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【飲ませたの誰だよ】
楽屋に戻ってきた滉人が見たのは、カオスだった。
床に倒れ込んでる元貴。
その隣でカメラマンとマネージャーが腹を抱えて笑っている。
「なにがあった」
滉人が眉を寄せると、スタッフの一人が涙を拭きながら答えた。
「いやー…ごめん、滉人。元貴くんさ、シャンパン1杯で出来上がっちゃって……その後、焼酎とウイスキーを“オレンジジュース”って思い込んでゴクゴク」
「嘘だろ」
「いや、真実。見てみ?」
滉人が元貴の前にしゃがみ込むと、彼は目をとろんとさせながら嬉しそうに笑った。
「あー、若井だぁー」
「……なにそれ、新種の告白?」
「ちがうよー。若井がいちばーん、だいすきなんだよー!」
スタッフたちがまた爆笑する。
「マジで殺人級じゃん…なにこれかわいすぎんだろ……」
「あっ、録っとけばよかった~~」
滉人は天を仰いだ。
こいつを放って帰るわけにもいかないが、連れて帰ったら最後、絶対理性がもたない。
「……おい、元貴。歩ける?」
「あるけるよー、ほらっ!」
そう言って立ち上がり、1秒後に倒れた。
「うわっ」
滉人が反射的に抱きとめる。
その瞬間、元貴が満面の笑みで言った。
「おもちかえりされるぅ♡」
「なんだよそのセリフ……」
スタッフ全員、腹筋崩壊。
⸻
そして、夜。
滉人は元貴をどうにか家まで連れ帰った。
途中でコンビニに寄って水とスポーツドリンク、カップうどんを買い込み、彼のソファに寝かせた。
「ほら、水。飲める?」
「んー、若井飲ませてよー」
「………おまえ、明日ちゃんと覚えてろよ」
滉人はペットボトルの蓋を開け、彼の口に当ててやる。
元貴は一口飲んだ後、ほけっと滉人を見つめた。
「……んー、やっぱ若井の顔すきぃ」
「知ってる」
「だいすきぃ」
「知ってる」
「いまちょっと……ちゅーしてみたいかも……」
滉人の耳が真っ赤になった。
「だめだ、寝ろ」
「けち!」
とぐずり始めたので、滉人は内心の理性警報を無視して、元貴を布団に連れていった。
「せめて風呂入ってから寝ろよ。酔いさめるから」
「いっしょにはいってよー」
「おまえ酔ってるのわかっててそれ言ってるだろ」
⸻
そしてその夜。
風呂上がり、部屋着に着替えた元貴は、ふにゃふにゃの顔でベッドに入り込んだ。
滉人は隣の床に寝ようとすると、彼がシーツごと引っ張る。
「変な事しないから一緒に寝てよ」
「…変な事するのは基本的に俺だけど」
「じゃあする?」
「さあな」
返事をしつつ、滉人はベッドに体を沈めた。
すると、元貴が腕を絡め、ほっぺたをぴとっと寄せてくる。
「ね、だいすき……」
「……あのな、酔ってるときに言われても信用ならん」
「じゃあ……しらふのときにもっかい、いってあげるから……いまはこのまま…」
「……しゃーねえな」
滉人は彼を優しく抱きしめた。
体温が、香りが、鼓動が、近い。
甘くて、柔らかくて、全身がとけていきそうな夜だった。
元貴の指がシャツの裾をそっと掴み、彼の唇が滉人の首に触れる。
「若井……好きすぎて、しぬ……」
「死ぬな。おまえは生きて、俺の隣でうるさくしてろ」
「やさしい……若井やさしい……」
と言って、数秒後には寝息を立て始めた。
滉人はその髪を撫でながら、ひとつだけ心に誓った。
「もう二度と酒なんか飲ませねぇ」
そしてもう一つ。
「……次は、しらふの時に、ちゃんと口説いてやる」
⸻
翌朝
「……なんか、記憶がすごい飛んでるんだけど……なにか変なこと言ってなかった?」
「うん? “若井、ちゅーしてぇー”とか、“おもちかえりされるぅ♡”とか?」
「うわああああああああああ」
「録音してるよ」
「殺して」
「やだ、かわいかったから永久保存」
元貴は顔を布団に埋めて、しばらく動かなかった。