テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
泣き疲れた俺を見て、若井が
「今日はウチ来いよ」
と言ってくれた。
気づけば俺はそのまま、
若井の家に泊まることになった。
若井の部屋は思ったよりきれいで、
ギターが壁にかけられていて、
ポスターや雑誌が散らばっている。
「……ほら、元貴。シャワー使えよ」
「えっ……俺、いいよ……」
「いいから。風邪引くな」
渋々シャワーを浴びて戻ると
若井がソファにだらりと座って待っていた。
俺が借りた若井の
Tシャツを着てるのを見た瞬間、にやっと口元を上げる。
「なに?」
「いや……似合いすぎて反則」
「バカじゃねぇの……」
顔を背けようとした俺の腕を、
若井があっさり引っ張って自分の膝に座らせた。
「ちょ、ちょっと!?」
「いいじゃん。落ち着く」
「落ち着くのはお前だけだろ!」
もがく俺を、若井はまるで
抱き枕のようにぎゅうっと抱き込む。
その力が強くて、逃げられない。
いや……正直、逃げる気なんてなかった。
「なあ、元貴。お前ってさ、ほんと甘えん坊だよな」
「はぁ!? どこが!」
「俺の前だと全部わかりやすい。
泣き虫で、すぐ不安そうな顔して、
でも俺にくっついてきて……」
耳元で囁かれて、心臓が跳ねる。
「……俺、そんなのしてねぇし」
「してる。かわいい」
若井が俺の頬に顔を埋め、首筋に唇を触れさせる。
一瞬びくっとして体が固まるけど、
すぐに全身が熱に溶けていく。
「な、なにすんだよ……」
「元貴の匂い、落ち着く」
「……変態」
「いいよ、お前限定の変態で」
くすぐったさと嬉しさが
ごちゃ混ぜになって、頭が真っ白になる。
ベッドに移動すると、
若井は俺の髪をタオルで丁寧に乾かしてくれた。
「ほら、じっとしてろ。風邪ひくぞ」
「……母親かよ」
「彼氏だよ」
その言葉に耳まで真っ赤になり、声も出せなくなる。
乾かし終えると、そのまま俺を布団に引き寄せ、
頭を胸の上に乗せて抱きしめてきた。
若井の心臓の音が、耳元でドクドクと響いている。
「安心する?」
「……ああ」
「なら、このまま寝よ」
「……寝れるわけねーだろ」
「俺もだ」
笑い合いながら、またキス。
軽く触れるだけのキスじゃ物足りなくて、
気づけば何度も唇を重ね合っていた。
「元貴……好きすぎて困る」
「……俺も。困ってる」
「困ってんの?」
「……お前のこと考えると、
胸がぎゅってなる。苦しいくらい」
「それ、俺と全く同じ」
気持ちを確かめ合うように抱き合って、
髪を撫で合って、ずっと離れられない。
夜中、俺が少し震えているのに気づいた若井は、
布団をかけ直して俺をさらに強く抱きしめた。
「なあ元貴、俺にもっと甘えろ」
「……もう甘えてる」
「足りねぇ。もっと」
「わがまま……」
「わがままでいい。
俺が甘やかしたいだけだから」
そう言って、額にも、頬にも、唇にも、
何度も何度もキスを落としてくれる。
「……やめろ、恥ずかしい……」
「かわいすぎて止まんねぇ」
その声を聞いて、ようやく安心して涙が滲んだ。
でも今回は不安や悲しみじゃなくて、
胸いっぱいの幸福で。
「……俺、今すげぇ幸せ」
「俺も」
若井の腕の中で、ようやく眠気が訪れる。
最後にもう一度だけ唇を合わせて、
俺たちは手を繋いだまま眠りについた。