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夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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西原衣都
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猫塚ルイ

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コメント
1件
あおいです🤍 ついに想汰が出てきた…!タイミング良すぎて怖いけど、やっぱり兄も脅されてた側だったんですね。「ごめん」の一言が切なくて、羽衣子が混乱する気持ち、すごくわかりました。お互いに守りたいものがあって動けないもどかしさが、この回すごく出てて胸がぎゅっとなりました。次が気になります…!
それから約ひと月が経とうとしていた頃、例の襲撃事件についてようやく進展があった。
「若頭、ようやく吐きました」
事務所のソファーに腰を下ろしていた昴の前で、組員の一人が低い声で報告する。
連日の尋問の末、拘束していた襲撃犯の一人がついに口を割ったのだ。
「指示を出していたのは若頭の見立て通り、稲見組の高遠だそうです」
「……やはり、高遠か……目的は?」
「本人曰く、あの部屋の人物を狙えとしか言われていないと」
「そうか……」
昴が低く呟くと、室内の空気が重く沈んだ。
稲見組とは現在、表向きこそ均衡を保っているものの水面下では幾度となく小競り合いを繰り返している敵対組織だ。
それゆえ下手に動けば全面抗争にも発展しかねないからこそ、慎重に事を運ぶ必要があった。
「……組長には俺から報告する。まだ何か吐くかもしれねぇ。出来るだけ多く聞き出せ」
「承知しています」
一礼した組員は静かに事務所を後にする。
「……はぁ」
深く息を吐きながら、昴は眉間を押さえた。
組織同士の問題は一歩間違えればこちらだけでは済まない。
状況次第では再び希海や羽衣子にまで危険が及ぶ可能性がある以上、軽率な行動など取れるはずもなかった。
そんな中、机の上に置いていたスマートフォンが短く震え、表示された名前を見た昴はすぐにメッセージを開いた。
そこに書かれていた内容に彼の目が細くなる。
「……見つかった、か」
連絡を寄越してきたのは昔馴染みの情報屋で、内容は行方をくらませていた想汰について。
ようやく足取りが掴めたのだが、
『現在、対象者は稲見組の人間と行動を共にしている』
その一文を見た瞬間、昴は舌打ちを漏らした。
本来なら、居場所が判明した時点で即座に捕まえるつもりだった。
そして羽衣子に突き出し謝罪をさせ、彼女へ押し付けた借金も全て返済させるつもりでいたのだが、ある程度予想していたこととはいえ、ほぼ確実に相手が稲見組に身を置いているとなれば状況は変わってくる。
迂闊に手を出せば、組同士の火種になりかねない。
そのもどかしさから昴は苛立たしげに煙草へ火を点けた。
そしてそれから更に数日後の休日、この日昴は組の用事で朝から留守にしていた。
ただ、この日は希海が好きな戦隊ヒーローの
ショーが隣町のショッピングモールで開催される日で昴が行けないから行くのを辞める訳にもいかず、現状況からして不安は残るものの皐月ともう一人の組員を護衛役として羽衣子や希海と共に出掛けることになった。
休日とあって、ショッピングモールは家族連れで賑わっていた。
そして、屋上特設ステージでは間もなく始まる戦隊ヒーローショーのアナウンスが流れている。
「まだかな……!」
瞳を輝かせながら身を乗り出す希海の隣で羽衣子は小さく笑った。
「始まるまでもう少しだって」
「はやくみたい!」
「そうだね、見たいね」
そのやり取りを少し後ろから見守っていた皐月は、隣に立つもう一人の組員の山野 辰樹へ視線を向けた。
「くれぐれも希海くんたちから目を離さないよう、お願いしますね」
「はい」
「万が一の時、俺は希海くんを、山野さんは吾妻さんを担当するということで」
