テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「――それでは、演劇部による発表です。演目は『夕暮れの坂道で、君に文字を紡ぐ』」
体育館のスピーカーから流れるアナウンス。同時に、照明がパッと落とされ、全校生徒が集まる会場が静まり返る。舞台袖。星蘭は衣装の制服のスカートをぎゅっと握りしめていた。クラスでの茶化しも、あの「小野木と堀内」の噂も、もうどうでもよかった。今朝、登校路で蹴翔と交わした本物の約束が、まだ胸の奥で熱く脈打っている。「星蘭」暗闇の中、隣に立つ蹴翔が声をかけてきた。キザなトレンディ俳優の顔ではない。右の耳たぶを真っ赤に染めた、ただの恋する少年の顔だ。
「……何、蹴翔」
「いつも通り、世界中を騙してやろうぜ。……最高の嘘(おしばい)でさ」
「うん。……行ってきます、お兄ちゃん」
「だから設定が混ざってんだよ、クソガキ」
フッと二人の口元に、いつもの悪巧みな笑みが戻る。舞台の幕が、ゆっくりと上がっていった。
演劇部 6月発表作品『夕暮れの坂道で、君に文字を紡ぐ』
本番ステージ
[オレンジ色の夕暮れの照明が、舞台の上の教室セットを照らし出す。ハル(蹴翔)が机に腰掛け、炭酸飲料の缶を指先で弄んでいる。セリ(星蘭)は少し離れた場所に立っている]
ハル:……おい。そろそろ帰るぞ。いつまでそこに突っ立ってんだよ。
セリ:……別に、いいじゃん。私の勝手でしょ。
(客席の最前列で、噂を流した田中が「始まったぞ」とニヤニヤしながら身を乗り出す。クラスメイトたちも「いつもの二人の悪ノリだ」とニヤついている)
ハル:勝手だけどさ。お前がそうやって黙ってると、まるで俺が何か悪いことでもしたみたいに見えるだろ。
セリ:(一歩、ハルの方へ足を踏み出す。表情からいつもの『小悪魔』の笑顔が完全に消え、スッと真面目な顔になる)……ハル。今から私、100%本気の告白の演技をする。だから、1ミリも照れずに切り返してみて。
(そのセリフの瞬間、客席の空気がわずかに変わる。セリの目が、いつものおふざけとは明らかに違う、息を呑むほど真面目なものになっていたからだ)
ハル:(フッと鼻で笑い、髪をかき上げる)はっ、上等じゃねえか。どんな高度な嘘が飛び出すか、正面から受け止めてやるよ。
セリ:(ゆっくりと目をあける。夕日をいっぱいに浴びた、嘘を一切混ぜない、本気の少女の顔)……あのね。私、実はあなたのこと、ずっと前から好きなんだよね。これ、演技じゃないよ。
ハル:(喉をゴクリと鳴らし、椅子の背もたれに深く寄りかかる)……おい、その告白の割に、目が笑ってないぞ。
セリ:(さらに机の距離を詰めるように、身を乗り出す。瞳に大粒の涙が溜まり、ポロリと頬を伝ってこぼれ落ちる。体育館の広い空間に、彼女の震える声が響き渡る)目が笑ってないのは、今、心臓が破裂しそうなくらい緊張してるから……!あなたが世界一鈍感で、人の気持ちを裏返してしか見られないバカだけど、私、本当にあなたじゃなきゃ嫌なの。これは、私の可愛い嘘なんかじゃない。一生に一度の、本当の、本物の告白だよ……!
(星蘭の瞳からこぼれた本物の涙に、最前列の田中が「え……っ」と息を呑む。クラスメイトたちのニヤケ顔が、一瞬で消し飛んだ。お芝居のはずなのに、舞台上に流れる熱量が、あまりにも本物(リアル)すぎた)
ハル:(ガバッと立ち上がり、ハッとした表情でセリを凝視する。顔がカッと真っ赤に染まり、台本通りのセリフを、魂を削り出すような本気の声で叩きつける)……お前、そんなトーンで泣きながら言うなよ。そんな顔で泣かれたら、俺だってこれ以上、嘘の盾で誤魔化せなくなるだろ。俺の本当に好きな女子は、他の誰でもない、お前だけなんだよ……っ!
(蹴翔が叫んだそのセリフは、マイクを通さなくても体育館の後ろまで届くほど真っ直ぐだった。客席の女子たちが、思わず両手で口を覆う)
セリ:(ハルの目を真っ直ぐに見つめ返す。涙が止まらない)……え? 嘘、じゃないの……? 私たちのこと、クラスのみんなが茶化して、噂にしてるから……。だから、その腹いせで私をからかってるんじゃないの……?
ハル:(セリの両肩を強く掴む。その手は、台本を超えて微かに震えていた)外野の噂なんて関係ねえだろ! 誰が誰と付き合おうが、誰が誰を茶化そうが、俺の目は最初からお前しか見てねえよ!……これからは演技でも、ただのコンビでもない。俺と、本当の、本物のカレカノになってくれ。
セリ:(ボロボロと大粒の涙を流しながら、ハルの胸に全力で飛び込む)……うん、うんっ……! 私も、ハルじゃなきゃ絶対に嫌……っ!
(ハルは、胸に飛び込んできたセリを優しく、だけど二度と離さないように強く抱きしめる。客席からは、もはや静まり返ってすすり泣く声さえ聞こえ始めていた。誰もこれが『ただのお芝居』だとは思えなくなっていた)
ハル:(ゆっくりとその体を離し、セリの濡れた頬を両手で包み込む)もう、絶対に嘘つきなんて言わせねえよ。
[ハルは静かに顔を近づけ、夕日の光の中で、セリの唇に優しく、深く、キスをした。二人の影が、黒板の前で一つに重なり合う]
(舞台の幕が、ゆっくりと下りていく)
しーーーん……。幕が完全に下りた後も、体育館内は3秒間、完全に静まり返っていた。そして――。
おおおおおおおおおおっ!!!!
地鳴りのような大歓声と、割れんばかりの拍手が体育館を包み込んだ。
「大橋! 穂志羅! 最高すぎる!!」
「ガチじゃん!! 本物の純愛じゃん!!」
と、クラスメイトたちが立ち上がって叫んでいる。噂を流した田中は、感動のあまりボロ泣きしながら拍手を送っていた。幕の裏側。
「――ふはぁっっ!」
と二人は同時に息を吐き出し、その場にへたり込んだ。
「……やりきった。世界中、完璧に騙してやったわ」
星蘭は真っ赤な顔のまま、手で顔を覆ってニヤついた。
「おう。クラスの奴ら、全員大号泣だったな」
蹴翔もまた、心臓の爆音を響かせながら、真っ赤になった右の耳たぶを触る。全校生徒を巻き込んだ、世界一うますぎる最高の『カレカノの演技』。だけど、幕の後ろの暗闇の中で、二人がお互いの手をぎゅっと強く握りしめたその感触だけは、どんな名優の台本にも書かれていない、100%の本当の真実だった。
コメント
1件
いやもう、最高すぎて声出たわ……!! 「100%本気の告白の演技」って前置きからの、涙ポロリとか反則すぎるやろ。客席が静まり返ってから大歓声になる流れ、俺もその場にいたら立ち上がって拍手してたわ。 最後の「台本にない本当の真実」で持ってかれた。らるあるとさん、これはガチで名シーンですわ🔥