虫たちは深い眠りにつき、木々は色とりどりな衣を忘れて、雲の涙は結晶となって俺たちの世界を真っ白に染めていく
まるで二人だけで閉じ込められてしまったスノードームのように。
pn 「らっだぁ?」
rd 「ん、」
rd 「俺はここにいるよ」
俺のもとへ伸ばしたその手は枯れ木のように今にでも折れてしまいそうで、温もりを伝えるにはとても壊れてしまう気がしてかなわない。
pn 「俺、まだここにいる?」
rd 「、、大丈夫。ちゃんといるよ」
pn 「らっだぁ」
rd 「、ん」
pn 「大好き、愛してるよ」
rd 「、、、うん。俺も愛してるよ」
彼の髪を撫でて、頬に触れて、俺は冷たい唇を重ね合わせた。
この場に彼を留めさせようとさせても、砕けて消えてしまうであろうその体を強く抱きしめることはできずに、俺の嗚咽だけが微かに響いた
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〈peint side〉
あめ、
飴
雨
テレビでは梅雨の訪れを知らせる報道がされている中、俺はおばあさんにもらった綺麗な琥珀色の飴を見つめながら静かな部屋でそれを聞いていた
ーーー今日も傘が手放せないでs
ピッ
テレビを消すと余計に静かに感じられるこの部屋では、雨が開けてと言わんばかりに窓にノックを繰り返す音がよくきこえる
ふと棚に置かれたカレンダーをみると右下に印がされてあった
あと一週間、
俺が引越すまであと一週間。
俺は思い出の数々を丁寧に段ボールに移してはその思い出たちの余韻に浸る
別に特別な思い出とかある訳じゃないけど。
窮屈にしか感じないこの街で
忙しなく走り続ける電車も
眠ることの知らないビルの明かりも
この時期になると狭そうに歩く傘の姿も
あと少しで見れなくなると思うと何故だか美しいと感じた。
それでも、決まった時間に食べるトレーの上に綺麗に並べられた鮮やかな食事たちは舌先で感じる温度程度しかわからなくて、時計の針の音が孤独を助長する。
荷物をまとめて、さいごになり得る街並みを眺めていたらあっという間に引越し日になっていた
俺は今までの感謝と名残惜しさを託してその地を後にした
俺の引越し先は梅雨を知ることのない、まるでこの世界から隔離されたようなとても小さな島だった
周囲が山で囲まれており中央に住宅が密集している。俺が住む家はそこから少し山側に逸れたところで、ひらけた道から車も通れない程の細い道をしばらく登っていったところに位置している
実際そこにある文明はひと足、ふた足ほど遅れていて家の構造は昔話で見るような木造建築に広々とした畑が広がり、コンビニやスーパーはあるけれど自宅からはかなり離れており近所の物々交換もよく見る光景である。それでも連絡手段等は前いたところとさほど変わりなくて、なんだか奇妙な場所だった
業者「それではまだ運び終わっていない残りの荷物は夕方ごろにお届けします」
pn 「わかりました」
いざ玄関に入り、土間の台所と奥に隠れた風呂場をあとに部屋に上がると畳の部屋が二つ、引越しの荷物が入った段ボールが積み重ねてあった
おもしろいことに部屋の中心の仕切りを外せば大きな一部屋になるような構造をしていた
左手には物を収納できそうな押入れがあり、その部屋を囲むようにしている障子を開けるとまだ春を感じさせてくれる優しい日の光が差し込んでいる。 そこには長い縁側が続き、広めの庭の畑と山々が一望できた
pn 「んぅーーっ!」
新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んで初々しい色をした葉の香りとまだ夏に向けて虫たちが眠る土の匂いをたのしんだ
一人暮らしにしては有り余るほどの部屋の広さにこんな贅沢をしていいのかと違和感を覚えながらも俺は大きめの荷物から荷解きを初め、気がつけば陽が傾き始めていた
少しの休憩がてらに畳の部屋に寝転がって年季が入りギシギシと音を立てる天井を眺めてみる。色褪せた畳のイグサのいい香りを堪能していたらいつのまにか寝てしまっていた
ーーーあの、すいませーん
ーーー生きてますかー?
なんかうるさいなぁ。俺が気持ちよく寝てるっていうのに、これだから都会は困るんだよね
やっぱり田舎に越してきて正解だったな
、、、?
あれ俺今日引越してきて一人暮らしだったくね?
pn 「ドゥワアアアッ!」
?? 「だああああっ!?」
pn 「へっ、、」
幽霊か何かだと思って情けない声を上げながら目を覚ました。
すると視界には幽霊ではなくて、青みがかったサラサラな黒髪にラピスラズリを埋め込んだような瞳をした青年が部屋の角で縮こまっているのがうつった
pn 「えっ、誰。」
⁇ 「へ、、びっくりしたぁ」
pn 「叫んじゃってごめんなさいっ!幽霊かと思って」
pn 「あのぉ、ここ一応僕の家なんですけどお家間違えてませんか? 」
内心こっちの方がびっくりしたわ!なんて思いながら、彼を怪しげに見つめる
⁇ 「あれ業者さんから事前に聞いてなかった? シェアハウス的な感じで二人暮らしするって話」
はい?
二人暮らし、、?
しかも初対面の人と!?
全く聞き覚えのない情報に頭が混乱する。
その様子を見て、彼が一つずつ教えてくれた
どうやらこの地域では地域活性化のために二人から六人ほどの住宅を他の地域よりも安く提供しているんだとか。
俺は知り合いから新居をお勧めされたから全くそのことを聞かされておらず、今回のすれ違いに至ってしまった
pn 「ほんとにごめんなさいっ!」
⁇ 「いやぁほんとにね、やめてほしいよね」
俺としたことがこれから暮らしていく人に対してなんて失態を
恥ずかしすぎる、、、顔あっつ。
穴があったら入りたいとはまさにこのこと
⁇ 「まあ、顔あげてよ」
rd 「改めてらっだぁです、よろしく
これから一緒に暮らすわけだし敬語やめてね」
そう言って彼と握手を交わした
コメント
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長らくお待たせしました!らだぺん連載開始です
シェアハウス、、、めっちゃいいです✨好きです!