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もっちりとしたナンに、スパイシーなインドカレーの風味が合わさってううん――たまらない!
お口のなかにナンのあまみと、インドカレーの辛みが広がってあああ、最高……!
美容室でカットとパーマを済ませたあと、銀座駅に行く途中で電車を降り、インドカレーの店に来ている。今日は夜もお外で食べるから、控えめに。そこまでボリュームのないものがいいね、と話し合って調べたらこちらの店がヒットした。課長も美味しいと言いながら食べている。
ラッシーでお口に残る辛みを癒していると、課長が、
「……聞いてもいい?」
「はい」
「ずっと気になっていたんだけど、洋服。普段から、白のワイシャツと黒のタイトスカート着るのってなにか……理由がある? あ、辛い理由だったらごめんね。もしかしたらそうかもしれないとは思うけれど、ただ、話してみて楽になることってあると思うから……新しく洋服買う前にそこクリアにしておきたくてね」
相変わらずの課長の洞察力には驚かされる。――確かに。わたしは普段から、白のワイシャツと黒のタイトスカートばかり着ている。まるで、男のひとがスーツを着るかのように。それ以外の手持ちの服は、クラシカルな紺のワンピース。課長と結ばれた日に着ていたもの、……それから課長と結ばれた翌日に着ていた、レモンイエローのニットと淡いグレーのプリーツスカート。結婚式みたいだった飲み会で着たシャツワンピ以外だと上下二着、シャツとパンツがある程度だ。……課長と会うときはスカートを履くのが鉄則。股のあいだに滑り込む彼の手が愛おしいから……。
わたしは課長の目を見て答える。
「大学時代はもうちょっと露出の多い格好していたんですけど。……電車で何度か痴漢に遭いまして」
ああ、と課長の顔が歪む。「ごめん。そうか。……辛いこと思い出させちゃってごめんね」
「それで、……地味目な格好とか、あるときはダサダサな格好すれば遭わないこともあって。……社会人になってからも遭ったことはあるんですけど。だから女性専用車両選んだりして。パンツ履いてれば平気かなって思ってたら、お尻撫でられることもあって……いやで。いやでたまらなくて。
なにも出来なかったんですよね。悔しいですけど。こっちは急いでるし。仕事もあるし期限もあるし……なんとなくですけど、同じスタイルで武装すれば、いろんなパターン試してがっかりすることもなく、守られる感じがしたんですよね。会社に着いても弱い自分が消えて、強い自分が現れる気がするんです。わたし、……会社でも男の人は怖かったですし。相手を人間ではない、機械だと思って接することもありました。
……あ、最近は全然です。若い男性には近寄らないようにしていますし、それにいまは、課長がいますから……」
「気づいてやれなくてごめん」課長はわたしの手に自分のそれを重ね、「これからは、おれが守るから。月曜日も一緒の電車に乗ろう。たぶん同じ電車乗ってると思うから……早めに出社するときはごめんね?」
「分かりました。……あの、でも、課長が背負うことじゃないですよ? 悪いのは、若い女性狙って痴漢する野郎ですし」
「でも、その話聞いたからにはひとりにはしておけないな。帰りはおれのほうが帰宅は遅いけれど、……うん。出来るなら帰りも一緒に帰りたいが――」
「大丈夫ですわたし」とわたしは力強く答える。「帰りなら、基本定時帰りですし、急いでませんから。仮に痴漢に遭っても、そいつの首根っこ引っ掴んで、駅員さんに突き出してやります。
