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#曽野舜太
萌
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第四話
大混乱の夢の国!迷子怪人を救え!
ここは、日本中を元気にする夢の国。
ミルキーランド。
青空の下、色とりどりの風船が風に揺れ、甘いポップコーンの香りが園内いっぱいに広がる。
メリーゴーランド(回るのは馬ではなく全てウシ)では子どもたちの笑い声が響き、様々なアトラクションからは楽しそうな歓声。
園内のあちこちでは、ウシをモチーフにしたキャラクターたちが手を振り、子どもたちと写真を撮っていた。
そして今。
陽気な音楽とともに、大人気のパレードがフィナーレを迎える。
「みんなー!今日はありがとーー!!」
華やかな衣装に身を包んだダンサーたち。
その中心で、ひときわ大きくジャンプし、軽々と宙返りを決める青年。
ダイチだ。
キラキラとした笑顔。
しなやかなダンス。
鍛え上げられた身体を活かしたアクロバット。
沿道からは黄色い歓声が飛ぶ。
「ダイチお兄ちゃーーん!!」
「きゃーー!!今日もかっこいいーー!!」
「ありがとなーー!!」
ダイチは子どもたちと次々ハイタッチを交わし、大きく手を振る。
やがて音楽が止み、出演者たちは笑顔のままバックヤードへ。
「今日も大成功やなぁ!」
スタッフ同士で声を掛け合いながら歩いていると。
人混みの中から、小さな泣き声が聞こえた。
「……ママぁ……」
ダイチはピタッと足を止める。
周りの大人たちは、
「あら、迷子かな?」
「誰か呼んだ方がいいんじゃ……」
と気にはしているものの、誰も動かない。
「……。」
考えるより先に、身体が動いていた。
「なぁボク、どうしたん?」
ダイチはしゃがみ込み、男の子と同じ目線になる。
優しく微笑みながら話しかけると、男の子は涙で濡れた顔をゆっくり上げた。
「ママが……いないの……」
しゃくり上げながら言う。
「大丈夫や。一緒にママ探しに行こ?」
男の子は小さく頷き、ダイチの手をぎゅっと握った。
「ほな、迷子センター行こか!」
二人で歩き出す。
すると前方で、大きなウシの着ぐるみが子どもたちに風船を配っていた。
「はいどーぞー!」
「赤がいい人ー!」
「青もあるよー!」
子どもたちは大喜び。
風船を受け取るたびに歓声が上がる。
ミルキーランドの人気マスコット。
ミルミル君。
普段はダイチと同じ園内で働いている。
誰も着ぐるみの中を見たことがない、謎多きキャラクターである。
「あ、ミルミル君やん!」
ダイチが手を振る。
「おー!ダイチ!」
ミルミル君も大きく手を振り返した。
「そんな衣装の格好のままどうしたの?」
「あー、この子迷子やねん。」
「今からセンター連れてくとこ。」
「えっ!そうなの!?」
ミルミル君は男の子の目線までしゃがみ込む。
「すぐママ見つかるからね!」
男の子は少し安心したように頷いた。
「それにしても……」
ミルミル君は腕を組む。
「今日やけに迷子多い気がするんだよね。」
「さっきから迷子のお知らせ、ひっきりなしだし。」
ダイチが耳を澄ます。
確かに。
園内の軽快なBGMの合間に、
「○○ちゃんのお母さま、お父さま……」
と、声が可愛いと評判の迷子センターのお姉さんによる放送が何度も流れていた。
(この子とは特徴違うな。)
「まぁ休日やし、お客さん多いからなぁ。」
「ほなミルミル君も頑張ってな!」
「うん!またねー!」
手を振り合い、ダイチは迷子センターへ向かった。
「ええっ!?うそやろ!?」
センターのドアを開けたダイチは思わず叫んだ。
部屋いっぱいに子ども。
ざっと十人ほど。
「おかあさぁぁん!」
「ぼく帰りたいぃ!」
「あっ!ボール投げた!」
「返せー!」
「ここWi-Fiある?」
スタッフたちが走り回る。
「はい、お水飲もうね!」
「こらー!そこ喧嘩しない!」
「はいはい、泣かないよ〜……」
「なんでここで鬼ごっこ始まるのぉ!?」
まるで保育園状態。
「なんでこんなおるんや……」
ダイチが呆然としていると、放送係のお姉さんがこちらへ駆け寄ってきた。
「もしかして、この子も迷子ですかぁ?」
「うん。……けど今日どないしたん?」
「こんな多いん初めて見たで。」
お姉さんは困ったように笑う。
「そうなんですよぉ。」
「今日は本当に忙しくって!」
それでも彼女は笑顔だった。
「でも私……。」
「親御さんが見つかって、子どもたちが笑顔になる瞬間が大好きなんです。」
「だから早くみんなを帰してあげなくっちゃ!」
そう言ってダイチが連れてきた男の子に、
「誰と来たのかなぁ?」
と優しく話しかけ始めた。
(子ども好きの、ええ子なんやな。)
ダイチは微笑む。
その時。
ドンッ!
