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我知らず、孤独な戦い×エターナルが確定したとは知る由(よし)も無いコユキは、四階の一風変わった扉の前に立っていた。
今までの重厚な金属の扉と違い、目の前のそれは、ガラス製の両開きのドア、現実社会では当たり前に存在している、所謂(いわゆる)『自動ドア』の、まんまであった。
自動ドアとは、その前に立つと勝手に開き、通り過ぎると勝手に閉まってくれると言う、大変便利なドアなのである、一方、世界中の紳士(ジェントルメン)の皆様からは、
「淑女(レディ)の為にドアを開いて招くことが出来ないテクノロジーなんて、本当に興ざめだぜ! やれやれ…… がっかりだよ……」
と、賛否両論の技術なのでもあった……
そのガラスのドアにバランス良く書かれたロゴマークは、真紅の円を左右に伸びる感じで横切った黒文字で、『吟味 ツミロー 回転寿司』と書いてあり、魔界じゃなきゃ、例えばお隣の国の皆さんがこんな事やったとしたら、ネトウヨのみならず無印○品ファンの一般の方々まで、額に青筋を浮かべて怒り捲ってしまう事であろう。
ふぅ、魔界で、ムスペルへイムで良かったと、初めて思えた瞬間であった。
コユキは躊躇(ちゅうちょ)の欠片(かけら)も見せずに、ガラスの扉の前に立つと、思った通り、両開きのドアは、ウィーン、とお馴染みの機械音を響かせながら開いたのである。
特段、ジェントルメンの主張に興味が無かったコユキ(レディ)がドスドス入って行った店内、いや、四階層には、期待したクルクル回る寿司レーンは無く、大量の長机とその奥に掲げられた大きな横看板が見えた。
看板には何のつもりなのか、
「チキチキ、聖女と暴食! 第一回大食い寿司食べて食べて腹爆ぜて~選手権!」
と書いてあった。
ドヒュドヒュパフパフパフーといった鳴り物が無かった事は仕方ない事であろう、ここは日テレのスタジオではなく魔界なのだから……
まあ、大食い選手権という名前から想像出来る通り、ずらりと並んだ長机の上には一皿二貫づつ規則的に並べられた江戸前寿司が、美味しそうに並んでいたのである。
「うひょぉー、来た来たっ! まじで? こんなのあって良いのん? 御褒美階じゃんねぇ! うっひょーぉ!」
喜色満面のコユキであった……
まぁ、ペコペコでこれ来ちゃったら仕方が無いのであろう……
「うふぇふぇ、お、オデ、暴食のグラだどおぉ、オメ聖女ナンダボぉ? お、オデと勝負ダ、に、逃げんじゃネエゾオぉ!」
声のした方向に目を向けたコユキは、下の階で自分が寝そべっていた物と同じ物だろうか、大きなカウチソファに腰を降ろした、見た事もない(鏡以外)程太った巨漢の姿に驚くのであった。
全身の肌が青紫色をしている事で人間では無い事は一目瞭然だが、同じ色の頭髪を黄金のリングを使って頭頂部で一纏(まと)めにしていて、服装は道化だろうか、放射状に広がったラフと同じ色のクラウンは太陽の様なオレンジ色をしており、それぞれの先端には赤いボンボンが付けられていた。
――――すっごいデブだ! にしても、何だ、あのふざけた格好は……
と、コユキと『暴食のグラ』は同時に思ったのであった。
ふむ、前にコユキが試して後悔した、ボウ、ジンゲンジャ…… のオリジナルの奴が出て来たらしい…… しかし、顎を突き出してコユキは思ったのだ。
――――誰の挑戦でも受ける!
と。
ボンバイエを脳内再生しながら人間じゃなくなったっぽいグラの説明、対決方法を聞きながらも、コユキの腹はグラウオォー、グラウオォーと聞いた事も無いほど、凶悪な喰らうぞの意思を周囲に撒き散らし続けていたのであった。
「わかっだかぁ? お互いビャク皿づつ、二百ガンを食べ終わるのグァ、早かったボウがガチだぁー、イイがぁー」
「勿論、ってか早く始めましょうよ、飢え死に間際なのよ、いい? 頂きますっ!!」 パンッ!
「オウ!」
勝負が始まった。
この大食い競争の結果が茶糖家の皆の運命を握っているのだ……
さしものコユキであっても緊張してしまうのが当然であると言えるだろう。
にも、関わらずコユキはいつも以上のペースで、次々と美味しそうな『ツミロー』のお寿司を食べ続けていったのである。
その顔は、至福の極み、日本人なら誰でもそうかもね?
お腹ペコペコの時のお寿司とカレーって、うん、飲めるもんね~。
因み(ちなみ)にコユキくらいの上級者になると、カツ丼や生姜焼き定食でも飲めちゃうらしい、牛丼なんか当たり前で言うまでも無いらしい……
えぇー? であるっ!
対する『暴食のグラ』も凄まじい勢いで寿司を平らげ続け、速度もコユキと比べて遜色(そんしょく)ない様だ。