえずたずねてみたところ、テオはまだ半分眠そうながらもベッドから降りてきたのだった。






「…………う~ん♪」


ミルクと砂糖をたっぷり加えたホットコーヒーに、クロワッサンの端っこをじゃぶっと浸す。

浸したところをパクッと頬張るなり、テオの顔はほころんだ。

同じように浸してはかじりを繰り返し、2口3口と食べ進めていく。


俺はというと、硬めパンにサラダとスクランブルエッグを挟み、サンドウィッチにして食べる。

確かに凄くおいしいのだが、今の俺には、もっと気になることがあった。




「……なぁテオ、言いかけたことって何だったんだ?」

「え? 何のこと?」

テオは食べる手を止め、首をかしげた。

俺はさらに言葉を続ける。

「ほら、寝る前に何か言いかけてただろ?」


数秒考えてから、テオは「あぁ、あれかっ」と心当たりに辿り着いた。


「たぶん、俺が昨日何してたかってやつ?」

「そうそれ!!」



「ん~……ひとことで言えば……“情報収集”、ってとこだな!」

意味ありげに、ニヤッと笑うテオ。



「……情報収集?」

よく分からないながらも聞き返す俺。


「うん。やっぱ情報を制する者は何とやらっていうし、情報って大事だよな!」

「そうだけど……それならそうと事前に言ってくれれば俺も一緒に――」

「あまいっ!」

ピシッとテオに遮られ、俺は思わず「へ?」と間抜けな声を出した。



テオは一息ついてから、困ったような笑顔で話を続ける。


「……あのさー、大事な情報持ってるのは、たいてい一筋縄じゃいかないような、面倒で警戒心が強い奴って事が多いんだぜ? だからそういう奴に怪しまれないように上手く潜り込んで仲良くなって、こっそり観察して、欲しい情報の手がかりを見つけて分析して、正しいかどうか裏もとって……時には不測の事態に対応しなきゃなんない。ちょっとでも失敗したら全部が水の泡になっちゃうかもしれない。特にトヴェッテはさ、考えられないような額のお金が1晩で動くだけあって……結構ヤバい奴も多いんだよね……」



その言葉に、俺はゲーム内でのトヴェッテを思い出した。




トヴェッテ王国の王都は芸術を愛する者が多く住むことから『芸術の聖地』とも呼ばれ、また裕福で余裕ある者の割合も高い一見華やかな都市だ。

だがあくまでこれは“表の顔”に過ぎない。


表通りから道を外れ、薄暗い路地裏に足を踏み入れると……途端にそこは“無法地帯”と化すのだ。


そんなトヴェッテの裏を象徴するのは、やはり『カジノ・トヴェッテ』だろう。

黒い壁に金の装飾が施され、遠くからでも派手で目立つその建物は、入会費用も賭金も高額で、一般人は入場すらできない「金持ち専用の会員制超高級カジノ」として世間に広く知られている。

ゲームではプレイヤーも、高額な入会費用さえ払えればカジノの会員になれる。

カジノ内では様々なゲームを遊べるのだが、賭金も高いため、下手に大負けすると有り金がすっからかんになってしまうことも。



また、あまりにも勝ちすぎると、普通は入れないVIPルームへと呼ばれる。

そこでカジノスタッフから「イカサマではないか?」と因縁を付けられ、超高額な慰謝料を要求されるというイベントが発生するのだ。


実はカジノ・トヴェッテこそがトヴェッテの闇を仕切る裏の組織の本体」であり、プレイヤーはこのイベントで初めて組織の存在を知る。


――組織の名は『ブラックアンカー(黒の錨)』。

組織創設者が元々船乗りで、その持ち船の錨が黒い色をしていたことから、この名がつけられたと言われる。

なお組織構成員は、体のどこかに『黒い鎖と錨』がモチーフである『揃いの小さな入れ墨』が彫られており、このモチーフは構成員同士の絆と掟を表しているらしい。



慰謝料――カジノでの儲けと同等額――を素直に払えば、無傷で解放される。

だが支払いを拒否すると、問答無用で組織の戦闘員達との連続バトルへと突入するのだ。

戦闘員達は強者揃いなため、こちらに実力がないと容赦なく叩きのめされる。

もし負ければゲームオーバーとなり、セーブ時点からの再開となる。


そして連戦の最後、組織のボスとのバトルに勝利した場合、そのままブラックアンカーを壊滅させるか、自らがブラックアンカーのボスになるかを選べる。

ボスルートを選んだ場合、定期的に高額な上納金を得られたり、組織構成員を自由に手足として使えたりするということもあって、プレイ2周目以降の『強くてニューゲーム』勢には、密かな人気ルートとなっているのだ。




どう考えても今の自分の実力じゃ、戦闘員達と太刀打ちできるわけがない……

……身震いしてしまった俺は、おそるおそるテオにたずねた。


「テオ……お前まさか、ブラックアンカーのカジノに――」


「!!!」

急に怖い顔になったテオが立ち上がり、右手でバッと俺の口をふさぐ!



固まる俺。


テオは素早く耳をすませ、辺りの様子を慎重に伺う。

ややあってホッとしたような溜息をつき、手をおろした。




「…………よかったー、誰にも聞かれてなくて……」

とテオはぐったり椅子に座り込んだ。


「……なんか……すまん」

よく理解できないながらも俺は一応謝っておく。


「ううん。あの組織の名前だけは、絶対口にしちゃダメだぜ? 下手すると……」


ここまで言ったところで、テオは真面目な顔をして黙り込む。




俺はこわごわ聞いてみる。


「……下手すると?」



ゆっくり顔を上げ俺の目を見るテオ。

そして、ただ一言つぶやいた。



「……消されるぞ」



俺の背筋が、スーッと凍りついた。

ブレイブリバース~会社員3年目なゲーマー勇者は気ままに世界を救いたい

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