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「アチチ! くっそー、このままじゃ、暑さにやられる! なんとか涼しいところを見つけないと! ……うん? シロ?」
「? シロ?」
「ニャ―……」
焦熱地獄の凄まじい暑さで、音星とフラフラ歩いていると、シロは小さな白い花が、一輪だけ咲いているそこそこ広い大地の方を向いている。
シロはそのまま。そっちへトコトコと歩いて行ってしまった。時折、立ち止まっては、こちらへ振り向いてから「ニャ―」と鳴いている。
まるで、俺にはシロが早くこっちへ来いと言っているようにもとれた。
「良かった! シロ! ありがとな!」
「火端さん! どうしたのですか?」
「音星。シロを追うぞ! シロが安全で涼しいところを見つけてくれたんだ! このままじゃ、俺たちの命に関わる!」
「はい!」
俺は慎重に音星の腕を引き寄せてから、熱鉄のかまや、獄卒たちを避けて、走り出した。
だけど、涼しい大地までかなりの距離がある。
俺たちは、段々命懸けになってきた。
空気が熱くて、走っていながら、息が大きく吸えなくなった。
肺が焼けるようだ。
「ハッ、ハッ、ハッ、アッツーー!」
「フウ、フウ、火端さん……やはり焦熱地獄から下層は、人間では無理なのかも知れませんね」
「いや、なんとか……なるさ……きっと」
「ふふ……さすがです。火端さん。弥生さんが早くに見つかるといいですね」
熱鉄のかまが、所狭しとある道へと差し掛かった。
小さい体のシロは至って、困らない。
だけど、俺たちには、これから狭い道を走って行かないといけない。そのことがひどく困難だった。
熱鉄のかまに、あやまって少しでも触れてしまうと、大やけどになる。
島全体の焼けるような高熱も、ほとんど耐えることができなくなってきたてしまった。
そんな中。
シロは、俺たちを置いて、一直線に走って行ってしまった。
「そんなあー、まあ、いっか……。音星。これから狭い道を走るから、気を付けて」
「ええ」
急に地面の温度が上昇する。気温が更に上がって、真っ赤に焼けた熱鉄のかまが高熱を帯びだした。その間を、俺は音星の手を握り慎重に走る。周囲はごぼごぼと凄まじい白い煙。いや、大勢の半透明な人型の魂の目、鼻、口から湯気が立ちのぼっている。
熱でやられて、クラクラしてきた。
大量の汗の掻き過ぎで、足がフラフラする。
音星も俺の手をギュッと、握りしめていて、無言だった。
音星のひどく汗ばんでいる手が、こちらも辛くなるほどだぜ。
でも、その時。
その湯気の向こう側に、幻が見えた。
俺には、それが他でもない。
妹の弥生に見えた……。
「や、弥生……今、そこへ行くぞ……」
ドンッと、空気が割れたような音が木霊する。
遥か遠くの巨大な火柱が増えた。
まだまだ熱くなっていく。
「……火端さん? シロが……」
俺と同じく汗を掻き過ぎている音星が、か細い声を発した。
音星が倒れ込みそうになりながら、白い花が咲いている大地の方を指差している。そっちを向くと、シロが木でできた水差しを咥えてこちらに走ってきていた。
「ニャー」
「シ……ロ……?」
シロはその水差しを俺たちの前に置いて、ちょこんと座り込んだ。
あれ? 水分補給ならクーラーバッグに冷たい飲み物があるから、もう間に合ってるが?
辺りはその間も、凄い熱だ。
ジュウジュウと、至る所から蒸発する音がしている。
「火端……さん? きっと、シロは応援して……くれてるんですよ……」
息も絶え絶えの音星が、額の汗を布袋から取出したピンクのハンカチで拭いながら、シロの気持ちを察してくれた。
「あは……はは……ありがと……な! シロ! ……ハアッ……フウ……」
だけど、俺はその場で熱さでバッタリと崩れ落ちた。
俺は完全に気を失った。
…………
「兄貴?」
どこかから、弥生の声がする。
昔の懐かしさを残した声だ。
「や、弥生!!」
俺は飛び起きた!
そこは、白い花の咲く涼しい花畑だった。
傍には音星とシロが倒れていた。
「こ……ここは?」
「おれ……いや……兄貴。ここで、お別れだ……」
姿は見えないが、弥生の声がどこかからする。
「待て!! 弥生ーーーー!!」
俺はありったけの声で、叫ぶが。
そのまま弥生の声も聞こえなくなった……。