一人の子どもがぶつかってきた。
「おっと!」
「走ったら危ないで!」
しゃがんで注意しようとした瞬間。
「………え?」
額に見覚えのある文字。
『滅』
振り返った別の子にも。
『滅』
近くの子の前髪をそっと上げる。
『滅』
「マジか……。」
さらに、今連れて来たお姉さんの隣にいる子。
帽子の下から見える。
『滅』
「なんでこんなに……!?」
ダイチはゆっくり、お姉さんへ目を向ける。
その瞬間。
「………!!!」
綺麗にセットされたシースルーの前髪。
その奥。
子どもたちのスタンプのような文字とは違う。
書道家が揮毫したような、妙に達筆な。
『滅』
「………。」
(大変や……!)
ダイチは慌てて外へ飛び出した。
通信機を取り出す。
「ミルミル君!」
「大変や!」
「とりあえず迷子センターまで来て!」
数分後。
遠くからウシが全力疾走してきた。
「はぁ……はぁ……!」
「牛を走らせるんじゃないよっ!!」
「赤い布ないし!闘牛じゃないんだからさ!」
「この中めっちゃ暑いのよ!!」
息を切らすミルミル君。
ダイチは目を丸くする。
「えっ!?やっぱこれ着ぐるみなん!?」
「え!?ち、違う違う!」
「これは皮膚!」
「牛の?」
「…………。」
「と、とりあえず!」
ミルミル君は強引に話を戻す。
「状況を説明して!」
そしてダイチは今見た出来事を話した。
「う〜ん……なるほど……」
考え込むミルミル君。
「まずは人数も多いし、みんな呼ぼう!」
通信機を取り出し、ボタンを押す。
「……あ、もしもし?」
「ジンちゃん?」
「今日休み?」
「え!?普通に電話してん!?」
「違う違う、グループ通話!」
ミルミル君は慌てて咳払いすると、
「えー、全員に告ぐ!」
「直ちにミルキーランドへ集合してください。」
「緊急事態でーす!!」
園内には相変わらず楽しげな音楽が流れている。
その裏で、また新たな迷子のお知らせが放送されていた。
それから30分ほどで、残りの四人もミルキーランドへ集まった。
休日にも関わらず、朝から喫茶店『Nostalgia』に入り浸っていたハヤトと、ハヤトの愚痴を聞かされていたジント。
二人は園内をのんびり歩きながらやって来る。
「わぁ、ミルキーランド久々だなぁ!」
目を輝かせるハヤト。
「……でも相変わらず人多いな」
ジントは人混みを見て、少し顔をしかめた。
「おっ! 新しいアトラクションできてんじゃん!」
ハヤトが大きな看板を指差す。
「ジント! 後で一緒に乗ろーよ!」
「え、やだよ…。一人で乗れよ」
「え〜ジンちゃん冷たい〜」
「子どもか、お前は」
楽しそうに歩く二人。
その様子を見たミルミル君。
「…………おい君たち。」
「何普通にデートしてんの。」
「はぁあ!? デ、デートじゃねぇし!」
ハヤトが慌てて否定する。
ジントはもう疲れたように遠い目をしていた。
「はいはい、そういうのは後でね。」
ミルミル君は大きくため息をつく。
その時。
「お待たせ〜。」
落ち着いた声。
帽子を深く被り、サングラスで顔を隠したジュウタロウが歩いて来た。
さすがモデル。
ただ歩いて来るだけでサマになっている。
「今日たまたま近くで撮影だったんだよね。」
「終わって帰ろうとしてたところ。」
「そうなんだ〜ありがとね〜!」
ミルミル君が両手を振る。
「最近みんな忙しかったし。」
ジュウタロウは微笑む。
「久しぶりに集まれて嬉しいな。」
相変わらず爽やか王子だった。
そこへ。
「おーーーい!!」
聞き覚えしかない大声。
全員が振り向く。
牛柄のサングラス。
牛の角カチューシャ。
片手には巨大なチュロス。
完全に満喫スタイルのシュンタだった。
「…………」
「…………」
「……おい。」
ハヤトが指差す。
「何だそれ!何普通に遊びに来てんだよ!」
「せや!」
ダイチまで乗っかる。
「こっちは緊急招集やぞ!」
「いやぁ〜。」
シュンタはヘラヘラと笑う。
「ここ来たらテンション上がってもうて。」
「チュロス美味いで?」
「それ今じゃねぇだろ!」
「もうお前帰れ!」
「……あ、それ一口ちょうだい」
「ええで!ジュウこれ好きやもんな?」
「…………。」
