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「はぁ~疲れた~」
「オークは美味かったが。片付けがな」
死骸の始末をつけて僕らは帰路に立つ。エミさんの声にクナさんが答えてる。オークは体がでかいから埋めるの大変だったな。
『村人からお願いが届いています』
「お」
一番後ろを歩いていると声が聞こえてくる。イカルスのお願いかな?
『外に大きく城壁が欲しい。今ある壁を内壁にして村を拡張します』
「イカルスだ。なるほど、二重の壁にするってことか」
イカルスは防衛力の拡充をお願いしてきた。僕は迷わず賛成する。3000ラリの城壁がすぐに出来上がっていく。
見事な石造りの城壁。内壁よりも高く作られてる。
「!? ワンワン!」
「ルドラ? どうしたの?」
街道を歩いているとルドラが吠えて走り出す。街道を少し外れたところに小屋が建ってる。でも、その小屋はボロボロで誰も使っていない様子。来るときにも見たけど、何もないってエクス達は言ってたっけ。
「クウ~ン……」
小屋の中に入ったルドラは寂しそうに声をもらす。その様子を見て僕も一緒に寂しくなってしまう。
そうか、彼はここに住んでいたことがあるのかもしれない。彼も前世の記憶を持っているんだ。
「ルドラの家だったのかな?」
「クウ~ン……」
「お墓?」
小屋から少し離れたところにリンゴの木と木の板で作られたお墓があった。ルドラはそれを見て涙を流した。
「もしかしてルドラのお墓?」
「ワン!」
「そうか……」
彼は元気に答えてくれる。ジャン達よりもハッキリと前世の記憶があるんだな。僕は思わず彼を抱きしめる。
「お墓は一つしかない。それならルドラの守りたいものはまだ生きてるかもしれない。生きていれば会えるかも」
「ワンワン!」
彼は元気に答えてくれる。ルドラが死んでしまったから悲しくて離れたのかもしれない。まだ彼の友達は生きている、僕はそう信じたい……。
ルドラを抱き上げて待っていてくれたみんなと一緒にオルクスの町へと歩き出す。ジャネット達を見ると感慨深く俯いていた。
「前世の記憶……。皆さんもあるんですね」
ルーンがそう呟いて僕らを見つめる。
「私は【魔法学院】で生活する夢を見ていました。親しい人と魔法の勉強をする夢。その人を守るために魔法を……。マスターのように大切な人」
「あ……」
ルーンが感慨深く呟く。僕を見つめる表情はとても優しくて、僕は泣きそうになってしまう。
それは作られた感情だ。僕へのその気持ちはスキルのせいだ。そう言ってあげたいけど、それはあまりにもひどい話だ。知らないほうが幸せなこともある。
僕は無理やりそうさせられているみんなにしてあげないといけない。大切な人に会わせる。これは僕の贖罪だ。偽善でしかないけど、僕にはこれしかできない。
「マスター? どうされましたか?」
「あ、いや……。改めて言われると嬉しくてね」
声をもらした僕をおかしく思ったのか、ルーンが首を傾げる。
僕が答えると彼女は微笑んでくれる。この笑顔も本当はルナっていう妹に向けられるべきものだ。僕が喜んじゃダメだよな。
「……マスターは背負いこみすぎです。そんな深く考えないでください。気がすり減ってしまいます」
「ジャネット?」
僕はルーンからの笑顔に俯いているとジャネットが僕の腕を抱きしめてくれる。思わず喜んでしまいそうだったけど、彼女もルーンと一緒だ。僕に向けられるべきものじゃないんだよな。
「前世の記憶なんて関係ありません。今はマスターを守りたいと思っているんです。だから、そんな顔をしないでください」
「ご、ごめんジャネット」
「謝らないでください!」
僕が俯いているとジャネットが声を荒らげる。思わず謝ると彼女はに涙を流してくれる。
「私は守るものも守れない女でした。弟を守ると言って強くなって……。でも、気がついたら守るべきものはいなくなっていた。馬鹿な女です。守るために力をつけていたのに、知らぬ間に守るべきものを失っていた。そんな私は今ここにいる。守るべきものをまた与えてもらえた。私は嬉しいんです! またチャンスがもらえた。守るべきもの、愛するものを守るチャンスを」
「ジャネット……」
彼女の全力の声に僕は涙が出てくる。素直に受け取っていいものか……。でも、彼女がそう望むなら。
「僕もですよマスター。マスターがろくでもない人なら考えるところですけど、あなたはどんな人よりも優しい人だ。魔物の命を取る時に泣いてしまうような人。僕の代わりに泣いてしまうような人です。あ、愛する人っていうのは少し恥ずかしいですけど、守らせてほしいです」
「ジャン……」
「ワンワン!」
「ルドラまで……」
みんなの声を聞いて僕はポロポロと涙を流してしまう。ジャネットが抱きしめてくれるととても温かい。ルドラが顔をなめまわすと思わず笑ってしまった。
「温かいですね。私の光の魔法よりも」
ルーンはそんな僕らを見て笑ってくれる。仲間になったばかりの彼女は羨ましそうに見つめてくれてた。
みんなとのつながりを拒んでいたのは僕だったのかな。スキルの力に頼りすぎている僕の罪の意識がそうさせていたんだろう。これも僕の力なのに、受け入れていなかったんだ。
改めて彼女たちに向き合ってスキルを使っていくぞ!