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〖グレーゾーン〗
第五話
〔 青空視点 〕
階段の上の子と、目が合ったまま固まった。
…誰だろう。
見たことある気もする。
ない気もする。
「……あ、あの……」
声に出そうとしたけど、出せなかった。
言葉が、喉で止まる。
その子は、何も言わずに小さく笑った。
…笑った?
笑ってくれた?
一瞬、胸が軽くなった気がした。
でも、すぐに、またわからなくなる。
階段を下りる足が止まったまま。
どうすればいいんだろう。
話す?
話さない?
逃げる?
…いや、逃げたくない。
『なぁ、青空くん?』
…え。
今、名前。
呼ばれた。
声の主は、その階段の上の子だった。
僕の名前を知ってるの?
返事をしなきゃ、でも、どうやって?
小さく頷くことしかできなかった。
…よかったのかな?
気づいたら、一段だけ上がってた。
…なんで、上がったんだろう。
…僕、話せるかな。
ちゃんと、うまくできるかな。
階段の上の子は、まだ笑ってる。
笑ってる理由、わかんない。
でも、怖くなかった。
『…ぁ、消しゴムごめんな〜』
びくっとして、見上げる。
さっきの人。
『それ、俺の』
…え。
手元を見る。
消しゴム。
「……あ」
いつのまにか、握ってた。
『さっき落とした』
「あ……ご、ごめん…」
階段を一段、上がる。
手、伸ばす。
ちゃんと、渡せるかな。
『なんで自分が謝んねん笑』
『ごめんな〜』
受け取ったあと、
少しだけ、こっちを見る。
『せんせ、うるさかったな』
……え。
急に言われて、
なにを返せばいいかわからない。
でも、
さっきまで頭にあった音、
少しだけ、思い出した。
「……うん」
小さく、頷いた。
それだけ。
でも、
さっきより、
少しだけ、息がしやすかった。
『じゃな』
消しゴムを受け取って、落とした筆箱拾って
その人は歩き出した。
…この人、安心。
気づいたら足が勝手についていってて。
『…なんや笑』
「ぇッ…ぁ、えと…」
言い訳が、出てこない。
ついてきた理由も、わかんない。
ただ、
離れたくなかっただけ。
『…屋上、来るか?』
「…え?」
『静かやで』
それだけ言って、また歩き出した。
…ついていっていいのかな。
足が、また勝手に動いた。
屋上のドアを開けたら、風がきた。
思ったより、広かった。
その人は柵のそばに立って、
遠くを見てた。
『ここ、好きやねん』
『うるさくないから』
「……うん」
空が、広かった。
しばらく、黙ってた。
でも、嫌じゃなかった。
『……学校、しんどいよな』
「……」
否定できなかった。
「……なにやっても、ミスばっかで」
声に出たら、
止まらなかった。
「周りとちがくて、浮くし」
「……ぼく、おかしいのかな」
言ったあと、
ちょっとだけ、怖くなった。
その人は、遠くを見たまま。
『…じゃあ』
少しだけ、こっちを向いた。
『周りとちがう俺も、おかしい?』
「……え?」
『女やけど、一人称も心の性別も男』
『周りはみんな標準語のなか、俺は関西弁』
風が、吹いた。
『おかしいと思う?』
「思わ…ない、けど…」
……じゃあ、なんで。
ぼくは、自分のことだけ、 おかしいって思うんだろう。
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〔 瑠唯視点 〕
『おかしいと思う?』
「思わ…ない、けど…」
何かを言いたげにして、顔を逸らす青空。
…そら話ちゃうって思うやんな。
『…似とるねんで、俺ら』
少しだけ、間を置いて。
『…せやからさ』
『好きに生きよや』
『楽しんだもんがちやねんで、人生って』
青空の瞳が微か揺れる。
自分でも、綺麗事やと思う。
せやけど、直球の方が、青空には届くと思ってん。
…俺は光になれるような人間ちゃうけど
手を伸ばさへんわけやないから。
「…ぼく、おともだちほしい」
息を吸って、続けて。
「遊んだり、いっしょに、勉強したり」
一生懸命に話す姿に、思わずくすっと笑みが溢れる。
『…ええで?笑』
『俺と友達なろや』
『俺は瑠唯』
『呼び捨てでええよ』
「ほんとっ…、?」
「ぼくっ、ぼくそら!」
「るい…くん、!」
俺は中3やから後1年。
たった1年、あっとゆーまの時間。
そんだけでも、笑わせてやろうと思えた。
「るいくんっ…は、なんで学校きらい、?」
学校ってゆー檻のなかで、
普通を強制されることが…、俺は嫌やねん。
『んー…なんでやろなぁ』
…無邪気な瞳に、闇はいらへん。
そんなら、俺は傍に居るだけでええ。
世界は、学校だけやない。
学校なんか行かへんくても、ちゃんと生きてける。
考えるねん、沢山。
どうしたら、自分が苦しまずにいれるか。
どうしたら好きなことを仕事にして生きれるか。
考えることをやめたら、もうついてはいかれへん。
もっと大きくなったら、きっと青空もわかるで。
…青空の、居場所、早く見つかるとええな。
『…また明日も、ここおいでや』
「うんっ!」
青空は、笑ってた。
あんな顔、学校じゃ見たことない。
一切、裏はないんやろなってわかる無邪気な笑顔。
…救われとるんは、
どっちやろな。