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パトリスにああ言った手前、早速お花を公爵家へと贈った。
すると、すぐにジョアンヌ公爵令嬢から、お礼とプライベートなお茶会の招待状が届いた。ブランディーヌからも勧められ、出席すると返事をした。
指定された日になり、リーゼロッテは従者兼執事姿のテオと共に公爵家へと向かう。
「ジョアンヌ様。お招きいただき、ありがとう存じます」
「リーゼロッテ様、本日は他の方は招いておりませんので、堅苦しいことは抜きにしましょう! どうぞ、私のことはジョアンヌとお呼びください――聖女様」
嫣然と微笑みながら言ったジョアンヌに、苦笑してしまう。
ジョアンヌとのやり取りの中で、リーゼロッテが聖女であったのが完全にバレていたと判明。リーゼロッテだけではなく、助祭をしていたテオにも気がついていたのだ。
(バレてしまったのなら仕様がないわよね)
リーゼロッテは僅かだが、光属性の持ち主ということにしておいた。辺境伯領の教会を通して頼まれ、一時的に手伝っていたのだと。信じてもらえたかは分からないが。
(どこが内気なのよ……まったく。公爵家恐るべし!)
このお茶会も、半ば強引だった。
「では、私のこともリーゼロッテとお呼びくださいませ。もう、聖女ではありませんから」
リーゼロッテも令嬢らしい笑みを返す。
会話が弾んでくると、話題はデビュー初日のことになる。
家柄の順で、先に拝謁の儀を済ませたジョアンヌは、謁見の間から出てきたリーゼロッテが手にしていた花に目を奪われ、リーゼロッテ自身の存在にも気づいたそうだ。
並んでいた令嬢達の奥から、視力強化をして見ていたらしい。
(あの強い視線……、魔力の高いジョアンヌだったのね)
そして舞踏会で、ジョアンヌはリーゼロッテに話しかける気満々だったらしいが――。
次から次へと来るダンスの誘いもあり、タイミングを見計らっていた所、兄パトリスが抜け駆けしたのだと。
「パトリスお兄様ったら、リーゼロッテに一目惚れだったのです。ですが、あんな素敵な魔石を着けていらっしゃったから……確かめずにはいられなかったのですわ。勝手に、私を内気な妹にして」
ジョアンヌが文句を言うと――。
「そうかな? 私にとっては内気な可愛らしい妹だよ、ジョアンヌは。こんな素晴らしいお茶会に、誘ってくれないなんて寂しいじゃないか」
突然、扉の方からパトリスの声が聞こえた。
パトリスは優美な笑みを浮かべ、リーゼロッテ達たちのそばに来ると椅子に座る。
「まあ! お兄様、勝手に入って来て失礼ですわ。ねぇ、リーゼロッテ?」
「仲がよろしいのですね」
リーゼロッテがニッコリ微笑むと、パトリスは嬉しそうに頷く。
「やはり、リーゼロッテ嬢はお美しい。どれ程の者が、ダンスにお誘いしたかったことか」
「まあ! そんなに煽てないでください」
「いえ、本心ですよ」
と熱い眼差しをリーゼロッテに向ける。
「お兄様。リーゼロッテにはエアハルト辺境伯がいらっしゃるのですから、その位になさいませ!」
ピシャリと言ったジョアンヌに、パトリスは肩を竦める。
「分かっているよ。リーゼロッテ嬢の、あんな表情を見てしまったらね」
どうやら、あのバルコニーで赤面したのをしっかり見られていたようだ。
(うっ、恥ずかしい……)
「それに、あの時……背中に感じたエアハルト辺境伯の視線。殺されるかと思う程だったよ。あはは……」
(お父様、公爵令息になんてことを……)
こうして冗談を言いあったりしているが、公爵家の2人と話していると、本当に優れた人材なのだと理解できた。クリストフが、守ろうとしたのがよく分かる。
「ところで、お二人は……。クリストフ殿下とジェラール殿下、どちらとも仲がよろしいのですか?」
世間話的に質問してみた。公爵家なら顔を合わせる機会も多いだろうと。
パトリスとジョアンヌは顔を見合わせ頷いた。
「リーゼロッテ。これは、ここだけの秘密にしてくださいませ」
そう前置きすると、ジョアンヌは話し出す。
ジョアンヌは、クリストフの婚約者だった。
公爵令嬢として王太子妃になるべく、相応しい教育も受けて来た。ジョアンヌの社交界デビューを終えたら、婚約発表を予定していたそうだ。
内々での打診は済んでいたが、クリストフの意向で、早期の正式な婚約発表はしていない。
クリストフが死を望んでいたことや、万が一にもジョアンヌを巻き込みたくなかったのだろう。
勝手な言い分だとは思ったが、今となっては良かったのかもしれない。
「私、クリストフ殿下をお慕いしておりますの。ですから、婚約は白紙に戻すつもりはありません。周りの反対には負けませんわ! 少しでも、クリストフ殿下のお役に立ちたいのです……」
それで、リーゼロッテの持っていた花が、とても珍しい素材だと気づき、宮廷魔術師になったクリストフに見せたかったそうだ。
ふふっと笑うジョアンヌは、恋する乙女そのものだった。
リーゼロッテは、ジョアンヌを応援したくなった。
「でもね、リーゼロッテ嬢。ジョアンヌは殿下を前にすると、急に大人しくなってしまうんだ。ね、内気だろう?」
「お兄様っ! それは、今まで受けて来た教育のせいですわ。これから私は変わるのです!」
「ジョアンヌ、私も応援します! また、お花が必要になったら言ってくださいませ」
(うん。クリストフにも、ジョアンヌにも幸せになってほしい)
そして、来年の貴族学院の入学の話題に移る。
同学年になるジョアンヌとリーゼロッテは、再会を約束してお茶会はお開きになった。
◇◇◇◇◇
その翌日――。
無事に社交界デビューを果たしたリーゼロッテは、暫く滞在してしていた王都のタウンハウスから、領地へと出発した。