テラーノベル
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( '×' )
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最近のヴォックスは忙しそうだ。
僕と違って机で作業することは少ない。でも、最近はよく机に座っている。その頬や鼻筋はすごく美しい。いつもはキッチンから彼が僕を眺めてるのに、僕が彼を隣で眺めるなんて、なんだか不思議だ。
そんな日々が続いたある朝、彼がいなかった。
机の上にメモが置いてあった。
『悪いアイク、急遽早く仕事に行かなきゃ行けなくなった。タルトタタンを作って置いたから、食べたいてくれ。きっと夕方には帰るから、夜は私が作るよ、本当にすまない。』
きっと彼が食べたであろう、チェリーボンボンの甘い香りがする。
誰もいないキッチン。オーブンはまだ暖かかった。きっと急いで作ったんだろう。洗い物までしっかり終わっていて、僕ができることなんてなんにもなかった。
作ってくれたタルトタタンを食べる。
彼はなんでも出来ることをしみじみ感じる。除霊も事件もそれ以外の事だって。街に行けば声をかけてくれる人がたくさんいる。
「ご馳走様でした」
キッチンへ行く。
食べ終わったお皿に映った自分を見つめる。
彼がいないだけでこんなにも憂鬱になるのか。なんでも与えて貰ってばかりの自分は嫌だ。
それを言ったら彼はなんて言うのだろうか。
「そんなことない」とあの優しい目で僕を見つめるんだろうか。
彼はなんで僕と一緒にいるんだろうか。
僕は彼に何ができるんだろうか。
考えれば考えるほど、僕に出来ることはなんにもなかった。
キッチンタイマーの電池が切れていた。
洗濯をして、創作して、自分に出来る事を探す。
やってみる。何かしていないと落ち着かなかった。
彼のこういうところが嫌いだ。いない間も僕の思考を奪って行く。
そうして考えて、考えて、考えた。
その先の1つの答え。
“言葉”
何もなくても、彼に言葉を紡ぐ事はできる。
いつも上手くいかない。彼を前にするとなにを言っていいのか分からなくなる。
でも、今日は。
なんでもいい、僕から何か話してみたい。
そして、いつか。
彼のように“好き”って。
恥ずかしがらないで言えるようになれたらいいな。
夕方、日が沈む頃彼は帰ってきた。
「悪い、アイク、遅くなった」
僕を見る。それだけで嬉しそうな顔をする。疲れているはずなのに、そんなのどうでもいいみたいに笑う。いつもの事なのに、特別に感じた。
「おかえり」
何か、何か言いたかった。待ってたよとかお疲れ様とかそんなんでいいのに、なんでか、言葉に詰まって出てこなかった。
そんな僕を不思議そうに見つめる。
「何かあったのか?」
揶揄うような、期待するような、声。
「帰ってくるの待ってた…」
一瞬キョトンとした表現をする。
「ふふ、ありがとうな」
本当に幸せそうな顔の彼を見て、やっと1つ出来るようになったと思う。そして、僕も満ちている。
「ご飯も作って置いたんだ、一緒に食べよう」
「そんな…、悪いな。」
「謝んないで、お疲れ様」
食卓に座った彼は、1口食べて、何も言わずに僕に差し出した。
「え?」
「とても美味しい」
僕も彼に食べさせて貰った。とても美味しかった。それよりも、目を輝かせてこちらを見つめる彼の姿が嬉しかった。
それが僕にとってどんなに大きなものか、もしもヴォックスが知ってても、もう一度、ちゃんと言葉にするのも悪くない。
コメント
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うわ、めっちゃ沁みた…。アイクの「自分にできること」を探すもどかしさと、見つけた“言葉”っていう答え、すごく良かった。ヴォックスが帰ってきて「待ってた」がやっと出た瞬間、こっちまでじんわりした。食べさせ合うシーンも優しくて好き。便利じゃなくて、気持ちを届けるってそういうことだよなって思わせてくれる回だった🔥