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校舎のあちこちから音が響く中、
ギター部もいよいよ出番を迎える。
準備の合間、俺と若井は控室の隅
でこっそり並んで座っていた。
「なぁ元貴、緊張してる?」
「……ちょっと」
「ほら、昨日あんだけ
練習したんだし大丈夫だって」
若井は俺の手を、
当たり前みたいにそっと握ってくる。
一晩中ぎゅうぎゅうに甘やかされてた俺は、
手を繋がれるだけで一瞬で頬が熱くなる。
「や、やめろよ! ここ人いるし!」
「いいじゃん。手くらい」
「バカ……」
けど、握り返しちゃってる時点で
説得力ゼロだった。
演奏前、ギターを抱えながら、
端に控えていると若井が横からニッと笑う。
「目合わせろ。
緊張してる顔してっと、余計に失敗すんぞ」
「……そういうこと言うなよ」
「大丈夫。俺がいる」
若井がそう囁いて、
俺の背中をポンと叩いてくれる。
それだけで胸のざわざわが一気に消える。
観客席には吹奏楽部の仲間や、
もちろん涼ちゃんの姿も見える。
その中で一番鮮やかに映ったのは、
ステージ脇で俺を見て笑ってる若井だった。
演奏中はもちろん緊張した。
だけどそんなこと忘れるぐらい
光っていた若井が目に入っていた。
会場が拍手に包まれる。
安堵で息を吐いた瞬間、
若井がステージ上で俺の肩を抱き寄せてきた。
「お疲れ、よくやったな」
「おい、ここステージだぞ!」
「別にいいだろ」
観客の前であっさり距離を詰めてくる若井。
俺の顔は一瞬で真っ赤になって、
袖に引っ張られながら退場する。
部室で軽く打ち上げが始まる。
他のメンバーがワイワイしてる横で、
若井は俺にだけドリンクを渡してきた。
「ほら、のど乾いただろ」
「ありがと」
「昨日寝不足だろ? 顔に出てんぞ」
「ばっ……お前、何でそんな知ってんだよ」
「一緒に寝たからな」
「ぶっ……!」
思わず吹き出しそうになった俺の様子に、
周りの何人かが首をかしげる。
「え? 一緒に寝たって何?」
「……お、おい若井!!」
「え、いや……」
若井はニヤニヤしながら黙る。
代わりに俺が真っ赤になって
しどろもどろになってるのを見て、
部員の一人がにやっと笑った。
「……お前ら、もしかして付き合ってんの?」
部室に一瞬、妙な空気が走る。
俺は慌てて首を振るけど、
若井は否定する気ゼロの顔で、
むしろ俺の肩に手を回してきた。
「さぁな」
「っ!?」
「どう思う?」
周りは「えぇー!?」「まじかよ!」と騒ぎ出す。
俺は耳まで真っ赤で声も出ない。
ただ、隣で悪戯っぽく笑う若井の横顔を見て、
――もう否定できなくなっていた。