テラーノベル
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side 藤澤
最初は、小さな違和感だった。
「藤澤さんのマイク、今日ちょっと調子悪くて」
スタッフさんの笑顔。
僕のイヤモニだけノイズがひどい。
本番中。
音がずれて、リズムが取りづらい。
(……あれ?)
終わったあと。
「藤澤さん今日ちょっと走ってたよね」
軽い笑い。
周りもつられて笑う。
僕は、笑う。
「ごめんなさい、僕のミスです」
違うのに。
それが、何度も続く。
衣装が自分だけサイズが合っていない。
立ち位置の変更が自分にだけ伝わらない。
SNS用の写真、自分だけ
写りが悪いカットを 使われる。
偶然にしては、多すぎる。
でも証拠はない。
「気のせいじゃない?」
そう自分に言い聞かせる。
「涼ちゃん、最近ちょっと痩せた?」
元貴が心配そうに見る。
「そう?気のせいだよ」
「疲れてるなら俺が迎え行くよ」
若井は優しい。
優しすぎる。
(これ以上心配かけられない)
「大丈夫だよ」
その一言で、全部飲み込む。
夜。
ひとりになると、手が震える。
本番前、息が浅くなる。
(また何かされるかもしれない)
ステージ袖でスタッフと目が合う。
にやっと笑われる。
心臓が跳ねる。
演奏しながら、頭が真っ白になった。
ミス。
「ほらね」
って顔をされる。
自分のせいにされる。
そしてそれを受け入れてしまう。
だんだん、眠れなくなった。
音が怖い。
人の視線が怖い。
若井が触れると一瞬びくっとしてしまう。
「……涼ちゃん?」
「あ、ごめん」
笑う。
笑える。
まだ笑える。
でも、内側はぐちゃぐちゃ。
ある日の リハ中。
イヤモニの音が完全に切れる。
何も聞こえない。
パニック。
呼吸が荒くなる。
「涼ちゃん?」
周りの声が遠い。
スタッフのひそひそ声。
笑い。
視界が揺れる。
「すみません、ちょっと……」
袖に逃げる。
壁に背を預けて座り込む。
息が、できない。
(僕が悪い)
(僕が下手だから)
(嫌われるのは当然)
指先が冷たい。
涙が勝手に落ちる。
でも誰にも言えない。
だって証拠がない。
被害妄想って言われたら終わり。
その夜。
家で、ついに崩れた。
若井が手を伸ばした瞬間。
「触らないで!」
反射的に声が出る。
自分でもびっくりする。
元貴が固まる。
若井の目が揺れる。
僕は口を押さえる。
「ごめん、ごめん……僕……」
涙が止まらない。
「僕が悪いのに」
「何が?」
若井の声が低くなる。
怖いくらい真剣。
「何があった?」
僕は首を振る。
「なんでも、ない、」
でも、体が震えている。
元貴がそっと抱きしめてくれる。
「なんでもなくないよ」
その優しさで、限界が切れる。
「……嫌われてるの、」
小さな声。
「スタッフさんに」
静まり返る部屋。
若井の表情が消える。
「どういうこと?」
僕は途切れ途切れに話す。
イヤモニ。
立ち位置。
視線。
笑い。
言いながら、自分でも信じられなくなる。
「被害妄想かもしれない」
そう付け足す。
でも若井は即答。
「違う」
怒りを押し殺してるような低い声。
元貴の手が僕の背中をさする。
「もっと早く言ってほしかったな、」
泣きそうな声。
僕の胸が痛む。
「心配かけたくなくて」
「かけていいんだよ」
若井が僕の顔を上げさせる。
「俺たちは何のためにいる?」
真っ直ぐな目。
僕の視界が滲む。
(ひとりじゃない)
その事実が、ようやく胸に落ちる。
安心した瞬間。
今まで張り詰めてた糸が、全部切れる。
僕は子どもみたいに泣いた。
若井が抱きしめてくれる。
元貴が頭を撫でてくれる。
「大丈夫」
「俺が守る」
「僕たちで守る」
その言葉で、ようやく呼吸が整う。
でも。
若井の目は、もう優しくない。
静かに燃えていた。
side 若井
「……誰だ」
涼ちゃんを泣かせた相手を
そのままにする気なんて、ない。
コメント
1件
若井も怒らせちゃった。 スタッフ! 覚悟しとけぇ~💢😡