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第71話 「雨の結末」2022年8月。
夏の甲子園二回戦。
柳城高校―宮城育英高校。
優勝候補同士の対決。
球場は満員だった。
試合は序盤から激しかった。
柳城が先制する。
宮城育英が追いつく。
再び柳城が勝ち越す。
そして追いつかれる。
どちらも譲らない。
五回終了。
3対3。
八回表。
空が暗くなり始めた。
ポツリ。
雨が落ちる。
やがて雨粒は増えていった。
それでも試合は続く。
九回終了。
5対5。
決着はつかない。
延長タイブレークへ。
十回。
両校得点。
十一回。
両校無得点。
そして。
延長十二回。
雨はさらに激しくなっていた。
スタンドの観客も雨具を着込む。
グラウンドには水しぶき。
選手たちは泥だらけだった。
十二回表。
柳城は得点できない。
5対5のまま。
十二回裏。
宮城育英の攻撃。
無死一、二塁から始まるタイブレーク。
送りバント成功。
一死二、三塁。
続く打者を打ち取る。
二死二、三塁。
あと一人。
あと一つのアウト。
柳城ベンチが声を張り上げる。
アルプススタンドも総立ちだった。
打席には七番打者。
塁はマウンドで深呼吸する。
雨が顔を打つ。
帽子のつばから水が落ちる。
史陽がショートから声を掛ける。
「一本や!」
塁は頷いた。
初球。
ストライク。
二球目。
空振り。
ノーボール。
ツーストライク。
追い込んだ。
あと一球。
あと一球で延長十三回だった。
捕手がサインを出す。
塁が首を振る。
そしてもう一度頷いた。
最後は自分の球。
そう決めた。
振りかぶる。
渾身の一球。
ストレート。
打者は手を出さない。
ボール。
わずかに外れた。
その瞬間だった。
バンッ。
捕手のミットをかすめる。
ボールが後ろへ転がる。
一瞬。
誰も何が起きたのか分からなかった。
暴投ではない。
捕逸だった。
まさかのパスボール。
三塁ランナーがスタートを切る。
捕手が飛びつく。
だが間に合わない。
ホームイン。
その瞬間。
甲子園にサイレンが響いた。
ゲームセット。
#高校生
宮城育英高校 6―5 柳城高校。
サヨナラ勝ち。
雨は激しく降り続いていた。
宮城育英ナインが歓喜の輪を作る。
一方。
柳城の選手たちは動けなかった。
塁も。
史陽も。
佐伯も。
誰も。
ただ立ち尽くしていた。
あと一球だった。
あと一つのアウトだった。
あと少しだった。
しかし。
甲子園は結果だけが残る。
塁はゆっくりとマウンドを見つめる。
兄からの手紙。
『甲子園は楽しんだ者勝ちや。』
その言葉が頭をよぎる。
だが今は。
悔しさしかなかった。
雨が涙を隠してくれた。
誰も誰を責めなかった。
責められなかった。
捕手も必死だった。
塁も最高の球を投げた。
誰も手を抜いていない。
だからこそ苦しかった。
運命は。
時に残酷だった。
甲子園の照明に照らされる雨。
柳城高校の夏は終わった。
誰を恨むこともできないまま。
深く。
静かな悔しさだけを残して。
第71話 終
コメント
1件
ああ、もう……胸がぎゅっとなりました。あと一球、あと一つのアウトだったのに。パスボールという形で終わるのが、あまりにも切なくて。誰も悪くないからこそ、悔しさがじんわりと沁みますね。雨が涙を隠してくれた、という一文が特に心に残りました。塁くんの気持ちを思うと、しばらく立ち直れそうにないです……。素晴らしい試合をありがとうございました。