……わたし、思ったんです。
わたしのからだって、わたしひとりのものじゃないんだなって。
課長にあんなに愛されると、すごく……自分のからだって大切なんだなって気づいて。いまは、指一本、他のどの異性にも、触られたくないです。
それに、わたしは経験してませんですけど、……妊娠や出産って、大変だと聞きます。生まれてくるだけで奇跡なんですよね。それを思うとなおのこと、親から貰った――ご先祖様が繋いできた命を大切にしたいなって、そう思うんです……」
「莉子。きみは、変わったね……」目を潤ませる課長はエモーショナルに、「すごく……強くなった。おれは嬉しい。人前でも自分の強い意志を、しっかりと表明出来る女の子になった。おれは、嬉しい」
「課長がわたしを強くしたんです。課長に守られているから――課長に愛されているから、強くなれる」
「飲み終わったら銀座向かおうと思ったんだけど……ごめんね莉子。不謹慎で。その……おれ……」
何故か顔を赤くする課長に、「なんですか」
「店を出たら立ち寄りたいところがあるんだ。……つき合ってくれる?」
深く考えずわたしは答えた。「ええ。課長とならどこにだって行きます」
* * *
『そういう建物』は、どこにでもあるのか――と、わたしは感心してしまう。
入り口で明るいパネルがあるので、いろんなパターンのなかから部屋を選ぶ。「ここでいい?」
よく分からないけれど、わたしは「はい」と答えた。
続いて、鍵を取り出す。受付が顔が見えない仕様なのはなるほどな、とは思った。確かに、いらっしゃいませーと、ホテルマンなんかに出迎えられたら、不可思議な気分になってしまうかもしれない。誰にも見られてはならない、いけないことをしていることへの背徳感。この背徳感こそが部屋に辿り着くまでの恋人同士を燃え上がらせるのだ。
課長の足取りは速かった。ずんずん前を進み、エレベーターに乗るとボタンを押し、降りると――廊下を進み、部屋へと直行する。
部屋に入り、ドアに鍵をかけるなり、課長がわたしの唇を激しく貪った。唇を離すと、「莉子……ああ、ごめん。おれ、実は……きみの新しい髪型を見た瞬間欲情していた。電車のなかでも辛くって、いつ……気づかれやしまいかと。気が気じゃなかったんだ……」
課長はわたしの突き出たバストを手で包み、息を荒くすると、
「挿れたい……」とかちゃかちゃとベルトに手をかけ、「きみのなかに入りたい……もう、我慢出来ない」
「いいですよ」とわたし。くるりと背を向け、「わたし、バックが好きなので。挿れていいです。激しくしちゃって平気です」
実を言うと課長のキスだけですっかり濡れている。むしろわたしのほうが我慢出来ない。おそらく課長は――わたしの背後で装着すると、
「ポケットに常備しているおれを軽蔑しないでくれよ……莉子」余裕がないらしい。ストッキングごとわたしのパンティを引き下げると、課長は、「おれは、きみと一緒にいるとき、正直ね……いつも、莉子のなかに入りたいなって考えている。おれを気持ちよくさせる莉子とひとつになって、きみの――淫らな声を聞きたい。感じやすいその肉体を味わい尽くしたいと――そう考えている」
スカートがまくりあげられる。冷えた空気に出迎えられた直後、課長がまっすぐ――入り込んできた。
「いや、や……」勿論いやという意味ではない。狭い道を突き進む課長の熱い、太い肉塊がわたしを刺激する。どうしよう、すごく感じる……!