「……とりあえず状況説明するから!」
ミルミル君がパンパンと手を叩いた。
-–
事情を聞き終えると、ジントが一人で迷子センターへ向かった。
「ちょっと見てくる。」
静かに扉を開ける。
数十秒後。
戻ってきたジントの表情は、さっきまでとは違っていた。
眉間に皺を寄せ、真面目な顔をしている。
「あんな達筆な『滅』……見たことない。」
「もしかして。」
ミルミル君を見る。
ミルミル君も頷いた。
「ブラック滅軍団のメンバーかもしれない。」
空気が少しだけ張りつめる。
ミルミル君は端末を取り出した。
「これまで確認されてる軍団員。」
写真が数枚映る。
どれも額には、力強く筆で書いたような『滅』。
「あ、ほんまや。」
ダイチが覗き込む。
「怪人とは全然違う。」
「一人一人微妙に字が違うな。」
ハヤトが言う。
「誰かが直接書いてるとか?」
「軍団の幹部とかかなぁ。」
シュンタが首を傾げた。
そこでジュウタロウが口を開く。
「でもさ。」
「子どもたちは?」
「どうやって怪人になったの?」
全員が黙る。
確かに。
そこだけが分からない。
その時だった。
迷子センターのドアが開く。
「よかったねぇ!」
お姉さんが一人の男の子と一緒に出てきた。
迎えに来た両親へ笑顔で子どもを渡す。
「もう迷子になっちゃダメだよぉ〜!」
「はーい!」
男の子は元気よく手を振る。
「バイバーイ!」
お姉さんも嬉しそうに手を振る。
その笑顔は、本当に優しかった。
誰もがそう思った。
しかし次の瞬間だった。
お姉さんの瞳がほんの一瞬。
黒く光る。
「!」
ジントが息を呑む。
視線の先。
母親と手を繋いで歩く、小さな女の子。
「ママ!最初あれ乗るー!」
楽しそうに笑っている。
その時。
ふっ……
繋いでいた手が、まるで最初から繋がっていなかったかのように、
するりと離れた。
母親は人混みに消える。
取り残される女の子。
きょろきょろ。
「……ママ?」
不安そうな声。
そして。
ぽろり。
涙がこぼれた。
額に『滅』の文字が浮かぶ。
全員が固まる。
お姉さんは満足そうにほんの少しだけ微笑むと、何事もなかったようにセンターへ戻っていく。
泣き出した女の子は、近くにいた大人が手を引き、そのまま迷子センターへ。
「あらあら〜!」
お姉さんの明るい声が響く。
「迷子ですかぁ?」
さっきと全く同じ笑顔だった。
「…………」
誰も口を開けない。
やがて。
「……そういうことか。」
ハヤトが低く呟く。
「彼女が子どもたちを”迷子怪人”にしてる……。」
ジントも扉を見つめたまま言う。
ジュウタロウとシュンタも複雑な顔をしている。
その中で。
ダイチだけは俯いたまま、
小さく拳を握っていた。
(なんで……。)
優しい人ほど、誰かを助けたいって思うのに。
その気持ちを利用するなんて。
それだけは、どうしても許せなかった。
「ほらっ!」
シュンタが空気を変えるようにパンっと手を叩いた。
「俺らにしかできんこと、あるやろ!」
「ふっ……」
「そんなカッコで言われても説得力ないわ。」
ジントが思わず吹き出す。
「マジ決まんねぇな。」
ハヤトも笑う。
「でも似合ってるよ」
ジュウタロウも微笑む。
そして
「……シュンタの言う通りや……!」
ダイチが顔を上げる。
その瞳には強い光が宿っていた。
「変身するで!」
全員で顔を見合わせ、頷いた。
一斉に通信機の変身ボタンを押す。
🩷💛💙🤍❤️
五色の光が園内を照らし、その中心から、ヒーロースーツに身を包んだ五人が現れた。
「おぉ〜!」
ミルミル君が嬉しそうに拍手する。
「なんか久々でテンション上がるねぇ!」
レッドが拳を突き上げた。
「五人揃ったし、今日はちゃんとポーズと名乗りやるで!」
「えっ、今日センター誰の番だっけ?」
ピンクが首を傾げる。
「今日は場所的にブルーでいいんじゃね?」
イエローが言う。
「うんうん、ブルー決めちゃって。」
ホワイトも頷く。
「おっ、ええの!?」
ブルーは嬉しそうに前へ出る。
大きく息を吸い込み、
「俺たちは!」
「街の平和を守る!」
「スーパー!」
「ヒーロー!」
全員で息を合わせ、
🩷💛💙🤍❤️
「「「「「爆裂戦隊!!」」」」」
ビシッ!!
