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“関ヶ原の戦い”
慶長五年九月十五日、美濃国関ヶ原で行われた天下分け目の決戦の事。
東軍と西軍の二つに別れて雌雄を決し、大阪夏の陣を経て今の泰平の世に至る。
「今でこそ徳川の天下となっているのじゃが……」
それが正しい史実のはず。
「今より七年前、僅か四人で幕府転覆を謀った者達がいた」
だが表舞台には記されない真実。記してはならない裏の事変。
その場に居る誰もが沈黙。そして痛感している。
その忌まわしき存在を。
「人在らざる者。人知を超越した存在“特異点”とされた奴等は、天下を手中にせんが為、幕府を敵に回し戦った。あの四人の前では、如何なる軍勢も無力じゃった……」
何処か遠い目で、まるで体験したかの様に語っていく。
“特異点”
それは人として生まれながら、人在らざる力を持った者の総称。
文献によると特異点は陰陽師、退魔師、妖術師といった類いとは、また異なる存在とされる。
それらは修行や契約によって霊力、妖力を得たのに対し、特異点とは生まれながらに持ち得る存在。
忌み子、妖怪とも云われ、人が別種と交配した時に生まれるとされるが、それらは半妖人として区別するべきだろう。
何の因果も無い、正常な男女間で突如生まれる事があるのが特異点だ。
遺伝原子とはまた異なる、霊的分子が関与してると思われるが、特異点出生のメカニズムについては、今尚解明されていない。
「死しか生み出さない四人の死神。奴等は畏怖を込めてこう謳われた……“四死刀”と」
それは名称。四本の死を誘う刀を振るう者達。
「奴等はその人知を超えた力で各国を次々と制し、あのままでは間違いなく天下は掌握されていたじゃろう……」
だが長老のそれは過去形。世を治めているのは徳川である事に相違無い。
「その四死刀の一人、星霜剣のユキヤと云われた者が持っていたとされるのが、この雪一文字という刀」
長老は再度その刀を黙り込んだ少年へと向け、その真意を問う。
「まさか四死刀の一人が、この様な幼子だったとは儂も信じられぬが、この刀が何よりの証し」
一堂の視線が少年へと向けられる。
ある者は信じ難く、ある者は恐怖を。
だがその全てが敵意へと集約されていた。
もしこれらが事実だとすると、この場に人の皮を被った死神が居る事になる。
「嘘……」
確かにこの少年は自らを“ユキヤ”と名乗った。
その名が忌まわしき者の名である事は、勿論アミも知っているが、それでも彼女は信じられなかった。
此処での掟。外敵排除の使命。
このままでは間違いなく殺される。
「中々鋭い考察ですね……」
それまで黙していた少年が、突如口を開いた。
『駄目!』
自らの正体を明かそうとしている。
だがそれを言ってはいけない。
アミの声は言葉に成らず、心に木霊し内に消える。
「だがそれだけでは落第点ですよ。人違いです」
だがユキヤと名乗る少年は、はっきりと否定を示したのだった。
「何!?」
「えっ!?」
「それじゃあ一体……」
“――何者?”
周りが少年の拒否の構えにざわつき始めた。
ごもっともだろう。ではこの少年は何者なのか。
「なるほど人違いか……。お主は四死刀のユキヤでは無いと? ではこの刀は何処で何故? そしてお主の名は?」
長老は痛い処を突いてきた。全てを示す状況は揃っている。
この少年がユキヤという名である事を知っているのは、この場ではアミだけだ。
それでも彼女は疑問に思う。
四死刀が台頭したのは、現在から約七年も前の事。
目の前のこの少年は、どう見ても十か其処ら。
仮に鯖を読んでいたとしても、元服にすら達していないだろう。
やはり無理がある。今もそうだが、刀を振るえる年頃だとは、とても考えられない。
「……何故答えぬ?」
黙して語らぬ少年へ痺れを切らした様に、長老は再度問い掛けていた。
周りの者達は既に殺気立っている。今にも爆発しそうだ。
「……仮にあったとしても、アナタ方に答える義理すら有りませんね」
あくまで訳は語らないと、その少年の空気の読めない淡々とした応えに、遂に周りが切れた。
「長老! これ以上の審議は不要!」
「掟に従い、外敵であるこの者は処断すべきです!」
もはや止まらない。一斉の“殺せ”コールが響き渡る。