「――や、あ、ああ……っ!」
壁に手をつき、あまりの快楽に耐えた。崩れそうなからだは、課長がしっかりと、わたしのバストを包むことで支えてくれている。――挿入されただけで即イキ。わたしのからだって、どうなっているのだろう……。
「ふふ……びくびく言ってる莉子」髪を流し、うなじをきつく吸い上げる課長は、「おれの証を莉子のからだにいっぱい残してあげる。感じてる? 感じやすい莉子のことがおれは――大好きだよ」
その言葉を皮切りに、課長は激しいセックスを開始した。
* * *
「ひっ……あっ……あっ……あっ……」
ばちばちと課長の肉欲をぶつけられ、応える自分の精神及び肉体。四つん這いで――すっぱだかで、性に取りつかれた獣となって、課長のありあまる愛を受け止めている。
「莉子……はっ……莉子……莉子ぉっ……!」
どうしてこういうときに、相手の名前を呼びたくなるのだろう。人間ならではの特性か。動物なら呼ばないだろうに。
場所が場所なだけに、淫らな気持ちを駆り立てる。丸いベッド。鏡張りの天井。淫靡な雰囲気――どれもが、恋人たちを追い込む要素と化す。そのためにこの場所は用意されている。
ある段階に至るととうとう、わたしは崩れた。上体を――いつもとは違う、課長の匂いのしないベッドに預ける。それでも課長はわたしを追いかけてくる。
「課長……ああ、課長……大好き……」
涙ながらにわたしは叫ぶ。「――遼一さん!」
その瞬間、熱い課長の精がわたしのなかで広がった。完璧なタイミング。課長は――からだを崩し、しっかりと体重を預けてくる。背中で味わう限り、課長の鼓動は速く――息も荒い。課長が感じていることが――気持ちよくなってくれていることが、わたしには嬉しかった。
* * *
こういうところに来るのは初めてだけれど、……わーお。バスタブに湯が張られていて虹色に光って綺麗。しかも、壁がガラス。スケッスケ。風呂に入る彼女を男が見て欲情するという構図か。なるほど。
わたしがシャワーを浴びていると課長が入ってきた。いくら見られ慣れているとはいえ、恥ずかしい。「課長……あまり見ないで」
見れば、課長のペニスは立ち上がっている。ずんずんわたしの前に進むと課長は、
「莉子……とってもきれいだ」頬を撫でるとキスをくれ、「おれね。莉子を見るたびに恋をしている。毎日ね。どんどん美しくなっていくきみから目が……離せない。おいで。莉子……」
課長は湯に足を入れると、
「いちゃいちゃしよう」
* * *
電車に乗るわたしの胸のうちには、言いようのない感情が広がっていた。ラブホテル。背徳的な場所だ。外ではよそゆきの顔をしているのに、あの秘密の建物のなかでわたしたちはあんなにも愛し合っていた。何度も、何度も……。ひょっとしたら、通りすがるひとが、それを見抜いて、「あ、あのふたりヤりまくってきたやつらだ!」……なんて指をさされはしまいかとつい――心配してしまう。
隣に立つ課長を盗み見た。課長は、いつもの顔に戻っていた。そう、通勤電車に乗るときの顔つきと変わらない。見事に切り替えて……なのに、わたしといったら。あれだけ愛しこまれたのに、まだ……。しようとすればセックス出来る自分を、持て余している。ああ、ここが電車じゃなかったらな……。
と思ったときに、わたしは痴漢行為をする人間のからくりに気づいた。彼らもまた、欲望を持て余しているのだ。無論、求めてもいない――愛してもいない、見知らぬ女性の尊厳を冒涜することなど絶対にあってはならないが。ただ――相手も欲望を持て余す同じ人間なのだと知ると、腑に落ちた。聡い課長のことだから、そこまで計算してのことかもしれない。わたしは、わたしと繋がないほうの手で吊革に捕まる課長を見上げた。
「ん。どうした」
「いえ。課長ってすごいなって……改めて思い知らされました」
「なんだそれ」目尻に皺を溜めて課長が笑った。「莉子って時々面白いこと言うよなあ? まあ、おれは……」
言って課長は身を屈めると、
「莉子のそういうところも大好きなんだけどなあ」
――あのときだけに聞かせる声の響きに、たまらず子宮が疼いた。正直……いますぐに挿入して欲しい。
わたしの胸中見抜いてか、ぽんぽん、と課長はわたしの頭を撫でて、
「続きは帰ってからな」と微笑んだ。……ひどいひと。わたしをこんな淫らなケダモノに作り替えて……あなたの目を見るだけで胸の奥がきゅっと締まる。キスだけで絶頂。挿入だけで絶頂。数え切れないほどの高みに追いやるあなたって本当に残酷なひと。
わたしがかるく課長を睨みつけると課長は、頭をかいて笑った。
「参ったな。そういう莉子の顔もまた、好きでたまらない」
*