🩷💛💙🤍❤️
「「「「「M!LKレンジャー!!!!!」」」」」
五人同時にポーズを決めた。
その瞬間。
「わぁぁ!!」
「ミルクレンジャーだー!!」
「写真撮ってー!!」
気付けば周りは子どもたちや家族連れでいっぱいだった。
さすがミルキーランド。
ヒーローショーと勘違いしたお客さんまで集まってくる。
「ブルーかっこいい!」
「ホワイト〜手振ってー!」
「イエローかわいいー!」
照れくさそうに手を振る五人。
「はいはい、写真撮るからもうちょいそのまま〜!」
ミルミル君は慣れた手つきでスマホを構える。
「報告書用ねー。」
パシャ。
パシャ。
「はいオッケー!」
「じゃあ、みんな!やっちゃって!」
その一言で、五人は一斉駆け出した。
バァン!!
勢いよく迷子センターのドアが開く。
「えっ!?」
スタッフも子どもたちも一斉に振り返る。
突然現れた五人のヒーロー。
「ヒーローだー!!」
子どもたちは大騒ぎ。
そんな中、イエローがお姉さんの前で立ち止まった。
「あの。」
静かな声。
「あなたが子どもたちを、わざと迷子にしてるんですよね?」
突然の言葉に、お姉さんは目を丸くする。
「え……?」
「何のことですかぁ?」
今度はピンクが前へ出る。
「俺たち見ました。」
「あなたが子どもを見つめたあと、その子のおでこに文字が浮かぶところ。」
「……。」
お姉さんは黙ったまま。
ホワイトがゆっくり近付く。
「少し失礼しますね。」
優しく微笑みながら前髪をそっと上げた。
そこに現れたのは、達筆な『滅』。
「あっ……。」
思わず顔を赤くするお姉さん。
「お話、聞かせてもらえますか?」
ホワイトが穏やかに尋ねる。
その笑顔に、お姉さんは観念したように小さく頷いた。
その様子を見て、
「……なんかズルない?」
レッドがぼやく。
「まぁホワイトは顔が武器みたいなもんだから。」
ミルミル君は納得顔。
「でもスーツで顔見えへんはずなんやけどなぁ……。」
ブルーだけ最後まで不思議そうだった。
お姉さんは椅子へ腰掛け、小さく話し始めた。
「私……昔から子どもが大好きで……。」
「この仕事も、本当に大好きなんです。」
伏せられた瞳が揺れている。
「迷子だった子が親御さんに会えた時の笑顔を見ると……」
「私が助けたんだって嬉しくて……。」
「だからもっと……もっとたくさん助けたいって思うようになって……。」
そして昨日。
黒ずくめの男に出会ったこと。
『もっと子どもを助けたくないか。』
そう言われ、額へ”おまじない”を書かれたこと。
それを静かに話し終えた。
ブルーは拳を握る。
優しい人が、優しい気持ちを利用される。
それが一番許せなかった。
「なぁ、お姉さん。」
ブルーがゆっくり声を掛ける。
「周り、見てみ。」
言われるまま視線を向ける。
泣いている子。
不安そうな子。
疲れ切ったスタッフ。
必死に子どもを探す保護者。
そこにあるのは、笑顔ではなかった。
「……。」
「助けたいって気持ちは、ほんまにええことや。」
「でもな。」
「一番大事なんは、迷子にならへんことやと思うねん。」
その一言で。
お姉さんの瞳から涙があふれた。
「私……。」
「間違ってました……。」
「自分が助けたいって気持ちばっかりで……。」
「子どもたちを悲しませてた……。」
ぽろぽろ涙が落ちる。
額の『滅』が、ゆっくりと薄くなっていく。
「よし!」
ブルーが四人を振り返る。
「最後や!」
「ヒーローらしく、全員で必殺技決めるで!」
「……で?」
イエローが首を傾げた。
「何する?」
「……。」
「……。」
「……。」
全員沈黙。
そこでレッドが指を立てる。
「ほら!」
「必殺技言うたら、なんか手とか合わせてピカー光らせるのが定番ちゃう?」
