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二人揃って気持ち良い位、一切の淀みなく皿の上の様々なネタの乗ったお寿司を食べ進めていった。
「ふぅ~、そろそろ六十ザラかぁー、流石(さすが)に腹にだまっでキタぞぉ、ゲップ! アイツは? 聖女はドゴダ辺だど? ん? あで? あでで?」
分かり難(にく)いがおそらく『あれれ』と呟いたであろう『暴食のグラ』の驚きも無理は無かった。
自分と向きあう形で並べられているコユキレーン(只の長机)で大量のお寿司相手に悪戦苦闘を繰り広げている筈のコユキの姿がどこにも見当たらなかったからである。
スタート地点からゴール地点まで、何度も見返していたグラは、強烈な違和感を感じて手に持った皿に乗った、二貫のトロサーモンへ伸ばし掛けた箸を止めるのであった。
「あ? あで? なんで? ?」
コユキ側のレーン(只の長机)に置かれた皿には、一つの寿司も乗っておらず、本当に只のス○ローっぽいお皿だけが残っているのであった。
緊張した面持ちで対局中の相手、コユキレーン(だから! 只の長机だってば!)を見つめて固まっているグラの肩が、不意に誰かによって叩かれるのであった。
ゆっくりと叩かれた肩の方を振り向いたグラに、満面の笑顔を浮かべたコユキが言った。
「お代わりっ!! あれ? 若(も)しかして…… これってお代わり禁止、シ、システムだったのん?」
「え、え、いや? あれ? いや、お、お代わりですか……?」
おい、お前! 喋り方普通に戻ってんじゃネェか!
態(わざ)とそれっぽくやってたって事かよ!?
面倒臭いなぁ! 全く……
「えっと、あの…… お代わりっていうか…… 俺には良く分かんないんで、はっ! お、オデジバジョグバカブバイブンディ」
いや、もう先に普通に言っちゃってるからね……
やっぱ人間って、大罪に落ちても中々止められないんだって事だよね……
「もう面倒臭いから、普通に話せるんならそうしてよね!」
ほらね、やっぱりウチの婆ちゃんにもばれちゃってるじゃんか!
観念したのか、グラは急に流暢(りゅうちょう)に話し出したのであった。
「う、うん、ねぇ? あっちのお寿司全部食べたの? んで、こっちの分…… 折り返しって言うか…… そう言うシステムじゃなかったんだけどね、先に百皿食べ終えたら勝ちって事だったんだけど…… お代わり、ですか…… えっと……」
コユキは答えて言った。
「あ、そうなんだね…… んじゃ、モット味わって食べれば良かったわね…… 全ては泡沫(うたかた)と帰したわね…… 仕方ないわね」
グラは割りとマジで心配そうな表情を浮かべて言った。
「何かすいませんね、んでも、大丈夫ですかね? 普通、人間は三日に一度のちびろ○ラーメン半人前で生きてイケる物なんですよ…… 大分無理しちゃったんじゃ無いですか? ガス○ーテンとか、キャベジ○とか要りますよね? ね?」
「ん、ああ、まだまだ大丈夫よ! 今大体、腹三分目、三十パーセントって所かな♪」
その言葉を聞いた『暴食のグラ』は手にしていたトロサーモンの皿を傾けてしまい、当然上に乗っていた二貫の握り寿司は寄る辺も無く、落下して行ったのであった。
そのまま地面に落ちてグチャッといってしまう、普通ならそうであろう……
しかし、この場には普通、『永久普遍的な通念』という概念が通用しない存在がボケェ~っっと存在していたのである! 皆ついつい忘れがちな存在! 『真なる聖女』、本編の主役、コユキが居たのである。
グラがうっかり滑り落とした二貫のトロサーモン(薄切り)を、器用に割り箸で拾いあげたコユキは、満面の喜び溢れる笑顔でもって答えるのであった。
「なに? これくれんのぉ? ありがとう! 何よ、アンタ全然良い奴じゃないのぉ! 気前良いわね♪ 頂くわねん!」
コユキは嬉しそうに、箸が捉えたトロサーモンを口に運ぶと、いつも以上により深く味わう様に、丁寧な咀嚼をした上で、飲み込むのであった。
呆然とその姿、勝者の美しいラストランを見守っていた『暴食のグラ』は、無言のまま、ドヒュッ! という音を残して飛んで行ってしまったのである。
分かり易いイメージで言うと……
ごめんなさい、もう打ち止めです……
ハギュハギュ、エグッ、エグッ、ゴメンなさい…… (嘘泣き、ニヤリ)
で、あった!