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さくらは、スカウトマンが示した圧倒的な熱意と、自分の中に沸き起こった抑えきれない興奮に従い、スターライト・プロダクションの門を叩いた。契約は驚くほどスピーディに進んだ。
さくらの才能は、事務所の幹部たちにとっても「待望の逸材」と映ったのだ。
スカウトマン—後に彼女のチーフマネージャーとなる五十嵐—は、さくらの要求に対し、きっぱりと答えた。
「学校生活を『日向さくら』として普通に過ごしたい。そんなのかまわない。ただし、君には『ちぇりー』という名前と、プロとしての責任が伴う。二つの生活を完全に切り分けろ。学校ではアイドルであることを悟られても、絶対に口外するな。それが、君と事務所の約束だ」
さくらは約束通り、芸名「ちぇりー」として、歌、ダンス、演技の猛レッスンを開始した。
韓国仕込みの基礎と天性のセンスにより、彼女の上達スピードは周囲の想像を遥かに超えていた。
(ちぇりーは完璧で最強の私。さくらは…普通の私。頑張らなきゃ)
レッスンの激しさは想像以上だったが、さくらは逆に闘志を燃やした。「最強」と呼ばれるに相応しい実力を持つため、睡眠時間を削ってまで努力を続けた。
そして、ちぇりーは事務所が期待する新星ガールズグループ「Starlight Wish (スターライト・ウィッシュ) 」のメンバーとして正式に紹介された。グループはちぇりーを含め、個性豊かな5人で構成されていた。
月島 凛(つきしま りん):17歳。クールでストイックな最年長リーダー。
星野 葵(ほしの あおい):16歳。透き通るような歌声を持つサブリーダー。
水無月 希(みなづき のぞみ):15歳。ちぇりーと同い年で、パワフルなラップを担当。
赤城 華(あかぎ はな):16歳。整った顔立ちで、グループのビジュアル担当を担う存在。
華は大人びた雰囲気で物静かだが、負けん気は強い。
「ちぇりーは新人だけど、センターの座は実力で勝ち取らないとね」と、静かな口調ながらプロとしての覚悟を滲ませた。
凛は「センターは、グループの顔であり、責任だ。常に完璧を求められる」と厳しく指導し、
葵は「ちぇりーちゃんの笑顔が、私たちの一番の光だよ」と優しく支えてくれた。
「すごいね、ちぇりー。韓国でレッスンしてたんだっけ?ダンス、キレッキレじゃん」
希は笑顔でそう言ったが、その目にはどこか、負けん気の強さが宿っているのをちぇりーは感じた。
ちぇりーの才能を認めつつも、同い年としてライバル心を抱いていることが、すぐにわかった。
希と華は、ちぇりーの才能に驚きつつも、どこか複雑な表情を見せた。
そこからのデビューまでの道のりは、まさに嵐のようだった。デビューシングルはすぐに制作され、ちぇりーは圧倒的な存在感とパフォーマンス力から、グループのセンターに抜擢された。
凛は「センターは、グループの顔であり、責任だ。常に完璧を求められる」と厳しく指導し、
葵は「ちぇりーちゃんの笑顔が、私たちの一番の光だよ」と優しく支えてくれた。
デビュー曲のミュージックビデオが公開されると、そのビジュアルとパフォーマンスは瞬く間に話題となり、「ちぇりー」の名はSNSのトレンドを席巻した。
「ちぇりー、最強すぎ!」「中学生であの完成度かよ」「韓国育ちとかチートだろ」「同じ人類とは思えない…!」
絶賛の嵐の中、さくらは中学の制服に着替えて、ごく普通の登校を続けていた。
学校では、ちぇりーとしてのオーラを極力消し、目立たないように、鈴や樹と静かに過ごそうと努めた。
デビューから一週間が経った金曜日。放課後、さくら、鈴、樹の三人は、樹の家でたわいもない会話をしていた。
さくらは、自分が昨夜、生放送の音楽番組に出演していたことなど、微塵も感じさせない。
「ねえ、聞いてよ!最近デビューした『Starlight Wish』って知ってる?超ヤバくない?特にセンターの『ちぇりー』!私の最推し!!」
鈴は熱弁を振るい始めた。
さくらは内心ヒヤリとしたが、「え、ちぇりー?誰それ?」ととぼけた。
「知らないの!?ほら、この子!めちゃかわ!わたしもこの顔で生まれたかったなあー」鈴はスマホを取り出し、ちぇりーの宣材写真を見せた。
さくらは平静を装いながらスマホを覗き込んだ。
その時、鈴は真剣な表情で、さくらの顔とスマホの画面を何度も見比べた。
「…ねぇ、さくら」鈴の声が一オクターブ低くなった。
「気のせい…かな?なんか、ちぇりーとさくら、顔の輪郭とか目の形が、すごく似てる気がするんだけど」
さくらの心臓が跳ね上がった。
樹は相変わらず何も言わず、机に広げた教科書を見ていたが、その手が、僅かに教科書の端を強く握っているのを、さくらは見逃さなかった。
「えー、まさか!そんな偶然あるわけないよ!ちぇりーちゃんはアイドルだよ?私、ただの転校生だし!」さくらは慌てて笑ってごまかそうとする。
しかし鈴は、普段の陽気な顔を崩し、鋭い観察眼でさくらを見つめ返した。
「さくら。あなたの笑顔、光ってるんだよ。まるでスポットライトの下みたいに。…もしかして、本当に…」
その瞬間、テレビで、たまたまSWのデビュー曲のCMが流れ始めた。テレビの中の「ちぇりー」が、ウインクをする。さくらの普段の仕草によく似ていた。
鈴は確信したように、静かにスマホを机に置いた。さくらには何も言わなかったが、その目には、すべてを理解した深くて複雑な光が宿っていた。
秘密は、もう「秘密」ではない。さくらの二重生活は、始まったばかりで、早くも壁にぶつかっていた。