「なんだその適当な必殺技。」
イエローが即突っ込む。
「でも俺ら、いつも適当じゃん。」
ホワイトが真顔で言う。
「……確かに。」
全員納得。
「写真映えもしそうだし、まずそれやってみてよ!」
ミルミル君が促した。
「じゃあほな、やるで!」
五人は自然と円陣を組む。
手を重ねる。
一枚。
また一枚。
そして最後の一枚。
「俺たちは!」
「爆裂戦隊!」
「「「「「ミルクレンジャー!!!」」」」」
ピカーーーー!!🩷💛💙🤍❤️
五色の光が迷子センターいっぱいに広がる。
優しく、暖かく、包み込むような光。
その光に触れた瞬間、
お姉さんと子どもたち全員の額から、
『滅』の文字がすぅっと消えていった。
その後。
最後の迷子も家族の元へ帰り、迷子センターには静かな時間が戻っていた。
お姉さんは深々と頭を下げる。
「ありがとうございました。」
「これからは……。」
「迷子になってから助けるんじゃなくて。」
「最初から最後まで、子どもたちと親御さんが笑顔で過ごせるように頑張ります!」
その笑顔は、今度こそ本物だった。
「みんな、お疲れさま〜!」
ミルミル君が手を振る。
「今日の最後の必殺技、良かったよ!」
「報告書にもちゃんと書いとくね!」
満足そうに頷く。
そして。
「せっかくだし、この後遊んで帰りなよ!」
「入園料とアトラクション代は経費で落としとくから!」
「ホンマ!?」
シュンタの目が輝く。
「じゃあこのカチューシャとチュロスとお土産も経費で!」
「それは自腹。」
一秒で撃沈した。
「え〜ケチ〜。」
すると
「俺も久々だし。」
ジュウタロウが笑う。
「シュンタ、一緒に回ろ。」
「わーい行く行く!」
二人は楽しそうに歩いていった。
「なぁ!」
今度はハヤト。
「俺らも遊ぼうぜ!」
「……少しだけだからな。」
ジントが苦笑する。
その時。
「ジント。」
ダイチが呼び止めた。
「仕事終わったらさ。」
「今日、お前んとこ寄ってもええ?」
ジントは優しく笑う。
「うん。待ってる。」
その一言だけで、ダイチは満面の笑みになった。
「よっしゃ!午後のパレードも頑張るで!」
「二人とも見てってな!」
「もちろん!」
ハヤトも大きく手を振る
「特等席から応援してる!」
◇
夕焼けに染まる帰り道。
「なぁ、この後も……」
「ダメ。」
「えっ!?まだ何も言ってない!」
「どうせ『店行っていい?』だろ。」
「……なんで分かったの。」
「朝からいたじゃん。」
「えぇ〜。」
「せっかく休みなんだから、もうちょっとジントといたいのに〜。」
「明日仕事だろ。」
ジントは笑う。
「今日は家でちゃんと休め。」
「また仕事終わってから来るの、待ってるから。」
ハヤトは少しだけ照れくさそうに笑った。
「……それなら。」
「明日も頑張るしかないか。」
夕焼けの空の下。
二人は並んで駅へ向かって歩いていった。
◇
カランカラン。
乾いた音が静かな店内に響く。
「お疲れ〜」
閉店間際。
誰も客のいない喫茶店『Nostalgia』に、ダイチが入ってきた。
さすがに一日中パレードで踊っていた疲れが顔に滲んでいる。
「お〜、お疲れ様」
ジントは笑って迎えると、慣れた手つきでコーヒーを淹れ始めた。
「閉店間際にゴメンな」
少し申し訳なさそうにダイチが言う。
ジントは肩をすくめた。
「いつものことだろ。それに、もっと厄介なヤツもいるし」
「確かにな」
二人で顔を見合わせて笑う。
湯気を立てるコーヒーが静かに置かれた。
「いただきます」
ダイチは一口飲む。
そして、ふっと頬を緩めた。
「俺、前はコーヒー飲めんかったのに、ジントの淹れたコーヒーだけは飲めるわ」
「不思議やな」
ジントは少し得意げに笑う。
