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【飲ませたの誰だよ2】
「あの可愛さは、犯罪だったよな」
「うん。あれはもう芸術」
某ライブイベントの打ち上げ前、スタッフ控室。
数名の関係者たちが、妙に真剣な顔で前回の“事件”の動画を見返していた。
「これさ……もう一回、見たくない?」
「うん。生で」
「……やるか」
「やる」
かくして、密やかな計画が立ち上がった。
⸻
「警戒モード元貴」
その夜の打ち上げ、元貴は完全防御態勢だった。
「僕、ウーロン茶で大丈夫です」
「これはなに?ほんとにジュース?」
「焼酎割ってるでしょこれ、わかるんだからね」
とにかく疑う。
スタッフ一同、笑いを堪えるのに必死。
(ちくしょう、可愛さの矛先が鋭利になってる……)
(防御力高すぎて逆に萌える……)
だが、仕掛け人は一枚上手だった。
「元貴くん、これ新しい炭酸水。流行ってるんだよ~。完全ノンアル」
「へぇ~、ありがとう。いただきます」
スタッフ全員(よしっ!!!!!!!)
正確にはそれ、アルコール2%の“クラフトチューハイ”だった。
ラベルを剥がして、炭酸水のボトルに詰め替えてあるという犯行の手際。
⸻
【変化は唐突に】
20分後。
元貴の目がとろんとしてきた。
「……ん、なんか、あっちー、へへ」
(きた)
「ねえ、ねえ……この椅子、すっごいやさしい……」
(いや、それ普通のパイプ椅子)
「へっへへへ……なんかさ、若井の声、きこえた気がする……」
(幻聴きてるーーー!!!)
「これ、絶対若井の匂いする……」
(椅子に!?)
そして──
「ねぇぇぇ、若井ーーー、どこーー?」
その場のスタッフたち、全員、声を出さずに机に突っ伏した。
可愛すぎて騒げない
笑いを堪えるのに必死で泣きそう
どうしよう保存用・布教用・個人鑑賞用に3台カメラ回ってる
⸻
「そして彼が現れる」
──ドアが開いた。
「……あれ?元貴、ここにいるって聞いたんだけど」
滉人が顔を出した瞬間、スタッフが全員で止めようとした。
「ひろとくん!入っちゃだめ!!」「今だけはダメ!!!」
だがもう遅い。
「わーかーいー!」
元貴が椅子からずり落ちながら、四つん這いで滉人に突進した。
「え!?うわっちょ、おま──元貴!?おいっ!」
「ねえねえねえ、若井、ねぇ、すき……いまめっちゃすき、やばい、やばいやばい!」
「……おまえ、また酔ってんのか……」
「ちがうって、これはね?若井くんのせいだからねー」
「意味わかんねえ」
⸻
スタッフが事情を説明するも、滉人は頭を抱えるだけだった。
「……で、誰が飲ませた?」
「…………し、しらないでーす…」
「カメラはどこだ」
「さ、さあ?」
結局、滉人は元貴をおぶって車に乗せた。
「あれ、若井……またおもちかえりー?」
「俺が連れて帰るのが前提になってるのなんなの」
「うへへ」
「……おまえ、しらふの時どんだけ塩対応だったか自覚ある?」
「しらなーい」
⸻
翌朝
「………………最悪だ」
「おはよう」
「最悪だ……また言ったの、僕……?」
「“椅子が俺の匂いする”って言ってた」
「意味わからないし恥ずかしすぎて呼吸できない」
「“若井大好き”って」
「殺して」
「かわいかったよ」
「……録ってないよね?」
「さあ」
その日、滉人はスタッフから3つのUSBを渡された。
ラベルにはそれぞれ、
• 『保存用』
• 『観賞用』
• 『ひろとの元気ない日に渡す用』
と記されていた。
⸻
おまけ・スタッフの本音
「あれはもう、ファンに見せたいんじゃない。世界遺産に登録してほしい」
「“塩対応からの激甘暴走”ってギャップ、兵器じゃん?」
「次はカメラ、360度で仕込むべき」
「……っていうか滉人、あれどうにかしてくれない?尊すぎて業務に支障が……」
今日もミセスの周りは幸せだった。