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日本国、九州南部に有る鹿児島県に属する屋久島。その屋久島の森で標高五百メートルを超えると杉林が見られ、これは現存する最大の杉の群生地とも呼ばれている。特色としては、樹齢千年を越える長寿の杉木が多数確認されており、これらの高齢杉を屋久杉と呼称し、数百年の若木は小杉と称されている。
その中でも最大級のものが標高千三百メートル付近に存在する縄文杉である。幹周十六メートル、樹高三十メートル。樹齢に至っては諸説有るものの推定では三千年年以上と言う破格の老大木である。
この縄文杉と豊かな自然は見るものを圧倒しつつも悠久の歴史の重みを感じさせ、また同時にどこか安心感を与える存在として日本有数の観光地として知られている。
一定数存在するマナーの悪い観光客など問題も抱えているものの、彼らは今も人々の営みを見守っている。
さて、ティナ達が訪問することになった屋久島ではあるが当然ながら大騒ぎになっていた。島民はもちろん、大勢の観光客が島に滞在しており直ぐ様厳戒態勢を整えるのは不可能と言えた。しかもタイムリミットは僅か二時間である。
だが、それでも政府主導でできる限りの準備が行われていた。
現地警察署は非番も総動員して島全体の警備を強化し、鹿児島県警を筆頭に近隣からの迅速な人員の派遣に奔走していた。これはティナ達がどれだけ滞在するか分からないための措置であるが、宿泊施設の手配だけは後回しにされた。ティナ達の宿泊地は旅館やすらぎのままであり、瞬時に移動できる手段がある以上現地での宿泊の可能性は想定する必要はないと判断したためである。
もちろん万が一望まれた場合に備えて、ホテルのスィートルームは予備として一室準備はされているが。
現地観光に備えてガイドも手配され、突然の来訪によるパニックを軽減するため島全体にティナ達の来訪を知らせた。
もちろん警備や防諜の観点から言えばあまり推奨されるものではないが、急な決定のための苦肉の策である。
とは言え屋久杉が群生する森は標高五百メートル、縄文杉に至っては千三百メートルであり、陸路では数時間の時間を要するので前もって現場を警備するのは物理的に不可能である。
ドローンを多用して監視態勢を強化しつつ、ティナ達には一旦屋久島警察署に来て貰い、そこからガイドや警備の警察官を伴って観光地へ向かって貰うよう計画が組まれた。
これならば少ない警備力も十分に機能するし、ガイドを通じてティナ達の行動をある程度コントロールすることが出来る。警備の観点から見ても現時点での最良と言えた。
僅か二時間足らずでこれほどの準備や計画を立てた政府や現地関係者達の尽力は表彰ものである。しかし、この努力はほとんど無意味となってしまった。
カレンの乱入によりティナが予定を早めたこと、異星人交流の最前線に立つジョン=ケラーの娘の存在。何より計画を伝える前にティナ達が現地入りしたのが最大の問題となった。
ティナ達は転移によって直接縄文杉の目の前に現れたのである。これによってあらゆる計画がご破算となってしまった。
縄文杉周辺。縄文杉の根を痛めないようにウッドデッキが設置されており、壮大な自然の中に佇むその巨体は見るものに悠久の歴史と、安らぎを与える。
「あれ?いつの間にか誰かいるぞ?」
「ニュースで見たわ!ほら!宇宙人の!」
「ティナちゃんか!?」
「マジかよ、生で見られるなんて」
「怪我は大丈夫なのかな?」
「日本に来てるって話だったから、観光かな?」
「さっきの放送、本当だったんだなぁ」
「取り敢えず動画撮ろう」
「待った、噂を聞いてないのか?勝手に撮ったら端末を壊されるって話だぜ?」
「なんだよそれ?」
「ああ、合衆国で流れてる噂だよ。昨日の事故でも、怪我したティナちゃんを面白おかしく実況してた奴がアカウントをBANされて個人情報全てを晒されてたろ」
「今朝のニュースになってたな。彼女達の肖像権はかなり特殊だから、ちゃんと許可を貰えって政府が言ってたし」
「は?意味わかんねぇ。俺は撮るからな」
周囲には観光客も多数居たが、事前に通達されていたこともあってパニックは起きなかった。彼ら彼女らはティナ達を遠巻きに見つめているだけだ。
「あれ?はっ!?なんだよこれ!?」
「だから言ったのに」
警告を無視して無断で動画を、それも明らかにフェルやカレンの胸部などを撮影しようとした青年の端末が機能を停止。彼は知るよしもないが、今この瞬間彼のあらゆる情報がネット上にばら蒔かれている。元々炎上系の配信を行っていたこともあり、彼の配信者としての活動は終わりを迎える。
代わりに、青年に注意した男性は“礼儀正しく勇気有る模範的な地球人”と題された謎の動画があらゆる動画サイトにアップロードされて世間を賑わせることになる。
尚、余談だがこれらの動画は何故か運営側すら削除できず、別の意味でも話題となっている。
周辺の騒ぎを気にすることなく、ティナ達は雄大な自然と老木を見つめていた。
「樹齢は諸説有るけど、三千年以上だと推定されているみたいだね」
「はぇー、三千年かぁ。女王陛下より長生きだね☆」
「ばっちゃんの三倍だよ」
「つまり私もまだまだ若いって証明されたね☆」
「まだまだ若い(千歳)だけどね」
「一言余計だよ☆」
「ねえねえ、ティナ」
「どしたの?カレン」
「地球には古い木がたくさんあるけど、アードにはあるの?」
「え?どうかなぁ」
「アードは基本的にツリーハウスだから、どの木も長生きだよ☆まあでも、長くて千年くらいかなぁ」
「へぇ~……」
「あれ?フェル?」
ティリスの説明を聞いているカレンを他所に、フェルがゆっくりとウッドデッキから飛び上がり縄文杉へ近付いていく。
ティナの声にも答えず、フェルはそのままそっと縄文杉に触れて目を閉じる。
すると彼女の体が淡い緑色の光に包まれ、同時に縄文杉も光を帯びる。その現実離れした幻想的な光景に誰もが息をのみ。
「そう言えば、極一部のリーフ人は草木と言葉を交わすことが出来るんだったかなぁ」
「「え?」」
ティリスの呟きにティナとカレンが反応するのだった。