「それは俺が、ダイチに美味しく飲んでほしいって思って淹れてるからだな」
「なんやそれ」
思わず吹き出すダイチ。
穏やかな笑い声が店内に広がる。
少しして。
「にしてもさ」
ジントがコーヒーカップを眺めながら口を開いた。
「初めて会った時のこと思い出すな」
「あぁ、あのスーパーで?」
「そうそう。あの時もダイチ、迷子助けてたじゃん」
「あ〜懐かしいなぁ」
「あれがきっかけでオレら知り合ったもんなぁ」
「あの時もダイチ、ヒーローぽかった」
「えぇそう?」
ダイチが照れたように頭を掻く。
「そういうとこ、スゴイな。」
ジントは柔らかく目を細めた。
「でもまさか……その後一緒に本物のヒーローやるなんて思わなかったけどな」
ダイチは静かに頷く。
そして柔らかく笑った。
「……せやな」
「でも俺は、ジントに出会えてホンマによかった思っとるで」
その笑顔に。
ジントは思わず視線を逸らした。
耳がほんの少し赤い。
「……何だよ今日は。調子狂うな……」
「ははっ!」
ダイチは嬉しそうに笑う。
「ハヤトがおらんくて良かったわ」
「何それ。どういう意味?」
「ん〜、なんでも〜」
「気持ちわりーな……」
「まぁええやん」
コーヒーを飲み干したダイチは、椅子にもたれた。
「俺、明日オフやし、もうちょいここでゆっくりして帰るわ」
「え〜……飲んだらさっさと帰れよ」
「ん〜、もうちょっと居させてぇや」
「はぁ〜……」
大きなため息をつくジント。
「マジお前も誰かに迎えに来てもらうか?」
「ミルミル君とか」
「ははっ!ミルミル君、俺の保護者なん?」
ダイチは笑う。
「まぁ確かに、それっぽいけどなぁ」
「あれが親なら、お前もウシだぞ?」
「モォ〜、俺はあんな暑いの着れんし」
「……え、やっぱ着ぐるみなのアレ?」
「さぁ〜?」
二人は顔を見合わせて笑った。
閉店の札が掛かった静かな店内。
コーヒーの香りと、他愛ない笑い声だけが、ゆっくりと夜へ溶けていく。
今日もまた、誰かの一日が少しだけ優しく終わる。
喫茶店『Nostalgia』は、そんな場所だった。
第六話 終わり
今回もお読みいただきありがとうございました💖
物凄〜く長くなってしまいすみません💦
なんか当初自分で想像していた物語とは違う方向に向かいつつあるような気がしますが😅
前回ドロッドロのストーリーを書きたいと言っていましたが、最近素敵な作者様達が最高のお話を色々提供してくださるので、ここでは健全な💙さんを書かせて頂きました☺️
もし何かリクエストなどあれば全然お応えしますので(ご希望に添えるかはわかりませんが💦)コメントなどお気軽にお寄せください😆✨
コメント
7件
みんながジントのお店でコーヒーを飲んで癒されてるのをみてこっちも幸せになっちゃいました🤭︎💕 さのじんのイチャイチャも塩レのほんわかな空気も癒されますねぇ
comiさん、更新ありがとうございます(,,> <,,)朝途中までしか読めなかったので、早く読みたくて仕事中そわそわしていました(←仕事しろ笑)。今回も終始笑いっぱなしで楽しかったです!それと、塩レのほんわか雰囲気に癒されました…(◦ˉ ˘ ˉ◦)ヨキ♥ 今気付いたのですが、前話の存在を知らなかった…!(ᐡ߹𖥦߹ᐡ )後ほど楽しませていただきます~(,,> <,,)♥
うわああああ読んだ読んだ〜!!😭💕💕 第6話めっちゃ良かった!! 迷子怪人の謎がお姉さんの優しさを悪用した話だったのが切なくて、でもブルー(ダイチ)の「迷子にならへんことが大事」って言葉にグッときた…! 最後の五色の光で文字消すシーン、めっちゃ胸熱だったよ🔥✨ しかも終わり方、コーヒー店の2人の空気感がエモすぎて夜にじんわり沁みた…💖 次も楽しみにしてるね!!