「分かってます」
再度役割分担を確認し終えた皐月は小さく息を吐く。
出発前、昴から何度も念押しされた言葉が頭に残っていた。
『絶対に二人から目を離すな』
それはいつになく真剣な表情で、だからこそ、店内を回る時も、今も四人は常に一緒に行動していた。
少しでも離れれば、すぐどちらかが声を掛ける程に。
それに、共に組んでいる辰樹は皐月と同じ時期に組織に加入した二歳上の組員で、普段はあまり話さない間柄ということもあって少しやりにくそうだ。
そんな中、ショーは開催され、暫くは問題なく過ぎていく。
けれど、ショーも終盤、二十分が経った頃だった。
突然、けたたましい警報音が鳴り響いた。
『火災が発生しました。係員の指示に従って避難してください』
警報と放送で一瞬、会場の空気が止まる。
そして次の瞬間、悲鳴とざわめきが爆発した。
「え、火事……!?」
「逃げなきゃ!」
「お父さん、どこ!?」
「おかーさん!」
「皆様、落ち着いて! 係の者が誘導しますから押さないで!!」
スタッフの叫び声は人々の混乱に掻き消され、観客が一斉に出口へ押し寄せ、屋上はあっという間に騒然となった。
皐月と辰樹は即座に羽衣子と希海を守るように立つ。
「二人とも大丈夫ですからね」
そう皐月が口にしたその時、
「あ……!」
何かに気付いたように顔を上げると、ステージ袖で避難誘導をしているヒーロー役の一人を発見した希海は羽衣子の手を振りほどくと、そちらへ駆け出してしまう
「希海くん!?」
人混みに逆らうように希海が走っていってしまい、羽衣子が追いかけようとするも、
「吾妻さんはここに居てください! 山野さん、頼みます!」
「了解!」
「春川さん、希海くんをお願いします」
「任せてください!」
止められた羽衣子は辰樹と居るように念を押され、不安な気持ちを抱えながらもこの場に残ることを納得し、希海を追って走り出した皐月を見送った。
そして、
「吾妻さん、我々はこっちへ」
「は、はい……!」
辰樹は羽衣子を連れて先に一足先に屋上を出ようと手を取った次の瞬間、ボンッという破裂音が特設ステージの方から聞こえてきたことで状況は更に一変。
恐怖に逃げ惑う客たちが一気に押し寄せ、二人の視界が人で埋まり、
「っ、待っ――」
羽衣子の手が辰樹の手から滑ってしまう。
「吾妻さん!」
二人は人の波に流され、辰樹が羽衣子を呼ぶ声が遠ざかる。
「山野さん……」
辰樹を探そうとするも、押されてよろめいてしまった羽衣子が倒れ込みそうになったその時、ふいに誰かが羽衣子の腕を強く掴んだ。
「え……」
ぐいっと力任せに引かれ、
「ちょ、待って……!」
人混みを避けるように非常階段脇の通路へ引っ張られ、更には屋上裏手の人目につかない場所まで連れて行かれてしまう。
何が何だか分からない羽衣子は乱れた呼吸のまま腕を振り解こうとするも、
「離して……!」
その手はびくともせず、
「貴方は一体……」
恐怖はあるも、とにかく今はこの場から逃げて辰樹と合流しようと果敢に相手へ声を掛けると、
「久しぶりだな、羽衣子」
振り返ったその人物は、
「お兄……ちゃん」
騙して契約書にサインをさせ、高額な借金を押し付けて行方を眩ませていた、兄の想汰だった。
羽衣子は混乱したまま想汰を見つめる。
聞きたいことは山程ある。
どうしていなくなったのか。
どうして借金を残したのか。
怒鳴りたい気持ちも責めたい気持ちもあるはずなのに、いざ想汰を前にすると喉が詰まったように何も言葉が出てこない。
そんな羽衣子を見つめた想汰は苦しげに顔を歪めた。
「羽衣子、ごめん……!」
「……え?」
それは悲痛な声で、今にも泣き出しそうなほど切羽詰まっているように見えた羽衣子はただ戸惑うばかり。
「な、に……急に……」
戸惑う羽衣子をよそに想汰は焦ったように言葉を続けた。
「俺……ずっと、稲見組っていう組織の幹部連中に脅されてるんだ……」
「……っ」
「奴らは今、お前を狙ってる」
「え……?」
突然の話に理解が追いつかない。
「ど、どういうこと……?」
想汰は辺りを警戒するように視線を巡らせてから声を潜めて続けていく。